【コラム】西尾市PFI見直し問題の行方―PFI事業とは何か?(2021-04-29)

 地方自治体でのPFI事業が増加傾向にあるなか、愛知県西尾市ではPFI事業見直しを巡って市と民間事業者が対立し、4年近くも膠着状態が続いている。事の発端は、2017年6月の市長選挙で、西尾市が2016年6月にスタートしたPFI事業の見直し推進派の中村健氏が当選したこと。契約済みのPFI事業の見直しを一方的に進める市の対応に民間事業者は訴訟で対抗。解決の糸口が見えないまま、因縁の市長選挙が目前の2021年6月に迫っている。

 筆者は2015年から西尾市のPFI事業を取材しており、定期的に記事に取り上げてきた。地方自治体のPFI事業は、今月中旬に公募が締め切られた「スーパーシティ型国家戦略特区」に31団体が名乗りを上げたように、今後ますます活発化する可能性が高い。西尾市のケースを通じて「PFI事業とは何か?」を改めて考えてみる。

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税財政悪化による公共事業削減をPFI事業でカバー?

 公共と民間が連携して公共サービスの提供を行う手法をPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ:公民連携)と言い、その代表的な手法がPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ:民間資金活用型公共事業)である。日本でも、1999年7月に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI法)が制定されて20年以上が経過したが、いまだに十分な理解が得られていないのではないだろうか。

 筆者がPFI問題に関わるようになったのは建設省(現・国土交通省)記者クラブに1996年に着任して早々だった。当時は、国や地方の財政悪化が進む中で、工事量の確保を図りたい建設業界が、英国など欧米で導入されていたPFIを日本にも導入しようと各方面に働きかけていた。その結果、自民党議員を中心とした議員立法でPFI法が成立し、日本にもPFIが導入されることになったわけだ。

 1999年10月に内閣府に有識者によるPFI推進委員会(座長・樋口廣太郎アサヒビール取締役相談役名誉会長=当時)が設置され、PFIを推進するための基盤整備を進めることになった。最初に日本型PFI事業のあり方を定めた「PFI事業の実施に関する基本方針」が制定され、2000年3月に告示された。

 しかし、基本方針にはPFIの理念や基本的な考え方が示されているだけで、具体的な運用はガイドラインや各省庁や自治体で定める実施方針などで決められることになっていた。もともとPFI導入は、財政悪化による公共事業削減に危機感を強めた建設業界の意向を受けたものだけに、運用段階では基本方針の理念が骨抜きにされ、従来の公共事業のやり方が踏襲される懸念があった。それを恐れていたのが、PFI推進委員会の委員だった高橋良和氏(グローバル・インベストメント・アドバイザーズ代表取締役)である。

「延べ払い型」PFI事業が主流に

 高橋氏は、住友銀行(現・三井住友銀行)出身のプロジェクトファイナンスの専門家で、PFIに精通していた。同じ住友銀行出身の樋口座長の要請で委員に就任し、推進委員会で積極的に意見を述べてきた人物である。その高橋氏が、PFIが骨抜きにされる事態を案じて、基本方針に関する解説記事を執筆したいとの提案を水面下で新聞社などに持ちかけていたようだ。基本方針を勝手に解釈して実施方針などを策定しないように釘を刺したかったのだろう。

 基本方針が告示された直後に、筆者が在籍していた新聞社で高橋氏の連載を始めることになった。政府の委員が、推進委員会の了承を得ずに実名で解説記事を書くわけにはいかなかったようで「武蔵野経済研究所PFI研究会」という架空の団体名を使い、短期集中で32回の連載記事を筆者が窓口になって掲載した。その原稿は手元に残っているが、英国などの事例を紹介しながら、PFIのあるべき姿を解説する内容だった。

 高橋氏の懸念は残念ながら的中したと言えるだろう。立ち上げ当初の日本型PFI事業は民間資金を導入しただけで、中身は従来型の公共工事というものが大半だった。民間資金を使って「延べ払い」方式で従来型の公共施設整備を行うだけでは、地方自治体の財政負担軽減にはつながらない。しかし、当時は合併特例債や地方交付税の増額などの優遇措置が受けられる「平成の大合併」が始まっており、地方自治体に財政破綻に対する危機感が薄かった。

 こうした地方自治体のPFI事業に危機感を強めていたのが財務省だった。2009年頃から財政負担の軽減につながらないPFI事業への財政支援を絞ったことから一気に減少に転じ、低迷期に入る。高橋氏は、民主党政権が誕生してPFI推進委員会のメンバーが総入れ替えとなる2009年まで委員を務めていた。

PFIの抜本改革で2016年度から増加傾向に

 政府がPFI事業の本格的な見直しに着手したのは民主党政権時代からだ。2010年に閣議決定した新成長戦略で、PFI事業規模を2020年までの11年間で少なくとも約10兆円以上(従来の事業規模の2倍以上)の拡大を目指すことを明記。2011年には、PFI法が改正され、公共施設を民間事業者が運営するコンセッション方式などを新たに導入された。

 この時、民間有識者で組織するPFI推進委員会の委員となったのが、日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)から東洋大学大学院教授に就任した根本祐二氏である。東洋大学では、小泉純一郎政権時代に財務大臣を務めた塩川正十郎氏が2004年に総長に就任したあと、2006年にPPP専門の大学院を設立。根本氏のほかに、米国でPPP事業に携わっていたサム・田渕氏を客員教授で迎え、地方自治体の職員や民間事業者など対象にPPPの教育を始めた。

 日本では当初、英国式のPFI手法の導入を進めてきたが、米国では自治体運営を警察と消防を除いて民間事業者に委託するなど多様なPPP手法が活用されていた。「官民連携」というと、1986年の「民間事業者の能力活用による特定設備基盤促進に関する臨時措置法」 (民活法=2006年に廃止) で導入された「第三セクター方式」が官主導で失敗事例が相次いだ悪いイメージがあるが、PPPでは民間のイニシアチブで最適なサービスの提供を実現し、地域の価値や住民満足度の最大化を図ることを打ち出した。

 その流れは第二次安倍晋三政権発足後も変わらず、2013年6月に「PPP/PFIの抜本改革に向けたアクションプラン」を策定し、10年間で12兆円規模の事業を推進するべく様々な対策が講じられてきた。その結果、2016年度からPFI事業数は再び増加に転じ、最近では多くの地方自治体でPPP/PFI事業に取り組み始めている。

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PFIにサービスプロバイダ方式を導入

 民主党政権が誕生した2009年に西尾市長となったのが、民主党推薦で当選した榊原康正氏である。その2年後に幡豆郡三町と合併し、増え過ぎた公共施設の整理統合に向けて公共施設再配置計画の策定に乗り出した。3年かけて基本計画と実施計画をまとめて市民説明会や市民ワークショップなどを10回以上開催。2014年11月に再配置計画を実現するためのPFI事業の実施方針を公表した。

 その内容は政府が打ち出したアクションプランに対応したもので、まさに最先端を行くPFI事業として高い注目を集めた。さっそく日経BP社が西尾方式のPFI事業を詳しく報じようと筆者を西尾市に派遣し、2015年3月に2本の記事をウェブサイトに掲載した。

 記事の冒頭で、西尾市が「サービスプロバイダ方式」という新しい手法を導入したことを紹介している。工事などの発注業務を役所が行うのではなく、PFI事業を委託された民間事業者が主体的に行う方式だ。確かに聞き慣れない言葉であるが、2011年の東日本大震災の復興事業で、国が本格的に導入したPM/CM方式と基本的には同じである。

 PMはプロジェクトマネージメント=プロジェクト管理、CMはコンストラクションマネージメント=施工管理のことで、欧米では一般的な発注方式である。全体の工事内容と予算規模は発注者である役所が決めるが、発注業務や実行予算の管理は業務を委託された民間のPM/CM会社が行う。

 公共工事へのPM/CM方式の導入は、財政悪化で発注業務に対応できる技術職員を抱えることがいずれ困難になると予想されたため、約20年前から検討されてきた。地方自治体へのPM/CM方式の本格普及に向けて、国土交通省が2020年9月に「地方公共団体におけるピュア型CM方式活用ガイドライン」を策定したところだが、西尾市の取り組みはそうした流れを先取りしたものと言える。

コロナ禍で深刻化する財政悪化にどう対応するか

 その後、日経BPからPPP/PFI関連の記事執筆の依頼がなくなったので、西尾市の動向から2年ほど目を離していた。ところが、2017年6月に日経BPを退社してPPP/PFI専門のニュースサイト「インフラビジネスJapan(2020年6月閉鎖)」を立ち上げた菅健彦氏から連絡があった。PFI事業見直し推進派の中村健氏が7月に新市長に就任するので、西尾市に取材に行ってほしいとの依頼だった。

 それ以降、菅氏が西尾市の地元新聞などに目を光らせてPFI関連の情報を収集し、筆者が取材して記事を執筆してきた。残念ながらインフラビジネスJapanが閉鎖されて記事が読めなくなったので、今回、私のブログ「未来計画新聞」に再録させてもらうことにした。これらの記事を読んでいただければ、西尾市が進めるPFI見直しの経緯を分かっていただけるだろう。

 筆者は愛知県西尾市とは全く縁もゆかりもない人間だ。最終的に西尾市がどのように決断するかは住民が決めることであり、その結果は住民の自己責任である。

 コロナ禍によって国も地方も今後はますますの財政悪化が避けられない状況だ。それぞれの地域の住民が協力しながら、安全・安心・健康な暮らしをどう守っていくか―。その手段の一つとしてPPP/PFIを多くの地方自治体が活用しようとしている。長年、PPP/PFI問題を取材してきた記者としては、西尾市の事例を通じて、PPP/PFIが抱える政治など様々なリスクを伝えていく必要があると考えている。

【西尾市PFI事業見直し問題のコンテンツ一覧】

西尾市が進める新しいPFI―市民の声を踏まえたサービス水準を提示、地元企業の応募を促す(2015-03-19:日経BP 新・公民連携最前線)

役所だけでまちづくりができる時代ではない―西尾市長 榊原康正氏に聞く(2015-03-19:日経BP 新・公民連携最前線)

総額198億円、西尾市PFIはなぜ見直しを迫られたのか(上)(2017-08-20:インフラビジネスJapan)

開示資料“黒塗り”で不信感!?西尾市PFIはなぜ見直しを迫られたのか(下)(2017-08-21:インフラビジネスJapan)

「自共結託」西尾市PFI潰しの代償(FACTA ONLINE:2017-10-20)

西尾市「PFI事業見直し」が闇試合に(FACTA:2017-11-20)

業界期待のPFIに暗い影―契約後に相次ぐ計画見直しで、工事中止や契約解除のリスク(2018-02-10:週刊東洋経済)
・西尾市のほかに神栖市(茨城県)などのケースを取り上げた。

混迷する西尾市PFI事業見直し(2018-05-14:インフラビジネスJapan)

“三方悪し”に向かう西尾市PFI見直し―名古屋大学・恒川和久准教授に聞く(2018-05-15:インフラビジネスJapan)

西尾市PFI事業のSPC、追加費用請求で名古屋地裁に市側を提訴(2018-08-10:インフラビジネスJapan)

混迷深める西尾市PFI見直し(上)(2020-02-15:インフラビジネスJapan)

混迷深める西尾市PFI見直し(下)(2020-02-16:インフラビジネスJapan)

西尾市PFI訴訟判決―約3400万円の支払いを命令(2020-04-01:インフラビジネスJapan)