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 西尾市が見直し方針を打ち出したPFI事業は、2014年3月に策定された「公共施設再配置実施計画2014→2018」に基づいて進められてきた。名古屋大学の恒川和久准教授は、公共FM(ファシリティーマネジメント:施設管理)の専門家として、数多くの地方自治体をサポート。西尾市でも公共施設再配置アドバイザーを務め、18年2月にはPFI事業見直し方針について市長に提言書を渡した。

――2017年7月に中村健市長が就任したあと、西尾市ではPFI事業の見直しが始まったが、意見は求められたのか。

 中村市長が当選した直後から、市長に会わせてほしいと西尾市に申し入れてきたが、なかなか実現しなかった。市は18年3月5日に「西尾市方式PFI事業 検証報告書・見直し方針」を公表した。その10日ほど前の2月22日に初めて市長と面談し、「西尾市の公共施設再配置を実行するための提言」を手渡すことができた。

――提言の内容は。

 11年4月に西尾市と幡豆郡三町が合併し、行財政改革の一環として12年3月に策定した「公共施設再配置基本計画」の意義を改めて強調した。PFI事業の見直しと公共施設再配置の実行を混同すべきではなく、契約の妥当性などの検証に固執しても意味がない。

 公共施設の老朽化やコスト浪費はPFI事業を凍結しても確実に進行していくので、PFI事業の見直しに関わらず、公共施設再配置実施計画を計画的に進めていくべきだと提言した。中村市長は提言を受け取ったが、何のコメントもなかった。

「契約に不備があるとは思っていない」

――その後に公表された検証結果をどう評価したか。

 中村市長の意向をくんで、言い分を並べているように感じた。検証を行ったPFI事業検証室は、もともと市役所内部で中村市長に選挙協力してきた人たちを中心に構成されている。第三者委員会の設置が必要だと伝えたが、実現しなかった。さらに、PFI事業として進めている公共施設再配置実施計画には何も言及していない。一部の事業を取りやめて、どうなるのか、再配置問題が解決するのかも、全く書かれていない。

――検証結果で言うように、契約に不備があったのか。

 契約に不備があるとは思っていない。PFI事業の反対派は、公表された資料が黒塗りだらけで、VFMにも根拠がないと主張しているが、契約上、どうしても公表できない内容だけに限られていて不備ではない。契約も、市役所が定めた手続きに基づいて進められてきたわけで、問題はない。検証結果には、本質的に何が間違っていたのかという指摘もない。

――見直し方針には市民アンケートの結果が反映された。

 市民アンケートも、市民の意向を正しく検証しているとは言い難いと受け止めた。質問に対して「わからない」と答えた回答不明者の割合が多かった。アンケート調査では、回答不明者が少なくなるように、丁寧で正確な調査・分析を行う専門機関を選ぶ必要がある。

――見直し方針では、新設施設がPFI事業から除外され、吉良中学校も改修を取りやめて建て替える方針を打ち出した。

 吉良中学校は、少子化で教室も余っており、改修工事も進めやすく、建て替えは不要との判断だった。なぜ建て替えるのか意味が分からない。費用も高くなるのは間違いない。すでに吉良中の改修に向けた設計作業がかなり進んでいたが、中断によって設計費用も支払われていない。契約に基づいて人も資材も確保して事業を進めてきたのに中止となれば、その費用と違約金が払われるのは当然だ。払わなければ訴訟になる。

事業規模や参加企業数の問題も

――問題を回避する方法はなかったか。

 残念なことに、PFI事業が政争の具になってしまった。今から思えば、事業規模をこれほど大きくせずに進めればよかったのかもしれない。PFI事業の恩恵ができるだけ地元に落ちるように、SPCの参加企業を西尾市や周辺地域に制限したために、今回のように規模の大きいPFI事業に応募できるSPCが1社だけになってしまった。

 他の自治体では競争を優先して、参加企業をあまり制限していない。その結果、地方のPFI事業も東京などの大企業が受注しているケースがほとんどだ。西尾市は地元企業に配慮し過ぎた。

――今回の見直し方針について、中村市長は「最終決定だ」と発言している。

 PFI事業は、本来、従来型の公共事業に比べて自治体にとってはコストを削減でき、住民にとってはより質の高いサービスが受けられ、民間事業者にとっては適正な収益が得られる。“三方良し”となるように導入するものだ。

 しかし、今回の見直し方針によって、PFI事業費そのものは一時的に削減できるかもしれないが、公共施設再配置計画そのものを見直したわけではないので、取りやめた四つの新築工事や吉良中学の建て替え工事は、いずれ公共事業として発注されることになる。同じ新築工事を公共事業で発注する方が、PFI事業よりコストが増えるのが一般的だ。

 結果的に新たな公共事業を受注できるゼネコンを除けば、自治体にとっては事業コストが増え、住民にとっては施設サービスが利用できず、民間事業者にとっては見込んでいた収益が得られない。まさに”三方悪し“になる。そうした見直し方針が最終決定となるのは問題だ。

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