愛知県西尾市は、総額198億円のPFI事業について、2018年3月5日に作成した「検証報告書・見直し方針」に基づき、受託企業であるSPC(特別目的会社)エリアプラン西尾(岩崎智一社長)との見直し協議を5月10日から開始した。

西尾市は、PFI対象32事業のうち10事業の取りやめ、3事業の計画変更を盛り込んだ見直し方針に基づいてSPCに契約変更を求めていく。SPCは、契約変更に伴う損害賠償の支払いや事業体制の再構築などの問題解決を要請する。

6月末までに市が具体的な見直し案を提示しない場合、SPCは契約を履行するために中断している工事を再開する方針だ。今後の協議は難航することが予想され、結果的に公共施設の整備計画が遅れ、市民生活に影響を及ぼすことが懸念される。

西尾市が示した見直し方針

 西尾市では、17年6月の選挙でPFI事業の凍結・見直しを掲げて当選した中村健市長がPFI事業の見直し作業に着手。10月には、PFI事業を推進してきた資産経営戦略課とは別に、企画政策課内にPFI事業検証室を設置して検証作業を進めてきた。

 18年3月5日には「検証報告書・見直し方針」を公表。3月28日に中村市長も出席してSPCに対する「事業者向け説明会」を開催した。

 今回の検証結果では、PFI事業を実施する根拠となるVFM(バリューフォーマネー)の算出方法について「その正当性になお合理的疑いがある」とし、SPCとの契約も「手続きが適切でなかった」と結論付けた。17年12月に3000人を対象に行った市民アンケート(回収率47.7%)を参考に見直し方針を作成した。

 具体的には、新設施設5事業のうち4事業(合計31.9億円)を取りやめとし、「きら市民交流センター」(51.6億円)も大幅に計画を見直す。改修施設12事業のうち、最も規模の大きい吉良中学校(10.9億円)など2事業を取りやめ、吉良中は建て替えを検討する。解体施設14事業のうち4事業を取りやめる。

 PFI事業費198億円のうち施設整備費は93億円を占める。今回の見直し方針は、取りやめ事業で42.8億円以上、施設整備費のほぼ半分を削減する大幅な契約変更をSPCに迫ることになる。

契約変更は可能か?

 西尾市が行った検証結果と見直し方針には、様々な問題が指摘されている。

 第1に、検証結果は契約当事者である市役所のPFI事業検証室が出した結論で、第三者による客観性が担保されていない。西尾市公共施設再配置アドバイザーを務めてきた名古屋大学の恒川和久准教授は、「西尾市に第三者委員会の設置を求めたが、実現しなかった」と証言する。

 第2に、PFI事業に選定された特定事業を大幅に見直しても、そのままPFI事業を継続できるのか不透明だ。民間事業者はPFI法第6条でVFMを算定し、PFIで行う効果がある特定事業の認定を受けなければならないが、見直し方針では市で行わなければならない見直し後のVFMを算定していない。大幅な見直しによって特定事業の要件を満たさない場合、PFI事業を継続できない恐れがある。契約解除になれば、西尾市がSPCに損害賠償を支払うことになる。

 第3に、17年2月に始まった住民訴訟への対応も定まっていない。当時、PFI事業に反対していた住民グループが、西尾市方式のPFI事業は違法として名古屋地裁に公金支出差し止めを求める訴訟を起こし、係争中だ。これまで西尾市は違法でないと正当性を主張して争ってきたが、市長が交代した後の検証結果では一転して問題を認めた。今後の裁判で公金支出差し押さえとなれば、やはりPFI事業の継続が難しくなる。

 第4に、PFI取りやめによって、むしろコストが高くなる可能性も指摘されている。検証結果のむすびに中村市長は、「この見直し方針に基づき、公共施設再配置第1次プロジェクトを、着実に進める」と明記。SPCとの見直し方針説明会では、吉良中学の建て替えを含めて取りやめる事業は、従来方式の公共事業で整備する考えを示した。

 ところが今回の検証では、従来型公共事業の方が契約済みPFI事業よりVMFで優れているとの検証は行われておらず、PFI事業から除外する理由も説明されていない。

市民生活にも影響

 西尾市は、SPCに対して17年10月に一部を除いて工事の中止を通知した。それから工事はストップしたままだが、きら市民交流センターは契約で18年12月末に完成予定となっている。

 SPCは5月7日に記者会見を行い、6月末までに市から具体的な見直し案が提示されない場合、きら市民交流センターは当初契約通りに工事を進める方針を表明した。見直し案が提示された場合でも、12月末までに対応できない見直し案は受け入れないとしている。

 会見では、事業体制の維持や工事現場の保全などで17年度中に約8000万円の増額費用が発生し、西尾市にその支払いを求めていることも明らかにした。現時点で市は応じておらず、SPCが債務不履行で訴える可能性も出ている。

 西尾市は、SPCとの見直し協議を5月10日から開始した。すでに見直し方針を打ち出してから約2カ月経っているが、SPCによると、第1回協議で市から見直し案の素案などは提示されなかった。

 SPCは、西尾市の見直し方針を契約の一部解除とみなしており、それに基づいた見直し案が提示されれば、損害賠償を請求する意向だ。違約金はSPC側に責任がある場合は事業費の10%、市側に責任がある場合には特に定めがない。SPCは、PFI事業を継続できなくなった場合の損害賠償額を約50億円としている。

 今回のPFI事業は、14年3月に策定した「公共施設再配置実施計画2014→2018」を実現する第1次プロジェクトとしてスタートしたが、すでに工事の中止で大幅な遅れが生じている。事業計画の見直し期限などは契約で定められていないので、SPCが見直し作業に入れば、ますます事業再開の見通しは立たなくなり、施設を利用する市民生活にも大きな影響が予想される。その間、西尾市は契約に基づいてSPCの維持費を支払い続ける必要がある。

 PFI事業の検証は、「今後の事業の望ましいあり方を追求する」目的で実施した。果たして見直し方針が「望ましいあり方」を示したものと言えるのか。今後のSPCとの協議結果によって証明されることになる。

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