以前に筆者が取材経験した日米半導体摩擦と日米自動車では、同じ二国間交渉でも取り巻く環境に大きな違いがあった。日米自動車交渉の前の1994年にNAFTA(北米自由貿易協定)が発効し、95年にWTO(世界貿易機関)が発足。自由貿易の国際的なルールづくりが進んでいたことが自動車交渉妥結に非常に有効だったと考えられるからだ。
トランプ政権は対日交渉の前にNAFTAの見直しに向けた協議をスタート。「アメリカファースト」で従来の自由貿易のルールから見直そうとしている。そうしたルール無視での“殴り合い”的交渉になれば、安全保障などで米国に大きく依存している日本は明らかに分が悪い。
実は日米半導体摩擦と日米自動車摩擦の間にあった日米構造協議の回顧記事はまだ書き残していない。その辺の理由は下記の編集後記に少し書いた。
・【編集後記】アベノミクス効果はどこまで広がるか?(2013-03-05)
実は日米構造協議で標的となったスーパーコンピューターとTRON問題では、安全保障の問題が大きく関わっていたと筆者は考えている。その辺の事情は少し時間をかけて内容を整理しないといけないが、トランプ政権がビジネスライクに対日交渉に乗り出してくれば、米軍の駐留経費問題も含めてあらゆるカードを使ってくるのは間違いないだろう。
日本政府と自動車業界は、95年の日米自動車交渉を上手く切り抜けることに成功したが、今回は明らかに状況が異なる。まずは相手の出方を見る必要があるが、単なる受け身の姿勢では将来に禍根を残すことにもなりかねない。日本経済の将来像を見据えながら、肝を据えて対策を練る必要がある。
・【コラム】TPPに参加してもしなくても日本経済の地盤沈下は続く(2011-10-29)
(了)