建設・住宅・不動産関連企業の2012年度連結決算(連結売上高2000億円以上67社)をまとめたので公表する。トップは連結売上高が初めて2兆円を突破した大和ハウス工業、2位が建機最大手のコマツ、3位が積水ハウスの順に。安倍政権の誕生で日本経済の再生に向けて積極的な金融緩和、財政政策、成長戦略の3本の矢に着手したが、同時に重要なのは企業の成長力だろう。業界をリードする大手企業が自ら成長戦略を掲げ、積極的に雇用や設備投資を増やさなければ、日本経済の復活は難しい。果たして建設・住宅・不動産業界の中で、成長力のある企業はどこだろうか。

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ランク表の企業数は4社増えて67社に

 建設・住宅・不動産業の産業構造の変化を分析するために作成し始めた連結業績まとめも今回で3回目。一覧表の作成作業もかなり慣れてきたが、まだ抜けていた企業があった。今回、新たに加えたのは、ホームセンター大手のカインズ、住宅大手のパナホーム、そして建物管理最大手のイオンディライトの3社である。また、ゼネコンのフジタが大和ハウス工業の連結子会社となったため、決算発表を行っていないので表には入っていない。

 カインズは非上場なので全く見落としていた。パナホームは、パナソニックエコソリューションズ社に連結されていると勘違いしていて加えていなかった。今年度からエコソリューションズ社にはLED部門などを加えるセグメント見直しも実施された。イオンディライトは前年度に初めて売上高が2000億円を突破していたが、気が付かなかった。2011年度以前の一覧表も修正するべきところだが、しばらくお待ちいただきたい。

 2012年度に新たに連結売上高2000億円を超えたのが、今年11月めどに飯田グループ6社で経営統合する予定のアーネストワンだ。同じ飯田グループの一建設も好調に売上高を伸ばした。アイディホーム689億円(12年12月期)、東栄住宅1128億円(13年1月期)、飯田産業1656億円(13年4月期予想)、タクトホーム841億円(13年5月期予想)を加えた飯田グループ6社を単純合計すると、売上高は9000億円を超える。住友林業を上回る規模のパワービルダーが誕生するかどうか注目だ。

世界企業へと成長を続ける大和ハウス工業

 企業の成長力という観点で見ると、やはり最も注目されるのが大和ハウス工業だろう。2年前に鹿島建設を抜いて建設会社としてはトップ企業となったあとも、積極的に事業領域を拡大し、連結売上高も2兆円の大台を突破した。14年3月期も、ゼネコンのフジタ、マンションデベロッパーのコスモスイニシアが新たに連結対象となるので、連結売上高が約2割増加して2兆4000億円になると予想している。

 「連結売上高が2兆円を突破したが、世界で認められる企業になるためにも10兆円をめざしており、社長ら経営陣にも気を引き締めて経営に当たるように言ってある。建設事業も、大和ハウス工業本体の建設事業、大和小田急建設に新たにフジタが加わることになったが、3つを足しても大手5社の規模には遠く及ばない。どうするか。課題として考えるように指示している」―6月4日に開催された住宅生産団体連合会の定期総会後のパーティで、大和ハウス工業の樋口武男会長はそう語った。

 住宅系では、同様にM&A路線で積極的に事業規模を拡大してきたのがLIXILグループだ。今回の決算でも連結売上高が11.2%増と大きく伸びた要因も、11年12月に買収した伊ペルマスティリーザが連結対象となったため。14年3月期も海外事業で引き続き成長を見込むほか、リフォーム事業の拡大などで、連結売上高は9.2%増の1兆5700億円を見込んでいる。

 2012年度の住宅新設着工戸数は前期比6.2%増の89.3万戸となり、持ち家が3.8%増、貸家が10.7%増、分譲がマンション3.3%増、戸建5.6%増の計4.4%増となった。着工から引き渡しまでタイムラグはあるので来年度予想を加味すると、積水ハウス、旭化成、TOTOなども市場の伸びを上回る成長力を発揮していると言えそうだ。

マンショントップの野村不動産が2ケタ成長

 総合不動産会社は、マンション事業で業績の明暗が分かれた格好だ。2012年のマンション供給戸数ランキングで初めてトップとなった野村不動産ホールディングスが、住宅事業の伸びが寄与して連結売上高が14.8%増の5177億円に。2位の三井不動産も、分譲事業の22%増が寄与して、連結売上高も8.0%増の1兆4456億円となった。

 2011年に藤和不動産の統合効果でマンション供給ラインキングでトップになった三菱地所は、わずか1年で3位に順位を下げた。マンション売上高が前年度から2割も減少。11年度の赤坂パークタワー売却の反動減もあって減収減益に。しかし、14年3月期はマンションの売上戸数が6100戸となり、売上高が47%増となる見通しで、その結果、連結売上高は15.4%増の1兆700億円と、1兆円の大台を回復する予想だ。

 東急不動産も13年度は分譲事業で36%増を計画しており、連結売上高は15.8%増の6900億円を予想。ランク表には入っていないが、東京建物も13年12月期で分譲事業が22%増と高い伸びを見込んでおり、連結売上高は10.7%増の2150億円と2000億円を回復する見通しだ。住友不動産は、前期実績、今期予想ともに1ケタ成長だが、今年度からスタートした第6次中期経営計画では3年間合計の売上高を5次中計実績比15.2%増の2兆5000億円に設定するなど高い成長をめざす方針だ。

大林組がいよいよゼネコントップの地位へ

 ゼネコンでは東京スカイツリーを施工した大林組に勢いが出てきた。海外事業や不動産事業が業績拡大に大きく寄与した。12年度からスタートした中期経営計画で海外事業比率を2割に引き上げる方針を打ち出したが、他のゼネコンの海外受注が伸び悩むなかで、積極的な受注活動を展開。国内建築受注も堅調に推移しており、14年3月期には鹿島を抜いて戦後初めてゼネコンのトップになる予想だ。

 以前に向笠元大林組社長から聞いた話では、大林組は昭和初期まで建設会社トップの地位にあったという。明治、大正、昭和の歴代天皇の御陵造営の実績がそれを物語る。しかし、戦後、東京への一極集中が強まるなかで、関東系ゼネコンが優位となり、後塵を拝してきた。1999年に大阪から東京・品川に本社を移転してから15年目で、いよいよゼネコントップの座が見えてきた。

 表にはゼネコンが13社がランクインし、14年3月期には、今年4月に合併した安藤ハザマが連結売上高予想3550億円で新たに入る見通しだ。しかし、ゼネコン各社からは成長力が残念ながら感じられない。海外事業、不動産事業、PFI事業などを着実に伸ばしている大林組、独自のビジネスモデルを確立して前期も不動産事業が好調だった長谷工コーポレーションを除くと、積極的に事業拡大に取り組もうという意気込みが伝わってこないのだ。14年3月期も鹿島、大成建設、清水建設、竹中工務店の大手4社ともに減収の予想だ。

 確かに13年3月期も、震災復興需要などで国内建設投資や住宅市場が拡大基調だったにも関わらず、ゼネコン13社のうち8社が減益うち4社が営業赤字だった。08年のリーマンショック後に無理な受注を行った影響がここに来て表面化したとみられるが、その反動や労務費の上昇などで、ゼネコン各社とも収益性重視の受注姿勢を一段と強めている。それも致し方がない面はあるが、現状維持だけでは新たな雇用や投資も生まれないだろう。

日本経済の再生に向けて企業が果たす役割は?

 バブル崩壊義、日本企業の多くが、株式や土地の不良債権処理を行うことを余儀なくされ、その後も金融自由化や企業会計制度改革などを通じて収益重視の経営姿勢を強めてきた。経営の効率化を優先し、内部留保を厚くするばかりで、積極的な投資や人材育成を怠ってきたのではあるまいか。

 以前にも書いたことがあるが、自動車担当記者時代に、社長に就任したばかりのトヨタ自動車の奥田碩氏に、円高不況で苦しんでいた95年頃、囲み取材の場で生意気なことを言わせてもらったことがある。 「トヨタ銀行と言われるほどの手厚い内部留保がしばしば称賛されるが、日本を代表するリーディングカンパニーとしてカネを貯め込むだけでは問題ではないか」と。この時、奥田さんが「判った。考えてみよう」と答えてくれたことが強く印象に残っている。

 昨年9月に三菱地所の記者懇談会の時も、木村恵司会長には少々失礼とは思ったが、こんな質問をさせてもらった。 「丸ビル完成から10年で丸の内・大手町地区も大きく変貌して素晴らしくなったと言うが、入居している企業を見ると昔ながらの大企業ばかり。オールドエコノミー中心の日本経済の衰退がこのまま続けば、丸の内・大手町も同じように衰退していくのではないか」と。

 もちろん丸ビルには開業当初からベンチャー企業も利用できる施設やビジネス交流の支援活動を行っていることは承知しているが、三菱地所の担当者から「最近は企業交流などに参加するベンチャー企業から株式上場するところが減っている」という話を聞いて、気になっていた。確かに商業施設や旅館・温泉も重要ではあるが、日本を代表するビジネス街の活気が失われることは日本経済全体にもマイナスである。三菱地所が賃料や空室率ばかりを気にする“丸の内の大家さん”では困るのだ。

 今年5月に三菱地所が本格的に始動した「成長戦略センタープロジェクト」は大いに注目したい。具体的にどのような活動をしているのか、最近は三菱地所からは私に対して記者発表の案内も全くなくなったので判らないが、外国企業も含めて交流させて育てようという取り組みは良いのではないか。その後、三井不動産や東京建物でもベンチャー支援のための専用オフィスを開設するという記事が日経新聞に出ていたが、そうした取り組みが日本経済の活性化に寄与することを期待したい。

2012年度建設・住宅・不動産関連企業の連結業績(売上高2000億円以上)

  企業  売上高  営業利益 決算月
1 大和ハウス工業 20,079(    8.6) 1,280(   11.4) 13.03
2 コマツ 18,849(▲ 4.9) 2,116(▲17.5) 13.03
3 積水ハウス 16,138(    5.4) 861(   21.6) 13.01
4 パナソニック(S) 15,479(    1.4) 591(    0.3) 13.03
5 鹿島建設 14,850(    1.9) 184(▲37.4) 13.03
6 大林組 14,483(  16.3) 351(   12.9) 13.03
7 三井不動産 14,456(    8.0) 1,481(  17.6) 13.03
8 LIXIL 14,363(  11.2) 504( 181.8) 13.03
9 大成建設 14,164(    7.0) 356(▲  2.4) 13.03
10 清水建設 14,160(    6.0) 131(▲25.4) 13.03
11 大東建託 11,524(    6.0) 824(    0.5) 13.03
12 竹中工務店 9,983(    2.2) ▲13( - ) 12.12
13 三菱地所 9,271(▲ 8.5) 1,183(▲19.1) 13.03
14 住友林業 8,451(    1.6) 253(   32.0) 13.03
15 日立建機 7,723(▲ 5.5) 514(▲  6.1) 13.03
16 太平洋セメント 7,476(    2.7) 406(   39.3) 13.03
17 住友不動産 7,366(    7.0) 1,513(    2.6) 130.3
18 東急不動産 5,958(    7.0) 519(    3.8) 13.03
19 長谷工コーポ 5,589(   11.6) 243(   12.6) 13.03
20 野村不動産HD 5,177(   14.8) 583(   16.8) 13.03
21 戸田建設 4,970(    1.6) ▲469( -  ) 130.3
22 きんでん 4,911(    7.8) 197(    2.7) 13.03
23 旭化成(S) 4,862(    7.6) 543(  17.3) 13.03
24 TOTO 4,762(    5.2) 233(  24.5) 13.03
25 積水化学(S) 4,690(    4.4) 363(  16.7) 13.03
26 レオパレス21 4,542(▲ 1.1) 74(  61.7) 13.03
27 関電工 4,477(    1.3) 73(▲  8.3) 13.03
28 DCMホールディングス 4,342(▲ 1.7) 190(▲  3.6) 13.02
29 ミサワホーム 3,946(    4.3) 124(    3.8) 13.03
30 NIPPO 3,850(    2.3) 222(  36.5) 13.03
31 前田建設工業 3,691(   17.8) ▲70( -  ) 13.03
32 五洋建設 3,498(    6.7) 64(▲28.0) 13.03
33 ニトリHD 3,487(    5.4) 615(    6.2) 13.02
34 YKKグループ(S) 3,452(    6.9) 186( 134.2) 13.03
35 三井住友建設 3,427(    9.3) 57(   23.3) 13.03
36 カインズ 3,413( -  )   13.02
37 コメリ 3,192(    2.3) 191(▲  5.2) 13.03
38 コムシスHD 3,160(    6.8) 225(   79.1) 13.03
39 大京 3,026(     1.3) 221(    0.1) 13.03
40 三菱電機ビルテクノ 3,014(  44.0)   13.03
41 協和エクシオ 3,013(   10.3) 180( 102.3) 13.03
42 JKホールディングス 3,000(     3.1) 45(    0.4) 13.03
43 パナホーム 2,894(▲ 1.3) 110(    4.0)  13.03
44 一建設 2,786( -  ) 256( -  ) 13.01
45 コーナン商事 2,718(▲  3.6) 163(▲ 12.6) 13.02
46 三協立山 2,717( -  ) 120( -  ) 13.05
47 ミライト・HD 2,710(   14.8) 108( 105.8) 13.03
48 コベルコ建機 2,678(▲12.8) 68(▲70.0) 13.03
49 伊藤忠建材 2,665(  3.0)   13.03
50 三和HD 2,659(    7.1) 141(   60.1) 13.03
51 熊谷組 2,607(    1.2) ▲11( -  ) 13.03
52 西松建設 2,532(▲  4.0) 26(    0.6) 13.03
53 リンナイ 2,518(    2.1) 263(▲ 1.1) 13.03
54 イオンディライト 2,488(  13.2) 139(    1.0) 13.02

55

高砂熱学工業 2,484(  15.3) 35(▲31.5) 13.03
56 NTTファシリティーズ 2,450(  5.5) 69( 83.9) 13.03
57 日立ビルシステム 2,410( 10.7)   13.03
58 九電工 2,392(▲ 3.0) 43( 140.0)  13.03
59 東建コーポ 2,364(  8.8) 90( 78.6) 13.04
60 東急建設 2,285(    0.3) 11(▲ 26.6) 13.03
61 すてきナイスG 2,274(▲ 5.9) 27(▲ 17.0) 13.03
62 ナフコ 2,241(    1.7) 112(▲  4.3) 13.03
63 住友大阪セメント 2,190(    0.9) 139(   71.6)  13.03
64 オリックス(S) 2,152(▲ 3.3) 55( 313.8) 13.03
65 前田道路 2,132(    4.0) 166(   14.6) 13.03
66 宇部興産(S) 2,083(▲ 0.4) 114(  32.6) 13.03
67 アーネストワン 2,033(    8.6) 180(▲17.1) 13.03

 注)単位:億円。カッコ内は前期比増減率%、▲は減または欠損。(S)はセグメント情報。
・パナソニックの(S)は、パナソニックエコソリューションズ。積水化学と旭化成は住宅部門。
・YKKグループは、サッシなどの建材部門。オリックスは不動産部門。宇部興産は建材部門
・コベルコ建機は神戸製鋼所のセグメント情報。
・未上場は竹中工務店、YKK、三菱電機ビルテクノサービス、カインズ、NTTファシリティーズ、日立ビルシステム、伊藤忠建材=決算公告が公表されたあとに順次、修正する予定。⇒
2013年10月5日に修正しました。

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