【住宅】共用スペースがコミュニティ形成に果たす役割を考える(1)―単身世帯の増加で変わる共同住宅のあり方(2012-07-13)

人が集まって住めば、コミュニティが自然に形成されるわけではない。鍵を握るのは、共用スペースのあり方と居住者・利用者の意識だろう。東日本大震災を契機に、共同住宅でも人と人との繋がりやコミュニティを重視する動きが広がっている。かつて地域ごとに「入会地」や「里山」など共用スペースがあって、燃料や食料など共有資産の管理を通じて地域コミュニティが形成されていたように、共同住宅でも共用スペースがコミュニティ形成の重要なポイントであると考えられる。最近、シェアハウスやコレクティブハウスなど共用スペースが重要な役割を果たしている共同住宅の事例を取材する機会があったので、改めて共用スペースとコミュニティの関係について整理する。

共同住宅における共用スペースの役割

 マンションなどの共同住宅には、必ず居住者専用の共用スペースがある。共用のエントランスや廊下だったり、一定規模以上であれば独立した集会室やゲストルームだったり、様々な共用部分が組み込まれている。建築基準法上も、壁の一部を共有していても独立したアクセスが確保されている集合住宅は「長屋(タウンハウス)」と呼ばれ、それ以外の集合住宅が共同住宅と定義されているので、共同住宅に共用スペースが備わっているのは説明するまでもないことではある。

 共同住宅では、共用スペースを利用することで居住者同士が顔を合わせる機会も多いだろうし、共用スペースをどう管理するかも決めなければならない。必然的に居住者同士のコミュニケーションは深まると考えられるのだが、日本の共同住宅、とくにマンションやアパートがコミュニティを重視した住宅であるというイメージは薄い。私自身、マンションで生活した経験がないので誤解があるかもしれないが、むしろ玄関ドア一枚でプライバシーを確保できる住宅として作られてきた印象が強い。

 日本不動産ジャーナリスト会議の大先輩であるマンション管理評論家の村井忠夫氏のブログを読むと、同じマンションに住んでいても名前も知らなかったり、管理組合総会の集まりも悪かったりで、どのようにマンションのコミュニティを形成するかは、以前から課題になっていたことが分かる。そう考えると、共同住宅に共用スペースが備わっていても、それだけでコミュニティが形成されるわけではないのだろう。

単身世帯向け共同住宅と共用スペース

 共同住宅には、寄宿舎、下宿、アパート、マンションなど様々な居住形態がある。この中で共用スペースを利用して居住者に対する生活関連サービスを提供してきたのが、いわゆる「まかない付き(食事付き)」の下宿、学生寮、社員寮など単身者向けの共同住宅であった。家族から独立して慣れない一人暮らしを始めるのに「まかない付き」は確かに便利。実は、私も出身地の札幌市から千葉県にある大学に入学して一人暮らしを始めた時には「まかない付き」の学生寮に入った。

 1980年代に入ってファミリーレストランやコンビニストアなどが普及し始めた頃から「まかない付き」が減りだした実感がある。大都市圏を中心にワンルームマンションが増え始めたのも、ちょうど同じ時期だ。日本が高度経済成長期を経て豊かになり、学生や若者も寮母さんや管理人さんがいて何かと制約のある寮ではなく、プライバシーを確保しやすいアパートやワンルームマンションを好むようになったのだろう。

 ワンルームマンションは、1977年頃に建設された「メゾン・ド・早稲田」(新宿区)が第一号と言われる。一般的なマンションには義務付けられている管理人室や駐車場、駐輪場などの付帯設備が十分に備えられていない物件が多く、ゴミ出しや路上駐車などで近隣住民とのトラブルが増加。84年に東京都豊島区でワンルームマンションに関する最初の建築物指導指針が施行され、その他の自治体でもワンルームマンションの建設を規制する動きが広がった。

 確かにワンルームマンションに十分な共用スペースが確保されているとは聞いたことがない。投資物件としても売買されてきたことを考えると、貸床面積を最大限に確保して収益性を高めた賃貸物件が多いと考えられる。ワンルームマンション建設に対する地域住民の反対運動が活発化したのも、景観問題や日照権などの理由だけでなく、地域コミュニティに対する配慮を欠いた共同住宅であると感じたからだろう。ちなみにワンルームマンションの供給戸数は、バブル崩壊で不動産投資が低迷した90年代は低調に推移した。

単身世帯の増加で共同住宅にも変化

 2000年代に入ると、共同住宅を取り巻く環境が変化し始めた。若年層と高齢者を中心に単身世帯の増加が一段と顕著になったからだ。1999年に労働者派遣法が改正されたのを機に非正規雇用者数が増え始め、それと歩調を合わせるように単身世帯は増え続けている。2001年にJ-REITが上場して不動産投資市場が回復するとワンルームマンションの供給戸数も増え、分譲では床面積30〜50平方メートルの「コンパクトマンション」の商品化が活発化した。

 高齢者世帯でも単身者または夫婦のみの増加がクローズアップされ、2000年4月の介護保険制度の開始に合わせて高齢者住まい法が01年に施行。高齢者向け優良賃貸住宅(高優賃)や高齢者専用賃貸住宅(高専賃)など高齢者向け賃貸住宅の整備が本格化する。2011年10月からは高優賃、高専賃などが廃止されて「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」に統合され、国の補助制度の効果もあって急ピッチで登録数を伸ばしている。

 介護保険制度は、要介護者の増加、介護期間の長期化が進む一方で、核家族化の進行、介護する家族の高齢化など要介護者を支えてきた家族の状況の変化と、夫婦のみや単身者の高齢世帯の増加に対応するために導入された制度である。急速に進む核家族化や単身世帯の増加によって「家族で支え合う」という「自助」基盤が弱体化したために、「公助」による介護サービスを強化せざるを得なくなったと言えるだろう。

 サ高住は、原則25平方メートル以上の専用部分(台所、水洗便所、洗面施設、浴室などを装備)に、食事などの提供する共用スペースがあり、常駐スタッフによる見守り・生活相談サービスが提供される共同住宅である。居宅介護サービスや訪問看護サービスなどが利用することで、要介護状態になっても住み続けられるサ高住が実現すると期待されている。「共用スペースを利用してサービスを提供する」という点では、まかない付き学生寮なとと類似した居住形態だ。

 さらに若年層単身者向けにゲストハウスやシェアハウスなどの共同住宅が注目されるようになったのも2000年代に入ってからである。非正規雇用者の増加による個人所得の低下で、賃料が安いゲストハウスやシェアハウスの需要が増加したためと考えられるが、最近では単に賃料が安いだけでなく「共用スペース」を通じた居住者同士のコミュニケーションに魅力を感じてシェアハウスを選ぶ人も増えており、メディアにも多く取り上げらるようになった。

単身世帯と地域コミュニティとのつながりをどう確保するか

 2010年の国勢調査によると、総世帯数5184万2千世帯のうち単身世帯数は1678万5千世帯、全体の32.4%を占めて初めて3割を突破した。子供が一人暮らしをしているとは考えられないので、15歳未満を除いた人口1億1125万人に占める単身世帯の比率は15%を超えた。今後、少子高齢化が加速すると単身世帯はさらに増加するとみられ、15歳以上の成人の5人に1人が一人暮らしになる可能性もあるだろう。

 みずほ情報総研のレポートによると、未婚化率が上昇している30代男性が50代になる20年後の2030年には、彼らの約4人に1人が単身世帯になると予測している。どの世代でも女子会などを通じてコミュニティづくりが上手な女性に比べて、中高年男性が単身世帯のままで高齢化していくことは、同じ男性としては想像するだけで身につまされる話だ。

 単身世帯がどのような住宅で暮らしているのかは調査できていないが、賃貸住宅に住んでいる比率は2人以上の世帯に比べると圧倒的に高いだろう。私にも一度も結婚せずに65歳を過ぎてUR都市機構の賃貸団地に住み続けている叔父がいるが、「結婚して子供ができてから住宅を購入する」と考えて、賃貸住宅に住み続けている単身者は多いに違いない。彼らの多くは、賃貸住宅に対して仮住まいとの意識を持っているのではないだろうか。

 単身者向けの賃貸アパートやワンルームマンションはすでに指摘したように、もともとコミュニティ形成に配慮した作りにはなっていないところが多い。共同住宅内のコミュニティができなければ、当然、周辺地域とのコミュニティを形成するのも困難だろう。さらに単身世帯には子供がいないため、地域の中核である小学校との接点がなく、地域コミュニティとの結びつきもできにくい。

単身世帯のこれからの住まい方とは?

 東日本大震災の後、サ高住やシェアハウス、コレクティブハウスなど主に単身者向け共同住宅を取材するなかで考えさせられたのは、家族で支え合う自助基盤の弱い単身世帯のこれからの住まいのあり方である。今年5月に大きな話題となった生活保護不正受給問題も、お笑い芸人が成功した後すぐに母親と同居していたら生活保護給付も終わっていたはず。ところが単身世帯であれば、生活保護の対象となるので、そのまま給付を受け続けたのだろう。

 今年6月に厚生労働省が発表した3月末現在の生活保護受給者数は210万8千人、世帯数は152万8千世帯となり、60年振りに過去最多を更新。支給総額は3兆7千億円を超える見通しとなった。生活保護世帯の世帯当たり人数は1.38人で、一般世帯の人数2.42人を大きく下回り、単身世帯が過半数を超えるとみられる。単身世帯の困窮は生活保護に直結する可能性が高く、単身世帯が今後も増え続ければ、生活保護世帯の増加につながることも懸念される。

 今月、サ高住に住み始めた高齢者へのインタビューをテレビニュースで見たが、時間の制約もない自由な暮らしと、見守られている安心感で生活に満足している様子が伝わってきた。身近に何かと相談できる人が居て安心なのは高齢者だけではないだろう。コミュニティから孤立しがちな単身世帯と地域をどうつないでいくか。災害や困窮など万一の時にどのようにサポートしていくか。そうした視点も加えて住宅政策を考えなければならない時期に来ているのかもしれない。

つづく

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