共同住宅の共用スペースには、マンションやシェアハウスなど居住形態によってどのような違いがあるのだろうか―。取材する前までは、ほとんど考えたこともなかったが、どうやら居住形態によって共用スペースの位置づけや居住者との関わり方に違いがあるようである。共同住宅では、居住者が空間を「つくる」または「デザインする」のは難しい面はあるのも確かだが、やはり居住者が共用スペースに積極的に関わっていくことが重要である。ここ1、2年、まちづくりや地域活性化で注目が高まっている「コミュニティ・デザイン」の考え方を共同住宅にも取り込む必要がありそうだ。

共同住宅の居住形態の違いを整理する

 共同住宅には、なぜかカタカナ言葉が多い。今回の取材では分譲系の「コーポラティブハウス」、賃貸系の「ゲストハウス」「シェアハウス」「コレクティブハウス」、そして「ソーシャルアパートメント」の5つを取材したが、「マンション」などと同様に多くは海外から紹介された居住形態だ。すでに10年以上の歴史があるが、私自身もあまり違いをきちんと整理できていなかった。

 コーポラティブハウスを除けば、基本的には専有部分のほかに、居住者が自由に利用できるリビングやダイニングキッチンなどの共用スペースを備えた共同住宅である。昨年10月から登録制度がスタートした「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」と似た居住形態だが、サ高住は国土交通省によって専用部分の床面積や設備、提供されるサービスや契約内容などの認定基準が定められている。他の高齢者住宅との違いもはっきりしていて、消費者には判りやすい。

 しかし、シェアハウスなどにはサ高住のような明確な定義があるわけではない。「テレビドラマなどに楽しそうに共同生活を送っているシーンが放送されるのを見てシェアハウスをイメージしている人も多いようだ」と、2年ほど前からシェアハウスを手掛ける賃貸住宅管理会社でも話していた。最近ではシェアハウスも賃料を低く抑えた物件や、ライフスタイルを重視する物件など、いろいろなタイプが登場している。それだけに、単に物件の間取りや設備だけを比較しても、その違いが消費者には分かりにくい面がある。

シェアハウスなどの共同住宅の特徴は?

 改めてカタカナ言葉の共同住宅の特徴を簡単にまとめておこう。

■コーポラティブハウス(分譲系) 居住者が集まって組合を組織して土地を購入し、建築家などと共同で集合住宅をつくる“オーダーメイド”型マンション。1970年代にはドイツや米国などで一般的なコーポラティブ方式(組合方式)が日本に導入され、旧建設省の研究会でも議論されて明確な定義づけが行われた。UR都市再生機構が分譲事業を行っていた時代に、コーポラティブ方式を手掛けていた。

■ゲストハウス(賃貸系) 80年代に外国人向けの短期滞在型の賃貸住宅として登場した。一般的な住宅に複数の居住者がルームシェアして住むケースが多く、近隣トラブルを避けるために一般的には管理人を置いている。外国人と交流する目的で入居する日本人も多い。空き家などの物件を格安で借り上げて活用するケースも。

■シェアハウス(賃貸系) 米国で一般的なルームシェア方式を採用して90年代に登場した賃貸住宅。トイレ・キッチン・浴室なども共用している物件が多かったが、最近では専有部分の付帯設備を充実した物件も供給されるようになった。単身者向けが主流で、管理人は置いていないが、共用スペースの管理は賃貸事業者が行っている場合が多い。

■コレクティブハウス(賃貸系) 北欧で広く普及している賃貸居住形態で、80年代後半に日本女子大学の小谷部育子教授らの研究を通じて日本に紹介された。各専用スペースにトイレ・キッチンなどが設置されており、居住者も単身者、夫婦、家族など様々。共用スペースの運営は居住者が自主的に行っている。開発・設計段階から居住希望者が参画する。

■ソーシャルアパートメント(賃貸系) 2005年に登場したワンルームマンションとシェアハウスを融合した賃貸住宅。各専用スペースの独立性を高めつつ、1物件当たり50戸程度というスケールメリットを生かして共用スペースを充実。インターネットのソーシャルネットワーキングサービス(SNS)とアパートメントを融合した造語で、不動産会社グローバルエージェンツ社の登録商標。

共用スペースに着目して相違点を整理する

 まず、共同住宅によって共用スペースの「位置づけ」に違いがある。最近は分譲マンションでも、充実した共用スペースを装備している物件も多いが、廊下やエレベーターなどの導線部分を除けば、居住者にとって専有部分だけで十分な生活空間が確保されており、共用スペースは利用してもしなくても、普段の生活で不便さを感じることはない。分譲マンションを選ぶ基準は立地と専有部分の魅力であって、共用スペースで物件を選ぶことはないだろう。

 一方、シェアハウスやコレクティブハウスなどは、基本的に共用スペースの利用を前提とした共同住宅である。専有部分だけでは生活するのに十分な広さや機能が確保されておらず、居住者は少々手狭な専有部分から共用スペースへと自然に集まるようにデザインされている。入居者が住居を選ぶのも、立地や専有部分だけでなく、共用スペースが重要なポイントになっている。

 次に、共用スペースに対する居住者の「関わり方」で違いがある。人間誰しも、自ら関わったモノには強い思い入れを持つもので、とくに「つくる」という行為は重要な意味を持つ。分譲マンションは、出来上がった住宅を「買う」のが一般的だが、専有部分であれば居住者がリフォームして空間をデザインできる。しかし、共用スペースは、デベロッパーから提供された空間を利用するだけで、ちょっとした変更も居住者の合意形成が必要となるため、手を付けるのは難しい。

 一方、コーポラティブハウスは、居住者(購入者)自ら計画段階から参加してつくる共同住宅であり、当然、共用スペースにも居住者の意向が反映される。専有部分はそれぞれの居住者が自由にデザインすれば良いので、むしろ共用スペースをどうデザインするかという合意形成が重要になる。「つくる」という過程を通じて共用スペースをどう利用するのかというイメージが共有され、コミュニティが自然と形成されるようである。

 コーポラティブハウスは、分譲マンションのように大規模な物件はほとんどなく、コーポラティブハウスで80棟以上の実績がある企画会社アーキネットが手掛けているのも総戸数5、6戸のプロジェクトが中心だ。そのぐらいの規模では集会室のような共用スペースは設けられていないが、帰宅後に缶ビールを持って屋上に集まったり、廊下で井戸端会議が始まったりと、共有スペースが有効に活用され、マンション管理も管理会社を入れずに居住者が協力しながら行っているようだ。

居住者がつくる賃貸住宅コレクティブハウスの可能性は?

 同じ賃貸系では、シェアハウスとコレクティブハウスで居住者の共用スペースへの関わり方に違いがある。シェアハウスやソーシャルアパートメントは、一般的な賃貸住宅と同じで、事業主が物件がつくり、完成したあとに入居者を募集する。入居希望者は、完成した物件とそこで提供される付加価値(例えば家庭菜園付きシェアハウスとか、シングルマザー向け託児サービス付きシェアハウスなど)を確認したうえで入居を決める。共用スペースの運営管理は、シェアハウスの管理を委託されている管理会社が行うのが一般的だ。

 一方、コレクティブハウスは、コレクティブハウジング(集まって住む)という考え方に賛同した人たちが集まり、ワークショップなどを通じて計画段階からプロジェクトに参加する。賃貸なので入居者の入れ替えはもちろん起きるが、オリエンテーションなどを通じて事前にコレクティブハウスでの生活を理解してもらったうえで入居を決めてもらう。コーポラティブハウスと同様に「つくる」という過程を通じてコミュニティが形成されるため、共有スペースの運営管理も居住者組合を組織して入居者が自主的に行っているという。

 現在、日本でコレクティブハウスの名称で事業を展開しているのはNPOコレクティブハウジング社だけだ。すでに活動を開始して10年以上だが、完成したプロジェクトは5物件程度。コレクティブハウジングに理解のある事業主を見つけてプロジェクトを実現するのはかなり難しいようであるが、コミュニティ形成という視点で見ると、興味深い取り組みではあることは確かだ。

 共同住宅の多くは、事業者や管理会社側が、ファミリー向け分譲マンションとか、若年層単身者向けシェアハウスとか、高齢者向けのサ高住などと入居者対象を絞り込むのが普通で、コミュニティが均質化しやすい。コレクティブハウスは、事業者が提供した土地や物件のある地域に住みたい人たちが集まってプロジェクトを立ち上げるため、年齢層も家族構成も多様な入居者でコミュニティが形成されることになる。ある意味、多様な人たちが暮らす地域コミュニティに近いわけで、コレクティブハウスであれば、賃貸住宅でも地域コミュニティと繋がりやすく、溶け込みやすいのではないかと感じた。

 余談だが、1995年の阪神淡路大震災の後、被災高齢者の住居として、コレクティブハウスの名称で共同住宅が整備されたことがあった。被災高齢者の孤独死などが問題がクローズアップされ、コミュニティが形成されやすい効果を期待されてつくられたわけだが、果たしてコミュニティは活性化されたのか。同じコレクティブハウスでも、NPOコレクティブハウジング社のもとはイメージが違っていた。

 イヌイ倉庫が7月18日に、東京都中央区月島で644室の居室とライブラリー、本格厨房などの共用施設のある賃貸共同住宅を建設すると発表した。ワンルームマンションに共用施設を装備した共同住宅という点では、グローバルエージェンツ社が展開する「ソーシャルアパートメント」に類似しているが、登録商標なので使えない。一般名詞としては「シェアハウス」を使わざるを得ないが、シェアハウスというと小規模なイメージが強いので、ちょっと違和感もあるのだが…。

つづく

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