【住宅】共用スペースがコミュニティ形成に果たす役割を考える(3)―ソーシャルビジネスという視点(2012-07-27)

 シェアハウスやソーシャルアパートメントなどの賃貸ビジネスを、地域社会に貢献する「ソーシャルビジネス」として展開することはできないだろうか。単身世帯の増加による「自助」基盤の弱体化から、高齢者に自立した生活をできるだけ長く続けてもらうために「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」が登場したように、共同住宅の共用スペースを社会が抱える問題を解決するために積極的に活用するという考え方だ。例えば、就職オリエンテーション機能付きの若者自立支援住宅とか、職業訓練機能付き中高年再雇用支援住宅とか、農業研修者向けシェアハウスとか、さらにインキュベーション機能付きシェアオフィスもあるだろう。デベロッパーや賃貸事業者も、そうした人々を支援する行政や企業、NPO、ボランティアグループと積極的に連携していく必要があるのではないか。

保育園の待機児童問題をきっかけに誕生したシングルマザー向けシェアハウス

 今年春頃にテレビなどでも多く取り上げられた「シングルマザー向けシェアハウス」を提供している賃貸管理会社を取材した。キッカケを聞くと、営業テリトリーである横浜市や川崎市が保育園の待機児童数が全国的に見ても非常に多いという新聞記事を見たことだったという。その後に、地元の子育て支援のボランティアグループが、子育てとシェアハウスをテーマにイベントを開催することを知り、参加した。

 ボランティアグループのメンバーである地元保育園の経営者と知り合って、シングルマザー向けシェアハウスの必要性で意見が一致した。たまたまシェアハウスとしてワンフロア―を借り上げる予定だった物件に、小児科の病院がテナントで入っており、近くに保育園、小学校もあったことから、ボランティアグループの協力を得てシングルマザー向けシェアハウスが誕生した。

 賃貸管理会社では、当初は「共用スペースを保育園にすれば良いのでは?」と単純に考えていたようだ。しかし、保育園経営者からは「保育士の人件費などコストがかかり過ぎる」と助言されて断念。「シングルマザーにとっては子供から解放されて自由になる時間があることが助けになる」とのアドバイスで、週2回、17〜21時の4時間、子供の食事と面倒を見るチャイルドケアサービスを保育園経営者に人材を派遣してもらって提供することにした。

 地域が抱える待機児童などの社会問題に対してボランティアグループと連携することで解決策を提供すると同時に、賃貸事業としても収益を確保する―。2006年にノーベル平和賞を受賞したバングラデシュ・グラミン銀行の創設者、ムハマド・ユヌス氏が提唱する「ソーシャル・ビジネス」に通じる取り組みと言って過言ではないだろう。共用スペースを活用し、居住者へのサービスは専門家と連携して提供するビジネスモデルは「サ高住」に共通する部分も多い。

地域社会への貢献を建築として表現した「ヨコハマアパートメント」

sIMG_5003.jpg 「地域社会への貢献」という考え方は、2011年度の日本建築士事務所協会連合会(日事連)建築賞優秀賞を受賞したオンデザインパートナーズが設計した「ヨコハマアパートメント」=写真=からも感じられた。住戸数わずか4戸の賃貸アパートだが、1階部分に広い共用スペースが設けられており、居住者だけでなく、地域社会にも開かれ、近隣住民のちょっとしたイベントの会場としても利用されている。

 賃貸アパートのオーナーは、近くに住む個人で、定期借地として貸していた土地が更地になって戻ってきたのを機に、定年退職後の収入を確保しようとアパートを建てることにした。その時に、横浜市が2002年から取り組んでいる文化芸術創造都市推進事業「クリエイティブシティ・ヨコハマ」に貢献しようと、若手アーティストやクリエイター向けのアパートというコンセプトで、地元の若手建築家の西田司(おさむ)氏に設計を依頼したのである。

 西田氏は、アーティストが創作活動したり、作品を展示したりするようにと、1階部分は高さ5メートルの倉庫のような半屋外の共用スペースとし、二階部分に4つの居室を設けた。共用スペースは透明ビニールカーテンの間仕切りを設けているだけで、道路からも内部を覗くことができる。2009年秋に完成し、西田氏も約1年間住んで、共用スペースがどのような使われ方をするのかを自ら体験したという。

 実際の入居者は、アーティストやクリエイターばかりではなく、共用スペースも頻繁に利用されるわけでもなかったようだ。それでも共用スペースを通じて緩やかな交流が生まれ、毎月1回、入居者とオーナー、設計事務所のミーティングを開催し、交流を深めた。そうした様子を見ていた近隣住民から「趣味のフルートの発表会に使わせてほしい」といった依頼があって、地域住民にも開かれたスペースとしても利用されている。

株主利益ばかりでなく社会的責任を考えるべきでは?

 地域社会において、私たちは様々な共用空間をつくってきた。公園、道路、自治会館やコミュニティセンター、さらには公立の小・中学校の施設や校庭も共用空間と言えるだろう。そのほとんどは、行政が整備して、行政がつくったルールに基づいて管理されてきたわけだが、十分に活用されているとは言い難いし、限られた制約の範囲でしか利用されていないケースも少なくない。

 ハコモノ行政と批判されてきた公共事業に欠落していたのは、その共用空間を利用する人たちの視点である。ここ1、2年、マスコミでも引っ張りだこのコミュニティデザイナー、山崎亮氏の本を読むと、そのことがよく判る。彼は、人と人の繋がりをデザインすることの重要性を説いているが、そうした人たちを繋げていく基盤となるのは、公園や里山、デパートに設けたイベント会場などの共用スペースである。

 前回紹介したコーポラティブハウスやコレクティブハウスのように、居住者自らが共用スペースづくりに関わることができると、自然に人と人との繋がりも形成されて、共用スペースの運営・管理を自主的に行うことが可能になる。しかし、共用スペースだけをポンと与えただけでは、人と人との繋がりを形成するのは難しい。やはり、その共用スペースを活用して人と人とを繋げていく触媒になる人(ファシリテーターとか、コーディネーターみたいな人)や仕組みが必要になる。その重要性を広く気付かせてくれた山崎亮氏の功績は高く評価されるべきだろう。

 これまでデベロッパーや賃貸事業者は、いかに高い賃料で空室なしにテナントや入居者を確保することばかりを考えてきた。賃貸アパート経営では、相続税対策のために空室が出るのを承知で建物を建てるオーナーも少なくないと聞く。確かに日本が右肩上がりで成長していた時代であれば良かったかもしれないが、地域社会や日本経済が停滞し、住む人も減ってしまえば住宅もオフィスも余って賃料収入は先細りになっていく。

 本来、土地は公共そのものである。その土地や社会インフラを利用してビジネスを行う企業や個人が社会的責任を負うのはある意味、当然のことだ。もちろん企業にとって株主資本も重要ではあるが、最近では株主への利益配当ばかりが優先され、納税義務や雇用確保などを含めて企業の社会的責任が蔑ろにされている印象は否めない。企業にとっても不動産ビジネスにとっても重要なのは「利益」と「社会的責任」のバランスのはずである。

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