「不動産仲介の両手取引禁止」の必要性について記事やブログで書き始めて1年が経過したが、不動産市場の不透明性と既得権益からの強い抵抗を改めて実感させられている。6月22日には、破壊(はかい)に引っ掛けたと思われる「ハ会」という業界有志によるシンポジウム「VIVA!中古〜ストック型社会を阻害する既得権益の撤廃」が開催されたので覗いてみたが、最大の既得権益である両手取引問題を一応は批判するものの最後は腰砕け。パネラー全員が既存業界の中でビジネスを行っている以上、“寸止め”せざるを得ないのは判るが、本気で中古住宅流通市場を変革しようという覚悟が伝わってこない。さくら事務所代表の長嶋修氏もツイッターで反省していたが、最初から落とし所を気遣っていちゃ議論にならないよ。

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両手取引を存続しなければならない理由はあるのか

 この1年間、両手取引問題に対する業界の反応には言及せずに、敢えて動向を見守ってきた。「千葉もようやく大人しくなった」と思って、不動産業界も安心していたかもしれないが…。私自身は、中古住宅流通市場が活性化してほしいと願って記事を書いているだけ。以前にも書いたことがあるが、記事に対して過剰な反応を示す時は本当に痛いところを突かれた時で、おかげでこの1年、いろいろな人のいろいろな反応が見られて非常に興味深かった。

 記事を書いて改めて判ったことは、両手取引を禁止すべき理由を明らかだが、両手取引を存続しなければならない正当な理由が全く見当たらないことだ。「両手取引が禁止されれば不動産業者の経営が立ち行かなくなる」との声はあったが、物件価格の上限3%と決めらている手数料を見直せば良いだけの話で、両手取引を存続させる理由になるとは思えない。

 ハ会シンポでも、両手取引を批判するものの、いざ法律で禁止するかどうかという話になると「禁止する必要はない」とのコメントばかり。この時も、なぜ法的禁止の措置が必要ないのかが全く説明されなかったが、誰に聞いても禁止は行き過ぎという答えが返ってくる。両手取引を存続しなければならない正当な理由がないのに、なぜ禁止できないと言うのだろうか?そちらの方が不思議な話である。

不動産業界も正式な反対表明はしていないはずだが…

 日本人の悪いところは、既得権者にも配慮して簡単に「抜け穴」を認めてしまうところである。そうやって、これまで骨抜きにされてきた施策がどれほどあったことか。両手取引を存続しなければならない明確なケースがあるのなら、それをきちんと示して対策を講じれば良いだけのはずだが、とにかく表舞台での議論を避けようとするばかりで、この1年、公式な席で両手取引問題が話し合われたことすらない。民主党も、国民に対する正式な説明もないままに、政策インデックス集に掲げた両手取引禁止には取り組まないことにしてしまった。

 「なぜ、こうした方針を打ち出したのか、政策全体の中での位置付けを見ても、ちょっと“唐突”な感じがする」―鳩山政権が発足した2009年9月16日に開かれた不動産協会の定例会見で岩沙道弘理事長(三井不動産社長)は、両手取引の是非には触れずに、トボケてみせた。考えてみれば、不動産協会、全国宅地建物取引業協会、全日本不動産協会など業界団体はいずれも、正式には両手取引禁止に対して明確な反対を表明していなのだ。

 「両手取引の是非を正面から議論すれば、勝ち目のないことを不動産業界も判っている。団体として正式に反対を表明すれば、消費者などから批判の声が上がる懸念もある。だから、個々の不動産業者が民主党に圧力をかけて両手取引禁止をウヤムヤにして政策インデックス集から消し去った」―ある不動産専門誌の記者はこう解説してくれたが、不動産業界が完全に無視して話し合いにすら応じなければ、政府も国土交通省も身動きが取れないと読んでいるのだろう。

両手取引を禁止しても無駄なのか

 さらに私が聞く両手取引禁止への反論の多くは「両手取引を禁止しても無駄」という意見ばかりだ。無駄かどうかを論じる前に無駄にならないような仕組みを作る努力をすることが大切だと思うのだが、最初から「無駄」と決め付けるのはどういうことか。それも国土交通省の幹部や大学教授などの専門家や有識者がそう言うのである。

 もっとも唖然としたのは、この発言。「米国の不動産取引が透明性が高いとかいろいろ言われているが、ある著名な米大学教授の本を読むと、米国でも情報の片務性(不動産業者と買い手の情報格差)を利用して不動産業者は儲けている。米国だって実情はそうなのだから、日本で両手取引を禁止しても同じことになるだけ」

 情報格差によって不動産業者が儲けるのは当然のことで、市場の透明性を高めるのは不動産業者の不利益になるから、両手取引を禁止するべきではないと言っているのも同然。ほかにも「罰則を強化するので十分では?」とか、「大手は別会社を作って出来レースをやるから同じこと」とか、とにかく、何とかして両手取引禁止だけは回避しようとするのだが、両手取引が禁止されて不都合なこととは何なのかと疑いたくもなる。

消費税率アップを機にオープン市場の設立も

 ハ会シンポの最後に、11人のパネラーが中古住宅流通の活性化策をフリップに書いて掲げたが、誰も「両手取引禁止」を書かなかった。長嶋さんも「現実的な解決策として…」と断った上で「物件の囲い込みへの罰則禁止」と書いていたが、物件が囲い込まれているかどうかをどのようにチェックするのだろうか。長嶋さんには期待するところが大きいだけに、できれば明確に「両手取引禁止」と書いて、覚悟を示してほしかった。

 私の知る限り、両手取引を禁止するべきと言っている記者は結構いる(実際に記事に書いているかどうかは知らないが…)。業界人の中にもそう言っている人は少なくないだろう。物件の囲い込みをなくして、消費者が安心して中古住宅を購入できる環境を構築するには、両手取引を禁止した方が良いことは多くの人が理解している。問題は、どのようにして両手取引禁止を実現できるか?である。

 今回のシンポでは、消費税引き上げの話題に誰も触れなかった。消費税が10%以上に引き上げられれば、新築住宅の割高感が高まって、中古住宅流通が活性化する可能性がある。さらに中古住宅の売買でも売主・買主の直接取引なら確実に消費税はかからないので、こうしたタイミングに合わせて、中古住宅流通制度を見直すという作戦もあるだろう。最近では話題に上らなくなってしまったが、IDUが全宅連が共同設立をめざしていた「東京不動産取引所」のような仕組み(実際の中身は判らないが、東京証券取引所の不動産版というイメージと仮定して…)を導入するチャンスかもしれない。

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