消費不況で新設住宅着工戸数の落ち込みが深刻化するなか、中古住宅市場の整備に向けた取り組みが始まった。新築住宅の約10分の1の規模に止まっていた中古住宅の流通量を大幅に拡大させようというわけだが、果たして思惑通りに需要が拡大するのか?中古住宅の品質向上や優良なリフォーム業者の育成といった対策以前に、不動産仲介の透明性を高め、消費者が安心して取引できる不動産流通市場を確立するのが先決ではあるまいか。その第一歩は、いまだに法的に認められている両手取引(仲介業者が不動産の売主、買主の双方から仲介料を得る)を禁止することだ。なぜ、両手取引が問題なのか?消費者の立場から不動産仲介の問題点を明らかにしたい。

手痛い失敗ばかりを経験してきた不動産取引

 私自身、不動産仲介の実務経験があるわけではない。不動産業界を担当したのも99年からで、現役記者として業界を取材したのもわずか2年間だけである。しかし、消費者としては、中古住宅の購入、売却、さらに宅地購入、新築住宅建設と一通りの経験をした。願わくば、その経験を不動産業界を担当してから積みたかったが、いずれのケースも担当前だったので、専門的な知識のないまま不動産取引を行い、手痛い目に会ってきた。

 今では、日本不動産ジャーナリスト会議の幹事として、専門家(?)のような顔をして不動産問題に関する記事やコラムを執筆しているが、不動産取引の暗部はいまだに分からないことだらけである。自分の過去の手痛い失敗はこれまで書いたことはなかったが、別に隠していたわけではない。問題解決の糸口も掴めないままに書いても、意味がないと思っていたからだ。

良心的な仲介業者に当たるかどうかは運次第

 住宅を建設するとき、建築家や工務店などの建設業者を選ぶのも難しいが、それ以上に不動産仲介業者を選ぶのは難しい。工務店やハウスメーカーであれば、住宅展示場や過去に手がけた住宅を見学できるが、不動産仲介業者の場合、過去の実績は個別取引なので、実際の成約価格も含め開示されていない。せいぜい国土交通省が公開している宅建業者の行政処分情報(ネガティブ情報)を検索するぐらいだ。

 結局のところ、仲介物件を扱っている業者に手当たり次第に声をかけて、物件ベースで取引を行うしかない。業者の能力やサービス内容も全く分からないままに、たまたま気に入った物件を持ち込んできた仲介業者に、一生に一度と言われるような大きな取引を任せるわけである。良心的な仲介業者に当たるかどうかはまさに運次第だ。

 当時、いろいろな人に不動産仲介業者の選び方を聞いたが、結局のところ「宅建登録免許の更新回数が多い地元に強い業者」というアドバイスしか得られなかった。要は、更新回数が多いほど、長い間、地元で不動産仲介の営業をしているので、信用できるだろうというだけの話である。しかし、他に判断基準はないというので、私もスーパーに店舗を出店している地元ではそこそこ知られている不動産業者のところに物件を見に行って、運悪く捕まえられてしまったのである。

初めての不動産取引は築7年の中古戸建住宅

 私が初めて中古住宅を購入したのは、何とバブル絶頂だった90年―。今から思うと、何と悪い時期に購入したのかと悔やむが、仕事や子どものことなど、住宅の購入はタイミングなので仕方がないと諦めている。もう2〜3年待てば、選べる物件が増えていただろうが、当時は予算内で買えそうな物件は少なく、購入することにしたのは、駅から徒歩15分の築7年の2階建て木造住宅だった。

 簡単に物件概要を説明すると、道幅4.5メートルの公道に接した土地を4つに分割して建売住宅を建設した、いわゆるミニ開発物件のうちの1棟。新築時に売り出したのは地元大手の工務店だったが、実際に開発したのは別の業者。土地の区割も適当、下水道も無断で他人の空き地を通す(ウソだろうと思うかもしれないが、自分が住んでいる時に発覚して大問題になった)など無茶苦茶な開発が行われていた。

 住宅も、築7年にしては随分と老朽化が進んでいる物件だった。しかし、いずれ新築するのが夢だったので「10年程度住んで建て替えれば良い」と考え、土地の広さと価格を優先して、購入を決断してしまった。リフォームも最小限に止めて9年間住んでみたが、とにかくトラブルの連続。いかに問題のある不動産業者やリフォーム業者が多いかを骨身に染みて実感した9年間だった。

仲介業者は決して”中立”ではあらず!

 初めての不動産取引で痛感したのは、不動産”仲介”と言いながらも、仲介業者は決して中立ではないということだった。私が物件を購入した仲介業者A社は、自分の専任媒介物件(売主から売却を1社だけ任されている物件)を強力に売り込み、強引に商談を進めていった。専任媒介物件が売れれば、仲介業者にとって売主、買主双方から仲介手数料が入る両手取引で美味しい思いができるからだろう。

 こちらも初めての不動産取引なので、いろいろと気になる部分について説明を求めたのだが、「大丈夫ですから」「問題ありませんから」を連発。あとになって問題点が判っても、明らかな欠陥ではない限り、物件に関するネガティブな情報(明らかに仲介業者は知っていたはずだが…)を提供しなくても、仲介業者は「売主から知らされていなかった」と言えば、責任にならないことが判って愕然とした。

仲介業者への不信感が決定的になったトラブル

 この中古住宅で発生したトラブルを全て説明すると、本が一冊書けるぐらいだ。ここでは、不動産仲介業者への不信感を決定的にしたトラブルを紹介する。これも信じ難いように思うかもしれないが、事実である。

 私が購入した物件は、中古住宅が建つ土地Dに隣接する元・私道Eの半分E1(地目は宅地)を合わせた形での取引だった。私道の残り半分E2 は土地Dの裏手にあった宅地と合体してすでに売却済み。土地Dは、ミニ開発の時の土地測量図があり、それに基づいて取引価格が査定されていたが、E1は単位面積の査定価格と概算面積が示されていただけで、最終的には「実測に基づいて清算する」との話だった。

 ところが契約日が来ても、実測図を持ってこない。結局、概算のままで売買を終え、後日、清算の手続きを取ることにされてしまった。そして、1週間後にA社が持ってきた実測図は、何と裏手の宅地に合体したE2の実測図だった。担当者は、それを見せながら「実測面積が出たので残金を支払ってください」という。図面を良く見ると、E1の面積=Eの面積−E2の面積という式が書かれていた。

 「Eの面積はどうやって計算したのか?」と私が確かめると、「登記簿の面積です」という。以前に「古い時代の登記簿の面積は必ずしも正確ではない」という話を聞いたことがあった。それをプロの仲介業者が知らないわけはない。すぐに言っていることが不自然だとピンと来て、「これでは実測したことにならない。きちんとした実測でなければ残金は払わない」と言って追い返した。

 数日後、A社が持参した実測図(その間に測量が行われた形跡はなかったのだが…)は、私の予想通りに面積が小さくなっていた。100万円以上も請求されていた精算金はほとんど支払わずに済んだ。

買主の立場でアドバイスしてくれる業者を!

 A社のやったことは、プロの不動産仲介業者にあるまじき行為ではないだろうか。私が指摘しなければ、100万円以上のカネが支払われていたわけで、ほとんど詐欺行為と言っても過言ではないだろう。そんなA社が今も、地元では堂々と手広く営業活動を展開している。歴史が長いからと言って、決して良心的な業者であるとは限らない。

 「もし、次に不動産取引を行う機会があったら、買主の立場になってアドバイスしてくれる業者を選ぼう!」―そう心に強く誓ったのだが、世の中そう甘くはない。消費者が素人考えで思い描くような取引は、そう簡単にさせてはくれないのである。

つづく

お問合せ・ご相談はこちら

「未来計画新聞」は、ジャーナリスト千葉利宏が開設した経済・産業情報の発信サイトです。

お気軽にお問合せください_

有限会社エフプランニング

住所

〒336-0926
さいたま市緑区東浦和

日本不動産ジャーナリスト会議の公式サイト

REJAニュースサイト

IT記者会の公式サイト