このレポートは、IT記者会代表理事の佃均氏からの依頼で、情報サービス・ソフトウェア産業と建設産業の2つの産業を対比しながら2つの産業構造について論じた。2000年頃からIT(Information Technology)業界では、大手ITベンダーを「ITゼネコン」と呼ぶようになり、2つの産業の類似性が注目されるようになったからだ。IT記者会を通じて、IT業界の関係者は、このレポートを読んだ方もいるだろうが、建設・不動産業界の関係者には全く知られていないはずだ。執筆してから15年が経過しようとしているが、産業構造の変革はほとんど進んでいない。これからのDX(デジタル・トランスフォーメーション)を考えるうえで、多少なりとも役立つと考えて公開する。(2021年5月2日 記)

(はじめに)

  経済産業省の産業構造審議会が今年(2006年)6月、わが国の情報サービス・ソフトウェア産業の発展のあり方に関する総合的な報告書「情報サービス・ソフトウェア産業維新〜魅力ある情報サービス・ソフトウェア産業の実現に向けて〜」の中間とりまとめを公表した。産業構造に関する網羅的な内容をカバーしたという意味では、1993年に公表した産構審報告書「ソフトウェア新時代」以来、13年振りになる。

  報告書公表の2日後、国土交通省では、わが国建設業の今後のあり方を検討する「建設産業政策研究会」が設置され、第1回会合が開催された。1993年に発覚したゼネコン汚職事件の反省を踏まえ、建設業の新しい将来像を示した「建設産業政策大綱」(1995年)が10年ぶりに見直されることになった。

  情報サービス・ソフトウェア産業建設業―世界初の商用コンピュータ(1951年のユニバック)が開発されてわずか60年しか経っていない若い産業と、かたや創業1000年を超える企業(578年創業の金剛組)がいまだに存続する古い産業である。一見すると対称的な産業のように思えるが、産業構造を比較すると驚くほど共通点が多い。

  その2つの産業で、ほぼ同時と言えるタイミングで、産業構造のあり方に関する議論がスタートした。しかも、昨年(2005年)秋、10月には建設分野で耐震強度偽装事件、11月には情報サービス・ソフトウェア分野で東京証券取引所のシステムダウンと、2つの産業の『生産システム』の信頼性を揺るがす大事件が相次いで表面化した。

 とても偶然とは思えない流れである。

  「情報サービス・ソフトウェア産業が抱える構造問題とは、産業固有の問題ではなく、日本の経済産業構造が抱えている根本的な問題ではないのだろうか?」

  そんな仮説に思い至ったのは、情報サービス・ソフトウェア産業と建設業とが直面する構造問題の類似性が高いのは、決して偶然ではないと考えたからである。

  思えば、大学の建築学科を卒業後すぐに新聞社に入社して、86年にコンピュータ産業担当に着任した時のこと。業界関係者の口から発せられた「アーキテクチュア」という言葉が強く心に焼き付いた時から、2つの産業の類似性に興味を持ち続けてきた。

  産業として見た場合、長い歴史を持つ建設業の方が、圧倒的に産業基盤が整備されているのは間違いない。しかし、その建設業を見習って情報サービス・ソフトウェア産業の基盤整備を進めれば、問題が解決するわけではないだろう。

  建設業自体が、耐震強度偽装事件をきっかけに社会的な信頼を大きく損ない、「建設生産システム」の見直し論議が進み出している。建設業の産業構造も今、大きな転換期を迎えているのである。

 果たして、情報サービス・ソフトウェア産業の発展に向けたあり方は、どうあるべきなのか―?

 その議論を始める前に、2つの産業構造を「生産システム」の視点から、「ヒト」「モノ(技術)」「カネ」を要素ごとに、もっと詳細な分析・検討を行う必要があるのではないか。このレポートが、そのキッカケとなれば、幸いである。

           目次 

(はじめに)

第1章     情報サービス・ソフトウェアと建設―その共通性に関する仮説

第2章     建設業の産業構造の変遷

       <建設請負業の成り立ち>

      <建設業法の制定>

      <重層下請け構造の変遷>

      <建設業の産業構造と政府の存在>

第3章     『生産システム』の視点から見た産業構造のあり方

       <自動車産業における下請け構造=系列化>

      <系列が希薄な建設業の下請け構造>

      <情報サービス・ソフトウェア産業の「生産システム」とは?>

第4章     「カネ」の流れからみた「生産システム」と「サービスモデル」

       <カネの流れから見た生産システム>

      <「カネ」の流れから見たサービスモデル>

(おわりに)

(2)につづく

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