経済記者をやっていると、いわゆる広告記事を頼まれることが少なくない。一見して中立的な立場で記事が書かれているようで、実は中身が「広告」という記事である。それを仕切ってきたのが、電通などの広告代理店だ。記者会見の開催だけでなく、記事の中身にまで広告業界はジワジワと影響力を強めてきた。最近では政治分野でも広告記事を見かけるし、フェイクニュース問題が注目されるようになった。通常記事、広告記事、フェイクニュースが混然一体となった情報社会で、健全な民主主義をどう実現していくのか。

 

リクルートが住宅・不動産市場で果たした役割

  広告記事は、事前に広告企画の主旨などを説明され、それに沿った形で原稿をまとめていく。もちろん広告記事はフェイクニュースではないが、広告主にとって都合の悪いことは書かないのがお約束。通常は無記名なので割り切って引き受けるが、あまりやりたくはない仕事である。

  10年ほど前に、大手雑誌社から大手マンションデベロッパーの広告原稿を依頼されたことがある。一冊まるごと編集部ではなく、広告部が編集して通常の書店で販売される雑誌だった。しばらくしてデベロッパーの広報宣伝担当から「いやあ、千葉さんの記事を切り抜いて持ってきたお客さんに1億円の物件が売れました」と聞いた。「その記事の原稿料が3万円か…」とは思ったが、広告代理店には高額の広告宣伝費が支払われているのだろう。

  メディア業界で広告記事の存在が高まるきっかけになったのは1960年に創業したリクルートの存在が大きいと考えている。学生時代に東京大学学生新聞で広告営業に携わった江副浩正氏が、米国の就職情報ガイドブックを見て広告で雑誌をつくる発想を得て、1968年に「就職ジャーナル」を創刊した。広告雑誌であるにも関わらず“ジャーナル”をタイトルに使ったところに江副さんの先見の明がある。

  住宅・不動産分野では、1976年にリクルートが雑誌「住宅情報」を創刊した。雑誌には物件広告を掲載するだけでなく、住宅購入に関する広告記事も掲載することで不動産流通市場の拡大に貢献し、新しいメディアジャンルを開拓してきた。

  その後、インターネット時代になってリクルートの住宅情報は、不動産物件検索サイト「SUUMO」となって不動産業界への影響力を高めてきた。マンションデベロッパーのリクルートコスモス(現・コスモスイニシア)出身の井上高志氏も同様の検索サイト「LIFULL HOME'S」を立ち上げて成功。両サイトとも「スーモジャーナル」、「LIFULL HOME'S PRESS」という一般消費者向けニュース・コラムサイトを開設している。

 ネットメディアは「ジャーナル」か?

  住宅・不動産業界では、いまや広告、メディア、シンクタンクの機能が一体化して情報発信する時代になっている。リクルート出身で活躍している住宅・不動産のジャーナリストも多い。私自身はスーモジャーナルにも、HOME'S PRESSにも記事を書いたことがないので、彼らがどのようなスタンスでメディア事業を展開しているのかはよく分かっていない。

  ちょうど1年前の2019年4月にインターネットメディア協会(JIMA、会員数・49)が設立された。設立趣旨には、インターネットユーザーに信頼される存在になるための指針を議論・提案すると同時に、フェイクニュースへの対応などの最新の知見を共有するとある。JIMAとしてはマスコミ倫理懇談会全国協議会にはまだ加盟していないが、会員の多くは新聞・雑誌・書籍などのネットメディア部門であり、ヤフーやBuzzFeed Japanは単独で同協議会に加盟している。

  スーモジャーナルを運営するリクルート住まいカンパニーは、日本雑誌協会や広告業協会などの既存メディアの団体やJIMAには加盟していない。それはLIFULLも同じで、両社とも不動産広告のルール違反を自主規制する首都圏不動産公正取引協議会の賛助会員にはなっている。既存メディアの団体などに加盟していないから、「ジャーナルじゃない」と言うつもりはない。HOME'S PRESSは“中立・公正・誠実な立場で、住まいの「本当」の情報を届ける”との理念を掲げているし、スーモジャーナルは東洋経済オンラインに記事を配信している。メディアの線引きが曖昧になっているのは確かだろう。

 政治の世界に広がる広告記事?

  最近では、記者やジャーナリストの中にも、やたらと安倍政権を持ち上げてばかりいる人たちが目立つようになった。安倍政権のスポークスパーソンのような役割を担っている人までいる。いまだに旧民主党政権を引き合いに出して論評する人も多い。記者の関心は今の安倍政権による政策をどう評価するかで、今さら旧民主党政権と比較しても何の意味もないと思うのだが、広告宣伝戦略としての効果は絶大である。

  自民党が野党時代の時に、私は自民党機関誌「自由民主」に広告記事を書いていたことがある。自民党機関誌は、自民党本部が編集しているが、広告業務は別会社の自由企画社が行っている。たまたま不動産協会の元役員が自由企画社の代表になっていたので、自由民主特報記者の名刺を持たされて、日本経団連の正副会長会社を順番に回って社会貢献活動の取り組みを紹介する広告記事を書いた。しばらくして自由企画社の代表がパナソニックの元役員に替わって仕事依頼はパタッとなくなった。

  広告記事的な手法を政治の世界に本格的に持ち込んだのは安倍政権からではないかと私は考えている。背後には大手の広告代理店が動いているだろう。不動産業界にもマンション評論家や住宅評論家の肩書きで活動している人は多いが、安倍政権になってから政治問題についてコメントする作家、評論家、ジャーナリスト、タレントなどが増えてきた。さらに匿名(無記名)でSNSなどに書き込みを行うライターも動員をかけていると考えている。

  こうした広告宣伝戦略に対抗するため同じ土俵に上がって、冷静に議論することで沈静化しようとしても、ほとんど効果は期待できず、時間の無駄で終わる可能性が高い。そもそも安倍政権をできるだけ長く存続させるために行っている広告宣伝戦略なので、何を言ったところで「こんな人たち」への攻撃を緩めることはないだろう。だからと言って、同じ広告宣伝戦略で対抗しても、国民の分断を深めるだけのように思える。

  私自身も加担してきた広告記事を否定するつもりはないが、紙媒体である新聞や雑誌では読者に広告記事であることが伝わるような編集を行ってきた。しかし、インターネットメディアやSNSが登場して、だんだん通常の記事と広告記事が混在して分かりにくくなってきた印象は否めない。ここにフェイクニュースが入り込んできて、ますます判別しにくい状況になってきた。

 AIが記事を判別する時代は来るか

  長年、記者を商売としてきた人間でも、記事だけを見て、通常の記事なのか、広告記事なのか、フェイクニュースなのかを判別するのは簡単ではない。普通の記事を書く場合でも情報が事実かどうかを確認するのに時間とコストがかかる。巧妙に騙そうと書かれた記事がフェイクかどうかを証明するのも相当な労力がかかるだろう。

  すでにAI(人工知能)を使ってフェイクニュースを作成したり、逆に見破ったりする研究が進んでいるようだ。JIMAでもこうした先端技術の開発に期待しているだろう。AIに記者がこれまで蓄積してきた事実確認のノウハウを大量に機械学習させることで実現できるかどうかは分からないが、将来的にはAIで全ての記事を判定するようになるかもしれない。

  記者が正しい記事を書こうと頑張っても、勘違いやミスが入り込めば、AIにはフェイク率20%と判定されることもあるだろう。その一方で、AIを使ってフェイク率10%で巧妙に騙せるフェイクニュースを作成できるとも考えられる。AIによって記事が判定されて記者が格付けされる時代が来るかもしれない。そうなったら記者という商売を続けても面白くも楽しくもないように思える。

  インターネットメディアは、テレビの視聴率と同様に、記事の評価をページビューでカウントしてランキングを出している。メディアとしてフェイクニュースを排除する必要があると思っているだろうが、いかにページビューをあげるか、いかに商品・サービスの売り上げに寄与するかも大事なのだ。テレビのニュース番組で、まるでテレビショッピングのように、何でもかんでもフォローして褒めるコメンテーターを見ていると、記事を書くことの意味が変わってきていることを実感する。

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