【コラム】記者クラブが果たすべき役割とは?―記者を続けてきて思うこと(3)(2020-04-08)

 記者クラブには、自主ルールを設定して平等な取材機会の確保と公平な報道を果たす役割があった。発表者にとって都合の悪い記者が会見から排除されないようにしたり、会見に応じない政治家や役所に対して開催を要求したりと、国民の知る権利のための組織である。その一方で、自主規制が強く働いて、記者の自由な取材活動を抑制してしまう場合もあった。最近も、官邸クラブで特定の記者に質問させないような対応を記者クラブ側で申し合わせていたという情報がネットに流れていたが、記者クラブ運営はなかなか面倒な問題である。

NHK vs ロイター通信のトラブル処理

  記者クラブでの発表で最も重視されるのが「同時性」である。今では電子メールがあるので、記者発表資料を添付して一斉に送信すれば同時性を確保できる。しかし、当時はそうした方法がないので、記者たちを記者クラブに集めておいた方が何かと便利だったのだろう。さらに同時発表の解禁時間を決めるという方法も記者クラブで自主的でやってもらった方が効果的である。もし解禁時間を破れば記者クラブへの出入り禁止などのペナルティーが科せられ、記者会見にも出席できなくなるからだ。

  日銀担当時代、記者クラブにまだ加盟していなかったロイター通信が、日銀総裁会見の冒頭に発表資料が配布されるとすぐに原稿を作成して配信し始めた。同じ電波メディアとして速報性を重視していたNHKのキャップがクラブ幹事だった私のところに来て「何とかしてほしい。うちの若手が騒いでいる」と言い出した。

  日銀総裁会見では、会見が始まるとドアがロックアウトされて幹事質問が終わるまで、記者は会見室の外に出られないルールとなっていた。「幹事質問を終わります」という声とともに、速報性を重視するNHKや通信社の記者たちが一斉に立ち上り、会見室を出て第一報を知らせる。そのルールをロイター通信が守っていないから「何とかしろ!」というのである。

  「ロイター通信は記者クラブに加盟していないのだから無理ですよ。日銀の広報に言って、ロイター通信に発表資料を渡す時間を遅らせるように頼んだら…」と言った記憶がある。ところが、NHKとしては記者クラブのルールに従わせようという考えだった。「なんでNHKの若手記者たちのガス抜きをしなければならないんだ」と正直思った。他にも幹事はいたのだが、日銀クラブ内で私が一番若年のキャップで、日本工の記者なので頼みやすかったのだろう。

  仕方がないので記者クララブ幹事としてロイター通信の日本責任者に会いに行き、事情を説明。「ロイター通信も正式に日銀記者クラブに加盟する意思があるのなら、今後は記者クラブのルールに従ってほしい。ロイターのクラブ加盟申請の話は進めるようにするから」と説得し、詫び状を書いてもらってクラブの掲示板に張り出した。

 記者会見の主導権を握るのは誰か

  最近、安倍総理の記者会見の様子が話題になった。事前に記者から質問項目が伝えられ、それに対する回答が用意されていて、安倍総理はプロンプターと呼ばれる装置に映し出された回答を読んでいるだけのように見えるからだ。最初からシナリオが決まっているような会見は、発表者と記者が丁々発止とやりあうような「本来の記者会見ではない」という声が上がった。

  質問して回答が不十分だと思えば、誰だって追加質問をして疑問を解決しようとする。安倍総理の場合、回答を聞いた記者が追加質問したいと思っても、回答が用意されていないと答えられないのが分かっているので、追加質問はしない“お約束”になっているのか。それでも質問しようとする記者を排除するようでは国民の知る権利を損なう行為だ。

  もともと記者会見は、記者クラブが仕切って行うのが一般的だった。記者クラブは所属する主要メディアをグループ分けし、記者クラブ幹事を2か月交替で回しながら運営していた。記者クラブに記者会見の申し込みがあると、会見を記者クラブとして受けるかどうかを判断するのも幹事の役割だ。

  記者会見には、必ず幹事社の記者が出席して進行役を担う。発表者は幹事に「会見を始めてよいですか」と了解を得てから会見がスタート。発表後、最初に幹事が質問し、それが終わると他の記者が質問する。会見の終了も、幹事が「他に質問はありませんか」と出席する記者に声をかけ、質問者がいないことを確認したうえで「それでは終わります」と言って打ち切る。発表者側が勝手に記者会見を終了できないのが暗黙のルールだったと私は理解していた。

記者会見の主導権が発表者側に移った理由

  ところが、最近では記者会見の主導権が発表者側に握られるようになった。以前は記者会見に出席する記者を公平に集めるのが大変だったので、記者クラブに会見を申し込めば加盟している記者に周知されて記者が集まってきた。1990年代の半ばくらいから大手広告代理店やPR会社が企業の記者会見を積極的にサポートするようになり、記者クラブに申し込まずに会見を勝手に開催することが増えてきた。

  記者クラブ主催であれば、発表者側が「あの記者は会見に呼びたくないなあ」と思っても記者クラブのメンバーであれば出席を拒否できない。しかし、発表者主催となれば、来てほしくない記者には声をかけなければ済む。そうやって発表者側にとって煙たい記者は排除され、大人しくて行儀のよい記者ばかりになれば、当然、記者会見は詰まらなくなる。

  私もフリーランスになって記者クラブに所属していないので記者会見には呼んでいただく立場になった。以前であれば、呼んでもらえた記者会見も、フリーランスだからという理由で断られるケースも増えた。そうなると取材機会の確保を優先して普段は少し大人しくしていようとの心理が働くものだ。

  最近、企業の記者会見に出ると「ご説明いただきありがとうございます」とお礼を言ってから質問する記者を良く見る。発表者側に記者会見の主導権を握られているので無意識に出るのかもしれない。最初に発表者が延々と発表内容を説明し、カメラ撮りも行い、質問時間はわずか10分で打ち切りという会見も珍しくない。発表者の言ったことをそのまま記事にしてPRしてくれれば良いという感じの記者会見である。こうしたスタイルが最近では企業だけでなく政治や行政などにも広がってしまったように感じる。

つづく