最近は記者クラブへの批判を良く聞くようになった。記者クラブを中心とした記者会見で、安倍晋三総理や菅義偉官房長官などの緊張感のない質疑応答の様子を見て、読者や視聴者は記者クラブがなれ合っていると感じるのだろう。本来は権力側に対する監視・圧力団体となるべき記者クラブがその力を発揮しないのなら存在価値がないと思われても仕方がない。改めて記者クラブとは何かを考えてみる。

記者クラブの記者同士で情報交換する意味

  記者クラブで遊んでばかりいた私が書いても説得力はないが、記者クラブの存在価値は「情報交換」と「議論」にあると思っている。よく番記者がぶら下がり取材した後で、メモ合わせを行い、どのメディアも同じような論調の記事が書かれることに対して、記者クラブでメディアがなれ合っているとの批判を聞く。

  しかし、記者も不安なのだ。現場に配属されたら、新米記者でも他社のベテラン記者と同様に、所属メディアを代表して記事を書かなければならない。現場で取材しているのが自分だけなら、自社の上司や同僚に相談しても誰も直接的なアドバイスはできない。今の発言をどう解釈すれば良いのか、良く聞き取れなかったが何と言ったのか、などを聞けるのは、同じ現場にいた記者クラブの現場記者だけだ。

  もちろん記者クラブ内でメモ合わせをしても、その通りに記事を書く必要はない。日頃の取材活動で蓄積された情報は、記者それぞれに違うわけだから、アウトプットが違うのは当然である。経済記事の場合、読者は発表モノを全て日経新聞で読んでしまうので、日本工を読んでもらうために、いかに別の切り口で記事を書くかを考えながら取材していた。記者クラブで競争相手が近くにいて手の内を探りやすい方が戦いやすかった。

  情報交換では、何かと私のところに聞きに来たのがNHKだった。朝毎読や日経の記者には聞きにくくても日本工なら気楽に聞けると思ったのだろうか。実を言うと取材先から「NHKや朝日、読売当たりに売り込みたいネタがあるんだけど…」と相談されることがあった。大手メディアの記者は日本工や専門紙ほどに企業をコマメに回っているわけではない。「このテーマでどこか適当な企業を知りませんか?」とNHKなどの記者に聞かれた時に何気なくリークするわけだ。

記者同士で議論する重要性

 記者クラブでは、記者同士が議論することも良くあった。所属するメディアは違っていても、記者として社会の役に立ちたいという気持ちは同じであり、互いに切磋琢磨しながら良い記事を書こうとの思いは共有していたと思う。30年前に不動産バブルで地価が高騰していた1989年に国土庁(現・国土交通省)記者クラブの有志が立ち上げたのが「日本不動産ジャーナリスト会議(REJA)」である。

  REJAでは、企業経営者、学者、官僚、政治家など土地・住宅、都市問題に関わる方々を招いて、これまでに180回以上の研修会を開催してきた。旬のテーマに合わせてゲストから話を聞くだけでなく、質疑応答の場でゲストを交えて議論することも目的だ。それぞれに一家言を持つメンバーばかりなので、その議論を聞くだけでいろいろと勉強になる。

  私は2001年にフリーランスになってからREJAに参加して20年近くになる。その間に変わったと感じることが2つある。REJAに参加する現役の若い記者が少なくなり、出席率も悪くなっていること。その一方で、記者と積極的に議論しようという企業経営者も少なくなっているように感じる。現役記者は通常業務が忙しくて余裕がないのか、企業には記者と議論しても無駄だと思われているのかもしれないが…。

 記者の仕事は記事を書くだけではない

  未来社会を予測することは難しい。経済記者の仕事は、テクノロジー進化と経済システムの変化によって未来社会がどのように変わっていくのかを予想しながら経済事象を取材して記事を書くことである。より確度の高い予測を導こうと、いろいろな人に会い、話を聞き、議論をしてきた。

  それは企業経営者も同じだろう。新しいことに挑戦しようと思えば、できるだけ多くの意見や考え方を聞く必要があるはずだ。コンピューター担当時代に、突然、松下電器産業(現・パナソニック)の水野博之副社長(故人)から広報を通さずに直接に電話がかかってきたことがあった。世界的な半導体テクノロジーの権威で、当時は松下の研究開発部門を統括する立場にあり、退職後は高知工科大学の学長も務めた方だ。

  「一度、門真の本社に来て、松下のコンピューター事業についての意見を聞かせてほしい」との依頼だった。私は会社に出張届けを出さずに、早めに原稿を出してから新幹線に乗って門真の本社に向かった。夕方に到着すると、松下の技術研究所の所長が待っていて、最初に研究所を案内してもらった。そのあと、大阪ツインタワーの最上階にある松下の施設で食事をとりながら、水野さんとコンピューター市場の将来展望や松下のコンピューター事業について議論した。

  当時、私はまだ30歳ぐらいの若造だったが、その頃は大企業の経営者でも面白いと思う人間とは年齢や立場に関係なく会って、情報をどん欲に吸収しようという姿勢が感じられた。最近は記者と積極的に議論しようとする大企業の経営者が少なくなったと感じるのは、新しいことに挑戦しようという経営者が減ったからではないかと懸念している。

つづく

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