【IT】オープン型の物流情報プラットフォームは実現するか(2019-09-24)

DSC02985 (1).JPG 物流ITベンチャーのHacobu(ハコブ、社長・佐々木太郎氏)は2019年9月19日、大和ハウス工業、アスクルに続き、三井不動産、日野自動車とも資本業務提携を結んだと発表した。物流施設事業でライバル関係にある大和ハウスと三井不動産が同じ物流情報プラットフォームに相乗りするのは画期的な出来事だ。筆者は2年前に佐々木氏(写真=中央)を取材して月刊FACTAでITベンチャーが物流革命をリードする期待を込めて記事にしたが、今回の提携はその実現に向けた大きな一歩。佐々木氏の手腕に期待するとともに、物流情報プラットフォーム構築に向けて連携を決断した大和ハウスと三井不動産の経営判断を高く評価したい。
物流大手が「ITベンチャー」争奪戦――ヤマト、大和ハウスらができたてITベンチャーと提携加速。物流危機の突破口となるか。(月刊FACTA10月号:2017-09-20)

宅配ボックスから物流問題に関心

 筆者が門外漢の物流問題を取材したのは、2017年に入って日本経済新聞などで宅配便の再配達問題が大きくクローズアップされたのがきっかけ。ちょうど戸建住宅向けにも商品化が始まった宅配ボックスに興味を持って取材を始めた。将来的に宅配ボックスが物流ネットワークの端末となるのでは?と予想しながら記事を書いて日経BPに提供した。

戸建て向け宅配ボックス徹底検証<2017-03〜08月:日経ホームビルダー>(2017-10-16)

 次に大手不動産会社が積極的に整備を始めた物流施設の取材を進めた。最初に市場の全体像を調べようと思ったのだが、思わぬ壁にブチ当たる。荷物を保管する建物にも、倉庫業法に基づく「倉庫」と、宅地建物取引業法に基づく「物流施設」の2種類があり、市場規模を把握することすら難しかったからだ。

 ちょうど17年7月に新しい総合物流施策大綱(17〜20年度)が閣議決定され、IoTやAIなどの新技術活用による「物流革命」の推進が打ち出された。それに対応するように、物流関係の大手企業が優秀な物流ITベンチャーを発掘する動きが活発化し始めた。

 そこで取材方針を変更して、有望と思われる物流ITベンチャーを探して取材することにした。FACTAで取り上げたのは、「倉庫・物流施設」のシェアリングサービスを始めたsouco(ソウコ)と、もう一社が「輸配送」の効率化をめざすHacobuだった。

プラットフォーム構築を加速化へ

 Hacobuは、2015年6月に創業し、16年4月からトラックの運行管理・荷物マッチング統合サービス「MOVO」の提供を開始した。ちょうど同時期に物流施設事業を積極的に拡大し始めていた大和ハウス工業の目に留まり、17年6月に業務提携し、同年9月には資本提携した。その後は、大和ハウスやトラック輸送業者などのユーザー企業の要望を受け入れながら、MOVOの機能強化を図ってきた。

 いまや大和ハウスにとってMOVOは、全ての物流施設に導入している基幹システムである。これを輸送業者や、物流施設を利用するEC(電子商取引)業者などにはどんどん利用してもらいたいだろうが、ライバル関係にある他の物流施設会社に開放することにはかなりの抵抗感があったはず。しかし、物流情報プラットフォーム構築に向けてオープン化に同意したのだろう。

 同様に三井不動産ほどの大企業であれば、ITベンダーに依頼して独自システムを構築することが可能だっただろうが、既存のシステムの中から「MOVO」を選択した。客観的に評価して優れたシステムだからだろうが、物流業界の深刻なドライバー不足を考えれば、物流情報プラットフォームの実現を加速することが社会的に意義があると判断したと思われる。

なぜ日本でプラットフォーム構築が成功しないのか

 ITの世界では、できるだけ多くの人に利用される情報流通基盤=プラットフォームを構築できるかどうかがビジネス成功の鍵を握っている。かつてインターネットの検索エンジンではYahoo!が独走していた時期もあったが、1998年にGoogleが登場してシェアを拡大。2006年に経済産業省主導でGoogle対抗の検索エンジンを開発しようと「情報大航海プロジェクト」を立ち上げたが、すでに大勢は決していた。

 いまやITの重要なプラットフォームは、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)やMicrosoftなどの米巨大IT企業に握られている。彼らは競合相手を打ち破ってデファクトスタンダート(事実上の標準)の地位を勝ち取ったわけで、政府や役所が推奨して普及させたとか、業界が一致協力して普及させたとか、いわゆる“政治力”を働かせたわけではない。

 ところが、日本ではプラットフォームを構築しようとすると、国や役所の指導で関係企業が集まって共同開発しようとするケースが多い。最初に協力体制を構築してから開発すれば、標準システムになると思うかもしれない。しかし、必ずしも性能が優れた使い勝手の良いシステムが出来上がるとは限らない。参加者の要望をできるだけ取り入れようとすれば、開発に時間ばかりかかってしまう。筆者が知る限り、日本ではプラットフォーム構築に成功した事例は皆無に近い。

 今回のHacobuの記者会見でも「そのようなシステムは国などが主導して作られるものではないのか」と質問した記者がいた。プラットフォームを全銀システム(全国銀行データ通信システム)やREINS(不動産流通標準情報システム)などの「業界標準システム」のようなものをイメージしたのだろう。

 Hacobuが目指すのは、荷主、輸送業者、倉庫・物流施設業者、トラックメーカーなど物流に関わる様々な業種の企業が横断的に利用できるシステムである。将来的には海外の物流市場に売り込むことも視野に入れており、国内での利用だけを想定した「業界標準システム」とは明らかに違うものだ。

 会見で佐々木社長は「最初に機能要件を決めてから開発するウォーターフォール型よりも、まずは小規模なシステムを開発してユーザーに利用してもらいながら機能強化していく(アジャイル型)の方が効率的」と説明。今後もHacobuを中心にアジャイル型開発を進めながら利用者を拡大できるかどうかがプラットフォーム構築のカギを握っている。

囲い込み意識が強すぎる日本の大企業

 日本でプラットフォームの成功例が少ないのは、大企業を中心に利用者を囲い込もうとする意識が強すぎるからだと筆者は考えている。ここに来て政府が普及拡大に力を入れ始めたキャッシュレス決済も誰もが利用できる標準プラットフォームの方が使い勝手が良いはず。しかし、現状では様々なシステムが乱立状態のあるのは、利用者の利便性よりも企業側の囲い込みを優先するからだろう。とくにライバル関係にある大企業同士が手を組むのは簡単ではない。

 国内のトラック輸送市場には、日本通運、ヤマト運輸などの大手企業もいるが、事業者の99.9%は中小企業。40%台にとどまるトラック積載効率をいかに向上させるかがポイントとなっているが、業界団体や大手企業が中心となって、そうした対策に取り組んでいるという話は聞かない。

 倉庫・物流施設事業でも、倉庫事業者中心の国内市場に、2000年代に入って不動産ファンドを活用して大規模物流施設を開発する外資系企業が参入。その後、国内不動産大手も参入してシェアを拡大してきた。倉庫業協会が加盟する日本最大の物流業界団体、日本物流団体連合会(会長・渡邉健二日本通運会長)に、外資系のプロロジス、日本GLPは加盟しているが、大和ハウス、三井不動産、野村不動産などは未加入だ。

設立当初からの構想を実現しつつあるHacobuに期待

 2年前にインタビューした時に佐々木社長は「利害関係のない中立的な立場のITベンチャーが提供するサービスの方が、老舗企業が多い物流業界では使ってもらいやすいのでは?」と語っていた。筆者もそうなることを期待して記事をまとめたわけだが、大手企業がどこまで乗ってくるのか?正直、疑心暗鬼な部分もあった。

 そうした懸念を払拭して大手企業との連携拡大に成功したことは賞賛に値する成果だ。大和ハウスはいまやゼネコンを抜き国内最大の建設会社である。三井不動産は、不動産業界トップで、不動産協会の理事長会社。日野自動車も国内シェア40%を占めるトラック最大手で、バックにはトヨタ自動車が付いている。さらに日本郵政キャピタルを通じて物流最大手の日本郵便との協業が進むことも予想される。

 Hacobuでは、現在は電話・ファックスで情報をやり取りしている物流業界で、2023年には物流情報をデジタルにやり取りをするプラットフォームを確立。25年には物流ビッグデータを使った輸配送の最適化を実現して「物流危機」の突破をめざす。さらに2030年には自動運転トラックによる輸送サービスの土台を確立することも視野に入っている。

 国内のトラック輸送事業者数は約6万2000社で、過去10年以上横ばい状態が続いている。現時点でHacobuのMOVOを利用するトラック輸送業者は300社。しかし、2019年8月時点でMOVO利用のユーザー拠点数は過去1年間で3倍以上の1800拠点に増加。2023年までに国内物流拠点の3分の1に相当する3万拠点への利用拡大を目指している。

 果たしてオープン型の物流情報プラットフォームは実現するのか。引き続き、Hacobuの動向に注目していきたい。