【住宅】<編集後記>戸建て向け宅配ボックス徹底検証<2017-03〜08月:日経ホームビルダー>(2017-10-16)

日経HB17年7月号.jpg 今年に入って戸建て向け宅配ボックスへの注目が一気に高まり、日経ホームビルダーの4、7、9月号で記事を執筆した。宅配ボックスを「宅配便を受け取って保管するハコ」ではなく「物流ネットワークの一端末」と捉えるべきだというのが筆者の考え方だ。物流ネットワーク全体の効率化やサービス向上を考えた場合に、端末である宅配ボックスにはどのような機能や役割が求められるか。そうした視点を持つことで、宅配ボックスが今後どのように進化・普及していくのかを予測できると思っている。

<日経ホームビルダーで執筆した宅配ボックスの記事>

戸建て宅配ボックスで流通合理化なるか(2017-03-03:日経アーキテクチュアWEB)

再配達が49%から8%に激減、パナソニックの実証実験(2017-03-04:日経アーキテクチュアWEB)

再配達が激減、宅配ボックス実験(2017-03-22:日経ホームビルダー4月号)

徹底検証!戸建て向け宅配ボックス(2017-06-22:日経ホームビルダー7月号)

宅配ボックスで閉じ込め事故(2017-08-22:日経ホームビルダー9月号)


ネットワーク端末としての宅配ボックス

 「宅配ボックスって、戸建て住宅にも本当に普及するんですかね」―1か月ほど前の9月上旬の記者懇親会の席で、積水ハウスの幹部とそんな話題になった。大手ハウスメーカーでも大和ハウス工業が積極的に宅配ボックスに取り組んでいるが、積水ハウスはまだ懐疑的な見方をしているのかもしれない。

 この時は、冒頭に書いたように「宅配ボックスを物流ネットワークの端末と考えてみては?」と答えておいたが、いずれ電話機やテレビ、パソコンなどと同じように家庭に設置されるのが当たり前の時代が来ると思っている。

 人類の歴史を振り返れば、人間一人ではできなこともネットワーク機能を強化することで高度な文明を築き、豊かで快適な生活を実現してきた。交通網、電力網、情報通信網などのネットワークの能力を高める一方で、便利なサービスを家庭に直接届けるために、電話機、テレビ、自動車、スマホなど様々な端末が開発され普及してきたからだ。

 宅配ボックスをネットワーク端末と考えたら、駅やコンビニなどに設置されるだけでなく、各家庭に普及していくと考える方が自然だろう。宅配ボックスは、単に「鍵のかかるハコ」という存在ではなくなるはずだ。

16年末までは注目度が低かった戸建て向け

 宅配ボックスに注目したのは、2016年7月に東京・青海で開催された「HOUSE VISION 2」で「冷蔵庫が外から開く家」(ヤマトホールディングス×柴田文江氏=プロダクトデザイナー)を見たのがキッカケだ。それを見て、宅配ボックスが家庭用端末として住宅に普及していく時代を想像した。マンションに設置された共同利用型の宅配ボックスでは、そう思ったことはなかったのだが…。

 昨年秋には、政府が働き方改革の一環として11月を「テレワーク月間」と定めて本格普及に乗り出した。自宅で仕事をするテレワークでは、宅配便などの配達も仕事の妨げになる。テレワークの広がりも宅配ボックスの普及を後押しするだろう。

 ただ、2016年末の時点では戸建て向け宅配ボックスへの注目度は低かった。他社に先駆けて16年2月に戸建て用宅配ボックスを発売したパナソニックでは、少しでも知名度を上げようと福井県あらわ市で実証実験を始めたばかり。

 16年秋ごろから分譲住宅向けのオプションとして宅配ボックスの提供を始めたオープンハウスにも聞いたが、「まだ販売実績はほとんど上がってきていない」との回答だった。

なぜ宅配ボックスの機能や使い方に関心が薄いのか

 2017年に入って大きく風向きが変わった。

 日本経済新聞が2月23日付け1面トップ記事で「ヤマト、宅配総量抑制へ―サービス維持限界」と報じたからだ。宅配業者の大きな負担となっていた再配達のコスト・労力を減らす切り札として宅配ボックスが注目された。

 その1週間前の2月17日にタイミング良く、ナスタ、日本郵便、大和ハウス工業の3社が、戸建て向け新型宅配ボックスの記者会見を行った。翌日の新聞でも大きく報道されたが、少し気になることがあった。

 記者会見で、宅配ボックスの機能や使い方の説明がほとんど行われず、会見に出席していた記者からも質問が出なかったことだ。

 パソコンやスマホの新製品であれば、どんな機能や使い方ができるのかを発表者も説明するだろうし、記者も必ず聞いて記事に書くはず。ところが、まだ普及していない宅配ボックスの新製品について機能や使い方を十分に説明しないのは、なぜか。各社の製品の機能や使い方に違いがないからなのか。

 仕方がないので自分なりに調べて記事「戸建て住宅向け宅配ボックスは本格普及するのか」を書き上げ、日経ホームビルダーに売り込んだ。普段は自ら記事を書いて売り込むことはしないのだが、宅配問題の深刻さを考えたら急いだ方が良いと思ったからだ。その記事は3月3、4日の2回に分けてウエブに掲載。それをコンパクトにまとめた記事が雑誌4月号にも掲載された。

 記事は結構、好評だったようで、4月になって日経ホームビルダーから戸建て向け宅配ボックスの特集を組みたいとの依頼が来た。雑誌12ページの特集というので、工務店やビルダーが顧客から宅配ボックスの相談を受けたときに説明するための基礎知識を調べることにした

宅配ボックスに「安全基準」は無し?

 「宅配ボックスとは何か?」―現役時代に物流業界を担当した経験がなく土地勘がなかったので、こんな基本的なことを調べるのにも手間取った。

 宅急便サービスを規定する法律は「貨物自動車運送事業法」である。まずは同法を所管する国土交通省自動車局貨物課に宅配ボックスについて問い合わせた。

 ところが「宅配ボックスの所管は総合政策局の物流政策課なので、そちらに聞いてくれ」という。

 仕方がないので、物流政策課に問い合わせると「駅などに設置する宅配ロッカーの普及には取り組んでいるが、マンションなどに個別に設置する宅配ボックスは所管していない。自動車局の貨物課に聞いてくれ」と、たらい回しにあった。

 ヤマト運輸の広報に尋ねると「宅配ボックスのことは約款に書いてある」という。インターネットでヤマト運輸の「宅急便約款」を検索してみると、確かに「第三章 荷物の引渡し」の第十二条(荷受人等が不在の場合等の処置)の第3項に次のように書いてある。

 「安全な管理及び保管が可能である荷物受け渡し専用保管庫(以下「宅配ボックス」という。)の設置された集合住宅等では、当店はそれを使用して荷受人に対する荷物の引渡しとすることがあります。」

 約款では、宅配ボックスに「安全な管理及び保管が可能」という要件が付いていた。「安全な管理及び保管が可能」と書かれているのだから、宅配ボックスには何らかの安全基準が定められているに違いない。そう考えて約款に許可を出している国交省自動車局貨物課に再び問い合わせた。

 「貨物課で策定している宅配便の標準約款には宅配ボックスの規定は書いていない。従って国交省では宅配ボックスに関する安全基準のようなものは定めていない」との回答だった。

 つまり、宅配ボックスは、宅配業者がそれぞれの約款に自主的に盛り込んでいる規定であり、国交省はその約款に許可を出しているが、具体的な運用は宅配業者に任せているということらしい。

 念のために、ヤマト運輸以外の約款を調べてみると、佐川急便の飛脚宅配便、日本郵便のゆうパックには同様の規定が書きこまれていたが、西濃運輸の約款には宅配ボックスの規定が見当たらなかった。やはり宅配ボックスの取り扱いは、宅配業者が各社ごとに行ってきたようだ。

 そこでヤマト、佐川、日本郵便の3社に、宅配ボックスの安全性について質問状を出したが、佐川急便は回答を拒否。ヤマト運輸と日本郵便は個別製品ごとに判断するとして、記事で取り上げたパナソニックとナスタの製品については「安全性を備えている」との回答があった。しかし、宅配業者が宅配ボックスに荷物を預けるかどうかを判断する基準は判らなかった。

 長々と詰らない話を書いたが、要は宅配ボックスには「安全基準」のようなものが現時点では存在しないということである。

 もし、ビルダーや工務店が顧客から宅配ボックスの相談を受けたときに安全基準のようなものがなければ、どの製品を勧めれば良いかに困るのではないか。そのことは日経ホームビルダーの読者には伝えなければならないと思い、特集記事を執筆した。

メーカーごとに違う操作性や使い方

 宅配ボックスは、単に「鍵がかかるハコ」なので、機能や使い方に大して違いはないと思うかもしれない。しかし、実際に操作してみなければ、違いは判らない。記事で紹介した宅配ボックスは、一通り操作してみたが、メーカーごとに操作性はバラバラで、暗証番号の使い方にも違いがあった。

 例えば、パナソニックの機械式宅配ボックスは、扉内側のレバーを押し下げた状態で扉を閉めると簡単に施錠されてしまって開かなくなり、暗証番号も固定式。同じ機械式のナスタ製は扉を閉めただけでは施錠されず、暗証番号を設定してダイヤル錠を回す必要があり、暗証番号はワンタイムパスワード方式を採用している。

 つまり、パナソニックの宅配ボックスは子どもが一人で遊んでいて閉じ込め事故が発生する可能性がある。ナスタの宅配ボックスは子ども1人だけでは閉じ込めは起こらないことになる。もちろん、宅配ボックスの閉じ込め事故の記事で紹介したパナソニック、ナスタ、フルタイムの製品には、ボックス内から扉を開けられる非常脱出装置が付いている。

 しかし、7月下旬から宅配ボックスの販売を開始したYKK APの製品をショールームに行って確かめてみると、非常脱出装置は付いていなかった。ボックスのサイズがそれほど大きくないので見送ったのかもしれないが、プレスリリースやカタログにも全く記載がないので実物を確認しないと判らなかった。

誰でも簡単に利用できる宅配ボックスで良いのか?

 筆者が最も気になったのは、宅配ボックスはボックスの中が空の状態の時には誰でも簡単に扉を開けられるということだ。つまり宅配業者以外の誰でも、宅配ボックスを利用できるということである。

 実際に、閉じ込め事故の記事にも書いたが、マンションなどでは、エレベーターに乗って自宅まで戻るのを面倒くさがって子どもがランドセルを宅配ボックス内に置いて、遊びに出るケースがあるという話をフルタイムシステムから聞いた。

 重い荷物を家まで一度に運べない時に、宅配ボックスに預けて、分けて運ぶとか、力のある夫や息子が帰ってきた時に運んでもらうといった使い方もされているようだ。時には、荷物を入れたまま忘れることもあるという話も聞く。

 1960年代から普及した郵便ポストは、郵便物だけでなく、新聞、チラシ、広報誌、回覧板などを様々なモノが入れられるようになった。同様に宅配ボックスも、普及が進めば、いろいろな使い方をするようになるのは間違いないだろう。

 現在の宅配ボックスが、簡単に開けられるようにしているのは宅配業者にとって便利だからだ。宅配業者が自ら設置している駅などの宅配ロッカーはそれで構わない。しかし、各住戸に設置される宅配ボックスの所有者は荷受人である居住者である。宅配業者の目線ではなく、居住者の目線で利用できる宅配ボックスであるべきではないのか。

居住者にとって便利で使いたくなる宅配ボックスとは?

 ナスタの宅配ボックスは、集荷を依頼した宅配業者だけにワンタイムパスワード方式の暗証番号を通知することで、宅配便の受け取りだけでなく、発送もできる。この仕組みを使えば、空の状態の時も施錠しておいて、居住者が許可して暗証番号を通知した人だけが宅配ボックス使えるという使い方も可能となる。

 そのことをヤマト運輸の広報に尋ねると「宅配ボックスは、誰でも使えるオープン使用が基本。そうした使い方に対応する考えはない」とのことだった。

 宅配ボックスは、宅配業者の再配達コストや労力を低減させる役割ばかりが強調され、居住者にとってのメリットや利便性がほとんど語られていない。

 確かにそのような現状であれば、積水ハウスの幹部が言うように「本当に宅配ボックスが各家庭に普及するのか」と疑問に思うのも無理はない。真っ当な感覚である。

 宅配ボックスがあれば宅配業者にとってメリットがあるのは当然だが、それ以上に居住者に対して、どのようなメリットや利便性、サービスを提供するのか。宅配ボックスが物流ネットワーク端末として各家庭に普及するかどうかの鍵を握っているように思うのである。