【コラム】外国人労働者の増加で気になること―地域コミュニティと外国人参政権(2018-03-15)

 人手不足の深刻化で増え続けている外国人労働者の基本的人権をどう考えるべきか。筆者が気にかかっているのが外国人参政権の問題だ。選挙権・被選挙権は「日本国民であること」が要件となっているが、住民投票条例を定めている地方自治体の中には外国人居住者に投票権を認めるところが出てきている。今後は町内会・自治会、マンション管理組合に外国人居住者が参加する機会も増えていくだろう。外国人労働者を単なる「労働力」として“なし崩し”的に増やすことで、どのような影響があるのか。身近な問題として考える必要がある。

住基システムで簡単に分かる自治体別の外国人住民比率

 週刊東洋経済が2月3日号で「隠れ移民大国ニッポン」という特集を組んだ。すでに2012年から住民基本台帳システムに外国人居住者の登録が始まり、2013年から日本の総人口は外国人居住者を含む数字で表されるようになっている。住基システムの統計データから自治体別の外国人居住者比率を計算するのも簡単に行えるようになっていた。

 筆者も4年前の2013年12月に古巣のフジサンケイビジネスアイに「建設人材不足 外国人で解消―五輪に向け規制緩和 再入国容認へ」と題する記事を書いた。いまや実習制度を見直してでも外国人労働者を増やさなければならないほど、建設業界の人手不足が深刻化していることを示すのが狙いで、現状のまま外国人労働者を積極的に受け入れるべきと考えていたわけではない。

 むしろ“なし崩し”的に外国人労働者を受け入れることで、社会的混乱が生じる可能性もある。戦前に日本に定住した朝鮮半島や台湾の人たちが戦後も日本に住み続けているように、一度、受け入れてしまった以上は簡単に強制退去というわけにも行かないと思うからだ。移民を受け入れる以上は、それなりの覚悟が必要だろう。

外国人の基本的人権は「寛容度」で確保できるのか

 週刊東洋経済の特集の最後に移民問題について容認派と慎重派で識者の意見が掲載されていた。「日本は移民とどう向き合うべきか」とのタイトルで、経済学者の立場から主に労働問題に絞って意見がまとめられていたが、正直言って違和感を持った。日本の都合だけで、移民を単なる「労働力」としか見なしていないような議論に思えたからだ。

 移民を認めるかどうかの前に、彼らをどのような“待遇”で日本社会に受け入れるのか。国家から制約・強制されず自由に考え行動できる「自由権」、政治的活動に参加できる「参政権」、人間らしい生活を送る「社会権」などの基本的人権をどこまで保障するのかを決める方が先だろう。しかし、そうした議論はほとんど聞こえてこない。

 2017年4月に不動産物件検索サイトを運営するLIFULLのシンクタンクであるLIFULL HOME'S総研が調査レポート「寛容社会―多文化共生のために<住>ができること」を公表した。日本で暮らす外国人問題にいち早く着目し、「外国人不可」の賃貸住宅の存在や、連帯保証人という日本独自の慣行など、住まいを確保するのに外国人が直面する問題を取り上げた。

 レポートでは、欧米での移民問題を中心に基本的人権に言及しているが、参政権については全く触れていない。外国人も暮らしやすい社会について「寛容度」をキーワードにまとめている。しかし、住まいを確保して生活を始めれば、外国人も住民として地域コミュニティに参加することになる。町内会・自治会やマンション管理組合の決め事に外国人も関わってくるわけで、「寛容度」で片付くような問題ではないだろう。

地域防災の受け皿として不十分な町内会・自治会

 なぜ外国人参政権にこだわるのか。不思議に思うかもしれないが、背景には1995年の阪神淡路大震災をきっかけとして地方自治体に広がった「自治基本条例」の問題がある。

 建設・住宅市場を取材するなかで、地震や洪水などの自然災害問題は避けて通れない。死者6000人以上の被害を起こした阪神淡路大震災の翌年に、旧建設省の記者クラブに配属され、インフラや住宅の震災復興問題を取材する機会も多かった。その中で大災害の発生時の人命救助や避難には地域住民同士の共助が不可欠であり、日頃からの防災対策への取り組みも含めて地域コミュニティの重要性が改めて指摘された。

 震災後、国や地方自治体でも、防災・減災対策に乗り出したが、地域コミュニティを対象にきめ細かな対策を講じる場合には、現状では「町内会・自治会」が中心になって動いてもらうしかない。

 しかし、町内会・自治会はあくまでも地域住民の親睦を目的とした任意団体・地縁団体で、入会するかどうかは住民の自由であり、強制力はない。最近では町内会・自治会への世帯加入率は低下傾向にあり、全国平均で6割程度と言われる。国民の安全・安心のための防災・防犯活動の受け皿としては不十分なのだ。

外国人も町内会・自治会の構成員に

 歴史的経緯を調べると、太平洋戦争前に国が全国各地に「町内会」や「隣組」を組織し、住民同士が互いに監視しながら戦争遂行に大きな役割を果たしたとされる。その反省から戦後に制定された地方自治法には当初、町内会・自治会の規定がなく、法的根拠のない組織として再出発した。

 1991年4月の法改正で「地縁による団体」との規定が第260条の2に設けられた。地方自治法で定めている「地縁による団体」の要件は次の4つ。

1)その区域の住民相互の連絡、環境の整備、集会施設の維持管理等良好な地域社会の維持及び形成に資する地域的な共同活動を行うことを目的とし、現にその活動を行つていると認められること。

2)その区域が、住民にとつて客観的に明らかなものとして定められていること。

3)その区域に住所を有するすべての個人は、構成員となることができるものとし、その相当数の者が現に構成員となつていること。

4)規約を定めていること。

 構成員については、国籍条項のようなものは定められていない。加えて地方自治法には「正当な理由がない限り、その区域に住所を有する個人の加入を拒んではならない」と明記。「民主的な運営の下に、自主的に活動するものとし、構成員に対し不当な差別的取扱いをしてはならない」とも定めている。実際に多くの自治体が、外国人居住者の町内会・自治会への加入を積極的に促進している。

自治基本条例で地域コミュニティ活動を活性化

 阪神淡路大震災の後、地域コミュニティの重要性が認識され、住民が主体的にまちづくりや防災活動に参加する環境を整える動きが活発化した。そうした中で、住民主体の自治体運営を推進する基本ルールを定めた「自治基本条例」が注目されるようになった。

 最初の自治基本条例は、1997年3月に大阪府箕面市が制定した「市民参加条例」と言われる。2001年4月には北海道ニセコ町が「まちづくり基本条例」の名称で制定し、全国に広がっていく。NPO法人公共政策研究所のホームページによると、全体の2割以上となる370の自治体で「自治基本条例」を制定している。

 自治基本条例では、自治に関する基本的な理念や自治運営の基本的事項などを定めている。地方自治法では、町内会・自治会などの位置づけや役割が明確になっていないため、住民に行政運営に積極的に参加してもらう法的根拠となる。

 自治体でも、条例制定による効果として「住民の行政への参画や行政との協働」「町内会・自治会やNPOなど市民活動の促進」を挙げている。穿った見方をすれば、町内会・自治会を自分たちの出先機関として使えるようにすることで、行政負担を減らそうという狙いもあるのだろう。

 2004年には国土交通省がマンション管理標準規約の大幅な改定を行い、管理組合の業務として「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成」という条項を加えた。これも地域コミュニティの強化という流れに沿った取り組みと言えるだろう。

自民党が自治基本条例に待った!

 自治運営の活性化に貢献すると思われる自治基本条例ではあるが、これに“待った”をかけたのが自民党だ。民主党政権が誕生したあとの2010年頃に政策パンフレット「チョット待て!!自治基本条例〜つくるべきかどうか、もう一度考えよう」を作成して、地方組織への働きかけを開始。安倍政権となった13年以降は自治基本条例を制定する動きにブレーキがかかっている。

 もともと自治基本条例は、法政大学教授だった故・松下圭一氏が1970年代に提唱し、自治労(全日本自治団体労働組合)や社民党が推進してきた。自民党では、自治基本条例が「国家よりも市民に重きを置く」考え方が底流にあり、外国人参政権につながる可能性があるとして警戒しているわけだ。

 阪神淡路大震災の後に本格化した平成の大合併では、地方自治体が合併の是非を問うため住民投票を実施するケースが増えた。従来は原子力発電所や産業廃棄物処理施設など特定の問題に対する特別措置として行われていたが、住民投票の要件や手続きなどを住民投票条例や自治基本条例などで定めて、住民から要請があれば住民投票が行えるようにする常設型住民投票制度を導入する自治体が増えている。

 常設型住民投票制度を設けた自治体の中には、大阪府豊中市や川崎市などのように、投票権を日本国民だけでなく、永住外国人、さらには住民基本台帳に記載されている外国人居住者に認めるところも出ている。町内会・自治会、マンション管理組合などの地域コミュニティの単位では、外国人居住者も構成員になることができ、投票権も有している。その延長線上で、自治体レベルの住民投票制度でも外国人居住者に投票権を認めるという考え方もあるのだろう。

外国人が地域コミュニティに与える影響は?

 外国人居住者は特定の地域に固まって住む傾向が強い。日本では、外国人には貸したがらない賃貸住宅オーナーも多いと言われ、特定の地域に外国人居住者が集中する要因にもなっている。賃貸オーナーが「外国人不可」とする背景には、地域コミュニティからの批判を恐れている面もあるだろう。

 週刊東洋経済の特集でも、中国人居住者が増えている埼玉県川口市などの事例を取り上げていたが、外国人居住者が集中した地域コミュニティでどのような影響が出るのか。現時点では想像の範囲を出ないが、住みよい環境を実現するために彼らが将来的に政治的な行動を起こす可能性も考えられる。

 外国人労働者は、単なる労働力ではなく、それぞれの地域に生活する「住民」となる。すでに外国人居住者は、住民基本台帳システムに登録され、マイナンバーカードも保持できるなど、日本国民と同じ制度に徐々に組み入れられている。日本国民として移民問題に向き合うのはこれからだ。