年明けから始まる東京オリンピックの開催準備で、最も懸念されるのが建設産業の施工能力不足と資材価格高騰だ。東日本大震災の被災地でも高台造成工事が進み、来年度からは住宅や公共施設などの建設が本格化する。「どちらも絶対に遅らせるわけにはいかない」(国土交通省幹部)工事だけに、政府は外国人技能労働者の規制緩和や工事発注方式の見直しなどの緊急対策に乗り出す方針を固めた。果たして施工能力不足を解決できるのか。

深刻化する建設技能労働者不足

 「地域の職人が札幌へ、札幌に集まった職人は東北の被災地や東京へと玉突きで動いている。職人を確保できずに公共工事に応札できない地場ゼネコンも出てきている。工事があるのに受注できずに倒産する建設業者が出てくるのではないか」―公共事業の依存度が高い北海道札幌市の設計事務所社長がそう嘆く。冬場になって雪国では除雪の仕事も増えるなかで、東京に出て戻らない職人も増えるだろう。

 「絶対的に足りないのは鉄筋工。そこで遅れをカバーしようと型枠大工を無理に集めるから、今度は型枠大工が足りなくなる」と、東京都足立区の型枠大工専門工事業者社長は職人不足の構図をそう解説する。シワ寄せが、建設生産工程のあらゆる部分に波及しているのだ。

復興工事と重なる

 「職人不足をカバーするため、ALC(軽量気泡コンクリート)などの工業製品の使用を増やしているが、関東地区の工場は満杯。京都や富山からもトラックで運んでいる」(準大手ゼネコン役員)。そのトラックも「建設労働者の待遇が改善されてきたため、転職するトラック運転手が増えて、人手不足が進みつつある」(住宅メーカー幹部)という。

 建設技能労働者の不足問題はすでに深刻な段階へと進みつつあり、労務単価も大幅に上昇し始めている。それでも「カネさえ出せば、まだ職人は集められるし、何とか工期に間に合わせられる」(ゼネコン幹部)ので、大きな混乱は今のところ起きていない。しかし「問題はこれからだ」(国交省幹部)。

 東京オリンピック招致が決まる前から被災地から「もしオリンピック開催が決まったら復興工事がさらに遅れる」と懸念する声があった。津波被害を受けた地域の高台造成工事が今年度末から順次、完成する時期を迎え、まちづくりが本格化するのはこれからで、ちょうどオリンピックの建設需要と重なってしまうからだ。

 政府は、来年4月の消費税率引き上げによる景気腰折れを防ぐために5.5兆円規模の2013年度補正予算案を決定しており、うち公共事業に3兆円超を投入する考え。加えて、国土強靭化基本法成立で2014年度予算でも公共事業費の増加は確実な情勢だ。

 来年2月にオリンピック組織委員会が発足すれば、競技場建設などの準備も本格的に始まる。民間建設投資も2020年の目標年度に向けて活発化するは間違いない。来年1月には安倍政権の成長戦略の目玉である国家戦略特区が指定される予定で、オフィスビル、商業施設、マンションなどの建設が加速するだろう。首都直下地震のリスクに備えた木造住宅密集地域の不燃化も急務だ。

 国内建設需要がこれだけ盛り上がりつつあっても、建設業界は供給能力の増強には慎重な姿勢をみせる。これから若年者を雇用して育成するのにも時間がかかるし、特需が終われば反動減に苦しむことになるからだ。「優秀な人材を継続的に確保・育成していくためは、需要が安定してくれる方が有り難い」(大手ゼネコン役員)というのが本音だろう。

外国人の活用を検討へ

 「やはり外国人の建設技能労働者を活用するしかない。官邸も施工能力不足の深刻さを認識したようだ」(国交省幹部)―建設技能労働者はこれまで在留資格とはなっておらず、研修の名目で労働が認められているだけだった。研修期間も最長3年で、毎年約5000人を受け入れており、約1万5000人が建設現場で働いている。現在は日本での研修を終えた外国人技能労働者の再入国は認められていない。

 緊急対策では、即戦力として日本での研修経験のある外国人技能労働者の再入国を認める案が有力だ。また、被災地の復興工事で不足している建設機械のオペレーターを確保するため、日本のゼネコンが行った海外工事で現地での雇用実績のある建設技能労働者を活用する案も検討されている。

 公共工事の発注で予定価格が低いために、豊洲新市場の建設工事など入札不調が相次いでいる問題に対処して、入札制度の見直しも進める。「これまでは価格競争によってコスト引き下げを促す仕組みだった。インフレ対応型に変えなければ、不調ばかりが続いて時間の無駄」として改善を図る考えだ。

 外国人技能労働者の活用に対して、国内の専門工事業者からは反発する声が上がる。「建設費が大幅に上がってきていると言うが、労働者の賃金は法定福利費分ぐらいしか上がっていないのが実情。いま外国人労働者が入ってくると待遇改善が進まなくなる」(専門工事会社首脳)との懸念があるからだ。東京オリンピック後も外国人建設技能労働者の就労を認めるかなどの問題もある。今後の労働需給状況と工事完成時期をにらみながら決断を迫られることになりそうだ。(了)

<後日談>この記事が掲載されたあと、産経新聞経済部の記者が産経新聞本紙に後追い記事を出稿した。すると、政治部から「安倍政権が外国人労働者に対する規制緩和を行うはずがない」とクレームが入ったらしい。ガセネタかどうか、官邸に確認すると真実と判明して産経新聞も記事を掲載。その後で他の一般紙も後追いした。先入観だけで取材すると間違えやすいものだ。

 ネタばらしをすると、実は3か月ぐらい前から筆者が、国土交通省の某幹部に建設技能労働者不足が今後、一段と深刻化するデータを提供。「東京オリンピックまでは外国人労働者の活用を含めて何らかの対策を講じる必要がある」と焚きつけていた。「官邸が了解した」との情報を得て記事を書いているのにガセネタであるはずがない。

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