古巣のフジサンケイビジネスアイ(FBI、旧・日本工業新聞)に5月から定期コラムを執筆することになり、第1回の5月16日付けで「外国からの投資が必須な不動産市場」を書いた。国土交通省が6月11日に公表した土地白書でも海外の経済成長と取り込んで不動産市場を活性化させていく必要性を強調していたが、果たして本当に日本の不動産市場の国際化は進むのだろうか。不動産業界は「東京や大阪など都市の国際競争力を強化すべき」と言い続けているが、「都市の国際化」が日本社会にもたらす意味をどこまで考えているだろうか。外国人ビジネスマンや観光客が増えれば、オフィスや住居、ホテルなどの需要が増加して自分たちは儲かると思っているのだろうが…。

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不動産外国からの投資が必須な不動産市場(2013-05-16フジサンケイビジネスアイ1面掲載)

日本の不動産市場を国際化できるって、本当?

 先日、新聞社を退職した先輩記者からコラムの書き方をアドバイスされた。「社説は意見をストレートに書けば良いので簡単だが、コラムは余韻が大切。読む人それぞれに考えさせるように書くのが難しい」と。これまでコラムの書き方など考えたこともなかったが、第1回のFBIコラムもストレートな主張を展開しているようで、かなり捻くれた思いを込めて書いたつもりだ。

 自分で書いておいて言うのも無責任かもしれないが、日本の不動産市場の国際化は正直、期待薄だろうと思っている。コラムを読んだ国土交通省の幹部からも「確かに正論だが、実現するのは無理だろうね」と言われたが、その通りだ。

 そもそも国内市場を囲い込むことしか考えていない日本に、外国企業がどんどん進出してくるなどあり得ない話だろう。島国根性で凝り固まった日本社会が、外国企業や外国人がどんどん進出してくることを受け入れるかどうかも不透明だ。最近、頻発しているヘイトスピーチ(憎悪表現)と呼ばれるデモが一段と広がっていく可能性もある。

 それでも「外国からの投資が必須な不動産市場」と書いたのは、安倍政権が「脱デフレ」を最優先政策に掲げて成長戦略の中でも「都市の国際化」を強力に推進しようと書いているからである。不動産業界も、10年以上前から積極的に都市の国際化を進めるべきと主張してきた。じゃ、外国企業も外国人もどんどん日本市場に入ってきても「ウェルカムなんですね」ということである。

日本の対内直接投資残高のGDP比率は北朝鮮よりも下

 「日本経済のグローバル化」と言っても、日本企業や日本人が言うグローバル化は、いつも一方通行のグローバル化だ。日本から海外市場に進出することばかり熱心で、外国企業に対して日本市場を開放するなど、実はサラサラ考えていない。そんな国に、いくら法人税率を引き下げたところで、外国企業や外国人がどんどん進出してくるだろうか。

 コラムを執筆する直前の5月6日付けの日経新聞に「外資誘致、見えぬ戦略―対内直接投資低水準続く」という記事が掲載された。2011年時点で日本から外国への対外直接投資残高のGDP比率が16.5%に対して、外国から日本への対内直接投資残高のGDP比率はわずかに3.9%。中国の10.1%、韓国の11.8%、さらに北朝鮮の12.5%より低い水準である。

 いまや東京のライバルと言われるシンガポールは、対外直接投資133.2%に対して、対内直接投資は203.8%。まさに国際都市と呼ぶのに相応しい市場環境が整っている証拠だろう。米国、ドイツなどでも対内直接投資は20%を超えており、いかに日本市場が閉鎖的であるかを数字が如実に示している。

 不動産業界が「都市の国際化」を叫ぶのは構わないが、そうであれば「先ず隗より始めよ」である。外国企業が日本の不動産市場で直接投資しやすいようにネット環境を整え、物件情報も全てオープンにし、外資系の不動産会社がどんどん進出してくるぐらいに市場を開放する。それが本当の意味での国際化である。

 しかし、現実はコラムに書いたように国際間取引が可能なネット環境の整備すら全く進んでいない。2012年度のジョーンズ・ラング・ラサール社の不動産市場透明度ランキングでも25位と、香港(11位)、シンガポール(13位)よりも下で、相変わらず低い評価にとどまっている。外国企業がどんどん参入してくるぐらいに「オープンで透明性の高い市場にしよう」とは、日本の不動産業界が考えていないことを承知でコラムを書いたのである。

土地デフレを止める方法は大都市の地価を上げること?

 安倍政権がめざす脱デフレが成功した時には、やはり地価も上昇に転じると考えるのが常識的な見方だろう。日銀はインフレ率2%まで金融緩和を続けるつもりのようだが、物価が上昇するなかで、地価下落が続いているとは考えにくい。すでに金融緩和で大都市を中心に不動産売買が活発化しており、今後は地価上昇への期待も高まっていくだろう。

 そう予想しつつも、製造業など日本企業の海外移転が止まらず、急激な人口減少が進む日本で、地価が本格的に上昇に転じるというのも想像しにくいところだ。FBIのコラムで、日本全体の土地資産額の数字を改めて持ち出したのも、バブル崩壊後、日本全体の土地資産額が減少し続けている現実を認識したうえで、今後の日本の都市政策のあり方を議論する必要があると思ったからだ。

 では、土地デフレを止めるにはどうすれば良いのか―。リーマンショック前に東京、名古屋、大阪の地価上昇によって日本全体の土地資産額が一時的に増加に転じたように、大都市の地価さえ再び上昇させれば土地デフレは止まるかもしれない。安倍政権が国際戦略総合特区を打ち出したのも、特区への外資誘致を積極的に進めて大都市での地価上昇を促す狙いからだろう。

 FBIのコラムで「外国からの投資が必須な不動産市場」と書いたように、安倍政権は大都市へ外国からの投資を呼び込もうとしているわけだが、本当に「都市の国際化」をこのまま推進して良いのだろうか―。そのことを改めて問い直す必要はあるだろう。

東京と地方との格差拡大にどう対応するのか?

 小泉政権が2001年5月に都市再生本部を設置して都市への投資を促す一方で、公共事業費削減を進めた結果、都市と地方との格差は一段と拡大したのは確かだ。それは、資産を持てる者と持たざる者、高齢者と若者、正規雇用と非正規雇用、あらゆる格差拡大にも影響を及ぼしているだろう。

 アジアのライバル、シンガポールは都市国家だし、香港も特別行政区である。都市と地方の格差といった問題に配慮する必要もないだろうし、都市の中だけで税制や規制などを考えても問題はないだろう。しかし、日本において東京や大阪など大都市だけを切り離して政策を展開することが許されるだろうか。東京ばかりに富が集中し、都市と地方の格差がますます広がっていく。そのような社会を国民は望んているのだろうか。

 日本経済の復活のために「都市の国際化」をどうしても進める必要があると言うのなら、日本市場を開放するためのTPPは不可欠だし、日本の不動産市場の国際化を進めるのも当然だろう。その一方で、都市と地方との格差拡大にはどう対応するつもりなのか。いずれにしても腹を括って取り組まなければならないテーマであることは間違いない。

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