【住宅】家づくりの経済学―(3)住宅すごろくの終わり(2003-05-17)

「住宅すごろく」という言葉をご存知ですか?

 まず、結婚して独立した当初は賃貸住宅。そこで頭金をためてマンションを買う。それからマンションを売って、郊外に一戸建て住宅を建てて、最終目標を達成して、“上がり”。そんな過程が、すごろくに似ているから名付けられたのでしょう。

 最近では、かつての「夢の郊外一戸建て」を売り払って、都心居住のマンションへと住宅すごろくの“上がり”も変りつつあるようですが、そもそも「住宅すごろく」という言葉自体が、バブル崩壊によってすっかり使われなくなってしまいました。

住宅すごろくを支えてきた地価と個人所得の上昇

 「住宅すごろく」がかつて成り立っていたのは、戦後一貫して地価が上昇するとともに、国民所得も上昇し続けてきたからです。

 一般に住宅を購入の目安は、年収の5倍と言われ続けてきました。頭金を理想的と言われる2割用意したとしても、残りを無理なく返済しようとすれば25年、30年という長期間の住宅ローンが必要になります。それだけの長期間のローンであれば、返済不能に陥るなどの事故も発生しやすいはずですが、ほとんどの人たちは何のためらいもなく、30年、35年ローンを平気で組んできました。

 それは住宅ローンの担保となる土地が上昇し続けていたからでしょう。もしローンが破たんしても担保資産を売却すれば、ローンを完済でき、破たんの問題が表面化することがほとんどなかったからです。

 さらに賃金も順調に上昇し、当初は重いと感じていた返済負担も軽減され、そのうち繰上げ返済も可能になって、結果的に返済期間が10年、15年へと大幅に短縮される。これも、ローン破たんが少なかった理由だったと考えられます。

 バブル崩壊の前には「無理して買った都内の専有面積50平方メートルのマンションが、買ったときの2倍の値段で売れて、それを頭金にして郊外に一戸建て住宅を買った」といった成功事例も多く聞かれました。個人でも土地転がしのような資産運用が可能だったわけで、土地神話時代だったからこそ「住宅すごろく」が成り立っていたのです。

 しかし、90年にバブル経済が崩壊して、土地神話も終わり、地価は下落に転じてしまいました。終身雇用制度もすでに崩壊しつつあり、賃上げどころではなく、“賃下げ時代”が到来しつつあります。もはや「住宅すごろく」は成立しない時代になってしまったのです。

住み替えも「資産運用型」から「デフレ型」へ

 住宅の住み替えも、いま住んでいる住宅を高値で売って、より良い住宅へとステップアップしていく「資産運用型」ではなく、地価下落分などを損切りしながら行う「デフレ型」へと替わってしまいました。

 住宅ローンにしても、賃下げ時代は、繰上げ返済を行う余裕がなかなかできずに、結局30年といった長期間ローンを払い続ける人が増えることになるでしょう。それだけローン破たんのリスクは確実に高まるわけです。

 もちろん、こうしたことを改めて指摘しても、地価下落などのリスクを承知のうえで土地やマンションを購入しようと考えているとは思いますが、そうしたリスクはなかなか実感しずらいものです。

 「家をつくる」=「所有」することは、住宅に関するリスクを基本的に個人が背負うということです。土地には地価下落リスクや土壌汚染リスクなどがありますし、住宅ローンには金利リスク、デフォルト(債務不履行)リスクがあります。家をつくるとなれば、建物欠陥リスクも生じます。住み始めてからは、火災リスクもあれば、地震リスクもあります。ご近所トラブルといった近隣リスクもあるでしょう。

 国は、こうした様々なリスクを「持ち家政策」を通じて、国民に背負わせてきたわけです。もちろん、住宅取得控除、住宅金融公庫、地震保険など、国も国民のリスクを軽減するための様々な制度を導入してきたわけですが、最大のリスク対策は“地価上昇”であったことは間違いありません。

 バブル崩壊後、激動する経済環境によって変化していく住宅に関するリスク―これを個人と国とがどのように分担しながら担保していけば良いのか。そうした問題意識がますます重要になっているのです。

つづく