【住宅】ものづくりの品質を決めるのはヒト―安全・安心な家づくりを考える(4)(2011-06-16)

新築住宅を購入するのに私が分譲を選ばない理由は、単純に自分が建築主になれないからである。設計者や施工者を自分で選べないし、施工の状態もチェックできず、工事検査にも立ち会えない。もちろん分譲業者にも信頼できる会社はたくさんあると思うが、建物の安全・安心を一番分かっているのは設計者と施工者自身である。ハウスメーカーや工務店でも、建築主を“お客さん”扱いして設計者や施工者の顔が見えないのも遠慮したい。
■家づくりの責任は建築主→施工段階もしっかりとチェックする
■設計者が信頼する施工者を選ぶ→ものづくりの品質を決めるのは現場監督と職人
■工事検査に建築主も立ち会う→第三者の専門家の意見も聞く
 最近では、分譲住宅や中古住宅を購入する時に、建築士やホームインスペクター(住宅検査員)など第三者を同行して物件をチェックする消費者も増えているが、最後に判断するのは購入者自身であることを忘れてはならない。

建築主として施工現場をチェックする意味とは?

 分譲業者にとって家づくりの最大の目的は、商品を売り切って利益を出すことだ。明確に安全・安心を売り物にした商品でもなければ、販売しやすい平均的な商品づくりにならざるを得ない。住宅用地を取得した時点で、売り出し価格が決まり、分譲業者の利益を除いて建築コストが決まる。結果的に不動産コンサルタントのさくら事務所代表の長嶋修氏もブログに書いているが、分譲マンションの多くが耐震等級がレベル1=建築基準法ギリギリの性能で建てられており、長期優良住宅制度に適合したマンションも戸建に比べて少ないのが実情だ。

 東日本大震災のあと「今回の震災でマンションは大きな被害を受けておらず、むしろ耐震性で利点がある」との記事も見かける。住宅の立地や地盤、建物の構造や耐震性能を決めるのは建築主である。戸建とマンションで構造的に耐震性能の優劣が生じる科学的な根拠でもあるのだろうか。「もし液状化しやすい地盤に建てるのなら…」という意味かもしれないが、建物の復旧リスクの大きさを考えると、分譲マンションでは構造躯体はもちろん、水道、電気、ガス、エレベーターなどの設備系も含めて耐震性能をより高めておくのは当然だろう。

 姉歯事件以降、分譲マンションでも購入(予定)者による現場見学を行うケースが増えた。施工段階での安全・安心を消費者にアピールするための対策と言えるが、消費者が工事現場を見学して施工品質の良し悪しを判断するのは難しいと言わざるを得ない。建築主が施工段階をチェックするという意味は、細かなミスをチェックするというより、現場監督や職人たちの仕事振りを見ることである。どんな仕事でも働く人の姿勢や取り組み方を見れば、良い仕事をしているかどうかは結構分かるもの。ものづくりの品質を最後に決めるのはヒトである。

プロの目で信頼できる現場監督を選ぶ

 マンション事業者も、建築設計事務所やゼネコンに仕事を発注する場合、設計担当者や現場所長を指名することは珍しくない。姉歯元建築士のように、構造躯体のコスト低減が評判となって指名されることもあれば、良い建物を作るために優秀な現場所長が指名されることもある。建築確認検査のピュアチェックを受ける場合に、優秀な審査員を指名する設計事務所もあるぐらいだ。ただし、分譲業者が数ある設計事務所、建設会社の中から誰をどういう理由で選んだのかは、残念ながら推察する以外にない。

 自分は東京理科大学では建築学を専攻したが、卒業後に建築家として認められる人間は1学年100人いても数人だろう。もちろん建築家や設計事務所も客商売なので、技術より営業に優れていて成功している場合もある。実家の工務店では祖父や父が何人もの大工を育てたが、職人の腕にも違いは出る。適当な仕事振りに父が激怒して若い大工を叩き出した現場に居合わせたこともあった。

 そうした実情を知るだけに、自分が建築主になった時、優秀な設計者と施工者に仕事を依頼したいと思うのも当然である。私の場合は、身近に信頼できる専門家がいたわけだが、建築主として安全・安心な家づくりに取り組む覚悟と情熱があれば、必ず自分が求める専門家を見つけ出すことはできるだろう。私が設計者の神成氏に仕事を依頼したときも、真っ先に出した条件は「プロの目から見て信用できる優秀な現場監督と腕の良い大工を連れてくること」だった。

建物が破壊される状況を想定することも必要

 施工は、東京・文京区の馬場工務店に依頼した。工務店の本社にも出向き、神成氏が信頼していた現場監督の加藤さん(残念ながら、数年前に亡くなってしまったが…)にも会って決めた。最初に基礎工事で入った鳶の職人たちは、若い親方の下、キビキビした仕事振りが良かった。「住宅用にこんな頑丈な基礎は作らないよ」と笑いながら、見事に鉄筋を組んだ。大工とはもちろん建具、ペンキ、電気工事、水道工事など多くの職人たちと世間話をしながら、彼らの仕事振りを見させてもらった。

 当時は、新聞社にいて取材に飛び回っていたが、できるだけ時間を見つけては現場に入って現場監督の加藤さんとも話をした。構造躯体の強度のこと、屋根の防水対策や土台のシロアリ対策のこと、断熱材の施工方法や結露対策など、気になるところは遠慮なく質問した。住宅が完成したあとの“家守り”は居住者の役割であり、家の維持管理に役立つ情報をできるだけ聞いておきたかったからだ。時には神成氏の設計に対するネガティブな意見も聞いた。それをどう判断して家づくりに生かすのかも建築主の責任だろう。

 さらに現場では、もし家が地震で壊れるとしたら、どの部分が危ないかを、神成氏や加藤さんと話し合ったこともあった。建物の耐震実験を何度か見学したことがあるが、モノが壊れる時には弱い部分から破壊が起きやすい。いくら耐震性能に優れた建物でも窓やドアなど強度が弱い部分があり、想定以上の揺れがあれば破壊が生じても不思議ではない。日本の伝統工法の木造住宅では、地震の揺れを吸収するために土壁が崩れたり、土台がずれるなどの工夫が施されていたが、そうした先人の知恵は大切だ。万一、建物が破損した時に、どこまで人命・財産の安全性が確保できるかを検討しておくことも、原発だけでなく、住宅にも必要ではあるまいか。

施工現場で建築主と施工者との信頼関係を築く

 建築確認検査は、当時は中間検査と完了検査の2回だけだった。基礎工事が終わり、土台、柱、屋根が組みあがったあとの中間検査には自分も立ち会いたかったので、時間を合わせてもらって市役所の検査員と一緒に建物を見て回った。自分が選んだ設計者や施工者を信頼していないわけではなく、第三者である検査員から意見を聞く良い機会であると思ったからだ。検査が終わったあと加藤さんも一緒に検査員とも話をし、施工者に対する信頼感がより深まったと感じた。

 TBSが6月12日に放送した情報番組「噂の東京マガジン」では、東日本大震災で大きく破壊したハウスメーカーの住宅が取り上げられていた。近くに建つ同じハウスメーカーの住宅と破壊状況が大きく違っていることから、当初から施工に問題があったのではないかという指摘だった。例えが不適切かもしれないが、同じ製品のプラモデルを組み立てるのでも上手い下手はあるし、ボルトの締め方にも上手い下手はあるが、見極めるのは難しい。ハウスメーカー側は施工の品質検査で問題ないことを確認していると主張していたが、依頼者の方はとても信用できないだろう。家にとって、建築主と設計者・施工者との信頼関係が崩れるほど不幸なことはない。

 安全・安心な家づくりは、完成して終わりではないからだ。10年、20年と所有者が保守管理して、安全・安心を維持していく必要がある。そのときに重要なのが、設計者・施工者との信頼関係だ。ちょっと様子がおかしいと感じた時に「ちょっと見に来て…」と気軽に頼むことができる設計者・施工者がいることほど心強いことはない。施工現場は、将来に渡って家守りをサポートしてくれる設計者・施工者との信頼関係を築く場でもある。第三者によるチェックも、その信頼関係にプラスに働くように利用できるのが望ましいと思っている。

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