【住宅】第一歩は土地選びから―安全・安心な家づくりを考える(1)(2011-04-15)

安全・安心に対する考え方には、もともと個人差がある。人それぞれの性格や生まれ育ってきた環境などの違いにもよるだろうし、年齢によっても感じ方が違う。住宅の安全・安心も、何を基準に論じるかは難しい問題だ。それでも今回の東日本大震災に接し、住宅の安全・安心を考えざるを得ないとの思いは誰もが持っているだろう。震災前から私自身が守ってきた住まいの条件は次の3つだ。
最も重要なのは「立地」と「地盤」→沿岸部・山間部や軟弱地盤はできるだけ避ける
建物は耐震性の高い平屋か2階建て→自力避難が困難なマンション高層階に住まない
エネルギーと通信は複数系統を確保→オール電化はリスクが大きい
異論はいろいろあると思うが、今回の震災を通じて「生命の安全は自らが守る以外にない」ということを改めて痛感した。大切なのは、安心して暮らせる住まいだと居住者が納得できるかどうかである。

自力で避難できる住まいを求めて

 健康リスクや経済的リスクには鈍感でも、昔から外的な危険には良く注意する方だった。実家が工務店で、小学生の頃から危険だらけの工事現場で手伝いをさせられていたからだと思う。絶えず足元や頭上に注意していなければ、誤って釘を踏んだり、足場に頭をぶつけたりで大けがをする。昔は「けがと弁当は自分持ち」(工事現場でのけがは自己責任の意味)が当然で、私自身もそう教えられて育ってきた。

 冒頭の3つの条件も、私が生まれ育った環境が大きく影響している。小さい頃からマンションに住んでいて、不安なく暮らしてきた人なら感じ方も違うだろう。しかし、私自身も、女房も、昔から高いところに住むことはできるだけ避けたいと考えていた。生理的に合わないといった方が正しいかもしれない。万一、避難する時のことを想像してしまうからだ。

 最近では建物の消火設備も進歩しているし、大都市部では高さ15階ぐらいまで到達する50m級の消防はしご車も配備されている。それでも避難行動で最も重要なのは「自力で逃げられる」ことだと思っている。いくら装備を整えても、いざと言う時に使えなくなっている可能性があるからだ。人間の英知や科学技術を信用していないわけではないが、建物の形状は地震の揺れに対する物理的安定性を考えても高いより低い方が良いと考えざるを得ない。

木造戸建住宅で重要なのは立地と地盤

 「マンションの高層階に住まない」となれば、選択肢は戸建住宅に限られる(マンション・アパートの低層という選択もあるが…)。日本の伝統建築は木と土で作られてきたので、基本的に水に弱い。今回の大震災による大津波で木造住宅の多くが簡単に押し流されてしまったように、戸建住宅にとって最も重要なのは「立地」と「地盤」である。

 「立地」というと、これまでは交通や生活の利便性の良さばかりが論じられてきたが、本来、最も重要なのは災害リスクが少ない場所であるかどうかである。東京都では、災害防止条例に基づいて1970年から約5年ごとに地震に対する危険度調査を行ない、結果を公表しているが、1995年の阪神淡路大震災をきっかけに、国と地方自治体ではハザードマップの作成・公表に本格的に取り組むようになった。自治体によって作成状況にバラツキはあるが、現在では地震、活断層、液状化、洪水、高潮・津波、土砂災害など様々な種類のハザードマップがインターネットで調べることができる。

 国土交通省の不動産業課で確認すると、不動産取引において宅建業者が買主に対して重要事項説明で告知が義務付けられている災害リスク情報は、土砂災害警戒区域の指定があるかどうかだけである。国は、1969年に「急傾斜地災害防止法(別名・がけ崩れ防止法)」を制定してがけ崩れ防止対策を進めてきたが、危険箇所はその後も増え続けた。規制がないために、新規の宅地開発によって新たな危険箇所ができてしまうためだった。2001年4月に「土砂災害防止法」がようやく制定され、土砂災害警戒区域(全国約20万か所)と特別警戒区域(うち約9万か所)が指定されるようなり、土石流、急傾斜地、地すべりなどの区域を都道府県のホームページで調べられるようになった。

災害リスク情報と経済取引の両立は可能か?

 問題は、それ以外の災害リスク情報をどのように提供するか―。都道府県別に土砂災害警戒区域を調べると、1万か所を超える団体は長野、福井、兵庫、島根、山口、鹿児島など地方が中心だが、地震、液状化、洪水、津波などの危険想定区域には沿岸部の大都市圏が多く含まれる。これらのリスク情報も、土砂災害警戒区域と同様に不動産取引の重要事項説明で義務付けようという考え方もあるだろう。ただ、抵抗は相当に大きいことが予想される。無理に義務付ければ、ハザードマップの作成・公表に対する圧力が高まる懸念もある。

 土砂災害警戒区域の場合は、区域内での住宅建設を規制する意味合いもあって、重要事項説明の義務付けが行われた。しかし、洪水が起こりやすい川の近くや、津波の怖れがある沿岸部、液状化しやすい埋立地にしても、そこでの住宅建設を規制するのは難しいだろうし、平地面積が限られる日本では、昔からある程度の災害リスクを承知で、そうした土地にも人々は住んできた。さらに不動産売買という経済取引に、災害リスク情報を加えて、果たして客観的な価格評価ができるかどうかも難しいところだ。

 私のような考え方の人間なら、超高層マンションの最上階が、価格ゼロでも自分が住むためになら購入しないので、経済取引がそもそも成立しない。津波の起こりそうな沿岸部も、最初から住むつもりがないので、私にとって住宅地として価格評価はゼロだが、商業活動を行うのなら別である。そう考えると経済取引に災害リスク評価を単純に持ち込むはかなり危険ということになる。むしろ経済取引と切り離すことで、客観的で正しい災害リスク情報を詳細に公開できる環境が整えやすいかもしれない。今後、十分に検討する必要がありそうだ。

つづく