家づくりの安全・安心をどのように確保するか―。ものづくり全般に通じることだが、科学・技術に対する謙虚な姿勢と倫理観を持つこと、安全・安心を実現するためのプロセスを大事にすることの2つが重要だろう。私が戸建住宅を選ぶ最大の理由も、建築主自らが安全・安心な家づくりに直接関わることができるため。ゼネコンや工務店を信用していないわけではないが、安全・安心の基準を決めて管理できるのは建築主だけだからだ。私が考える設計のポイントは次の3つである。
■家づくりと家守りの責任は建築主→お任せにせずに建築主が安全・安心を決める。
■優秀で信頼できる建築士(建築家)をパートナーに選ぶ→家はヒトがつくる
■デザインで安全・安心を実現する→安全・安心とデザイン性・使い勝手などを両立するのが本当の設計力
 シリーズ第1回にも書いたが、「生命・財産の安全は自ら守る以外にない」、基本的に他人任せにしないことである。

ものづくりには絶対の安全・安心はない

 ものづくりの安全・安心をどのように判断するのかは悩ましい問題だ。最後は相手を信用してモノを購入するわけだが、信用するかどうかは「情報」に基づいて個人が判断を下すしかない。当然、どのような「情報」を得るかによって、判断は大きく左右される。裏を返せば、どのような「情報」が提供されているかに影響を受けざるを得ない。

 今回の大震災によって発生した福島第一原発事故によって原発の安全性への不安が高まっているが、これまでは原発は「絶対に安全」で、深刻な事故は発生しないとの「情報」が提供され続けてきた。原発を管理する電力会社はもちろん、経済産業省、資源エネルギー庁、原子力安全・保安院、原子力安全委員会、そして大手メディアからもそうした情報が流されてきた。大半の人は原発が安全に作られているかどうかを確認できないのに「原発は安全だ」と思い込まされてきたわけだ。

 しかし、人間がつくるものに「絶対に安全」はあり得ない。設計上は安全でも、製造段階で正しく作られていない可能性もあるし、設計段階では想定していない条件で購入者に使われることや外力が働くこともある。どんなモノでも、いずれは故障したり、壊れたりするのは自然の摂理である。それを前提に人間は道具や機械を使用しているわけで、住宅であっても同じ。地震の揺れに対してどこまでの耐震性能を確保するか、火災に対しての防火性能をどうするか、台風や大雪などに対する強度はどうするか―。最終的に決めるのは建築主であり、それを上回るリスクを保険でどうカバーするかを決めるのも建築主=所有者である。

耐震性能のレベルを決めるのは建築主

 2005年に発覚した耐震強度データ偽造事件、いわゆる姉歯事件で、建築基準法の内容が専門家以外にも広く知られるようになった。この時に注目されたのが、建築基準法の第一条「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。」と、「最低の基準」とはっきり書かれている部分だ。建築確認申請に基づいて建てられている建物は法的には最低の水準をクリアしているだけで、どのレベルの耐震性、耐久性を有しているかは分からないということである。

 当時、建築設計事務所を経営する大学の後輩に「住宅設計を依頼された時、建築主から具体的な指示がない場合はどの程度の強度で設計するの?」と聞くと、「建築基準法の最低基準の1.5倍程度ぐらいですかね」との答えが返ってきた。建築主が何も指示しなければ、法律の範囲内で設計者の裁量によって設計する。後輩のように、建築主が黙っていても住宅性能表示制度の耐震等級が最高のレベル3で設計する建築士もいれば、最低基準ギリギリで設計する建築士もいる。もし建築主が「多少、コストが高くなっても2倍の強度で設計してほしい」と指示すれば、建築士はその通りに設計するだろう。建物の設計強度を決めるのは、建築主自身である。

 もちろん設計者は、予算の範囲内で建築主の様々な要望に応えながら、プラン全体をまとめていく。プロの建築主(不動産会社や大手企業など)であれば、建物の要件や仕様などを明確に示すことができるが、素人の建築主には難しいかもしれない。設計者と緊密にコミュニケーションの取りながら、建築主として何にこだわっているのか、どこに重点を置いているのかを伝えることで、優秀な設計者であれば予算の範囲内でバランス配分を考えながら設計してくれるはずである。また、住宅性能表示制度のような公的な仕組みを使って、耐震等級レベル3を満足してほしいと伝えても良いだろう。

設計プロセスの透明性をいかに高めていくか

 建築主は設計図面を見せられても、耐震性や耐久性のことは良く判らないから設計者にお任せするという姿勢も良くない。姉歯事件でも明らかになったように、実は建築業界では、設計図面の品質管理が必ずしも十分に行われているわけではないからだ。筆者が以前に書いた記事「建築設計における品質とは何か?―建築基準法の見直しに関する検討会で判ったこと」をお読みいただければ、その実情を多少理解いただけるだろう。

 人間、誰しもミスを犯すことはある。人間の手で作るしかない新聞制作でも、今はコンピューターによる自動校正システムが導入されているが、それでも何人もの人間がゲラを読んで誤字脱字や文法的、論理的な間違いなどがないかをチェックしている。それでもミスはゼロにならない。建築設計では、最後は法律によって建築確認検査機関のチェックを受けなければならないが、建築基準法に基づいて問題ないかどうかをチェックしているだけで、より良い解決策を見つけてくれるわけではない。

 建築主が質問すれば、設計者はできるだけ判りやすく解説してくれるはずである。耐震性能についてどのような検討を行ない、建物の強度を確保するためにどのような対策を講じたのか、雨漏りが生じないように屋根の形状とその防水対策をどうするのか…。建築主の役割とは、設計プロセスの透明性を高めることだ。設計者自身も設計図面を自己チェックして、より良い建築へと仕上げていく。安全・安心な家づくりとは、建築主と設計者、そして施工者を含めた共同作業である。

デザインによって建築の基本性能をいかに実現するか

 ちなみに私が12年前に建てた自宅の設計を依頼したのは、同じ大学の研究室の同期だった建築家の神成健氏である。卒業設計では最優秀賞を受賞し、大学院を出て日本最大の組織設計事務所である日建設計に入社。東京・飯田橋にあるJR貨物本社と大和ハウス工業東京本社のある超高層ビルや、箱根の「ポーラ美術館」の設計を手がけ、東京・六本木の東京ミッドタウンでは、大成建設が施工した工区と、建築家・安藤忠雄氏をサポートしてデザイン施設「21_21 DESIGN SIGHT」の設計も担当。現在は独立して事務所を開いている。

 大工だった父は、デザイン優先の建築家が嫌いだった。屋根や外観などのデザイン=形状によって耐震性や耐久性など建築の基本性能が大きく左右されるにも関わらず、デザイン性ばかりを優先して施工方法を十分に検討できていない建築家に苦労させられてきたからだ。建築設計とは、建物の基本性能をデザインによって実現する行為であり、基本性能とデザイン性が両立しない設計はそもそもあり得ないと思っているが、世の中、必ずしもそうではない。様々な現場を経験してきた神成氏であれば、住宅設計でも良い仕事をしてくれると思ったからだ。

 設計過程では、神成氏と何度もファックスで図面をやり取りしながら、基本計画をまとめて設計図面を仕上げた。建築確認申請も、私がさいたま市指定用紙を建築士会で購入し、神成氏が作成した書類一式を自分が市役所に届出・許可を受けた。施工段階に入って、現場を見て私が設計変更を求めると、確実に対応してくれた。設計変更のたびに設計図面を書き直し、建築主に差し替え図面が送られきて、図面上で変更箇所を確認し合った。家が完成したときには竣工図面がほぼ出来上がっていた。基本計画から竣工までの設計プロセスの透明性は、安全・安心な家づくりの基盤なのである。

(つづく)

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