「太陽光パネルなどを設置する住民がまとまれば、もう立派な電力事業者だ。その立場から、政府や電力会社に圧力をかけてマンションを含めて再生可能エネルギーの普及を促進していくことが必要ではないか」―2010年9月に神奈川県地域温暖化防止活動推進センター(NPO法人かながわアジェンダ推進センター)主催の太陽光発電の明日を考えるシンポジウム2「マンション、アパートにも太陽光パネルを」の基調講演で、筆者はそう呼びかけた。発電量に占める再生可能エネルギーの比率が高まれば、消費者である住民が発電事業に果たす役割は大きくなる。単に計画停電や省エネ・節電に協力させられる立場から、電力事業者として積極的にエネルギー政策に関わっていく発想が必要ではないだろうか。

太陽光発電シンポで基調講演した顛末とは?

 シンポジウム主催のNPO法人かながわアジェンダ推進センターは、1999年に施行された「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づいて設立された全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)から地域センターとして指定されている公的機関である。太陽光発電の普及促進に向けて、2010年2月にかながわ県民センターで第一回のシンポジウムを開催し、経済産業省のシンクタンク部門である産業技術総合研究所太陽光発電研究センターの主任研究員が基調講演を行った。

 しかし、神奈川県などの都市部では、集合住宅に住んでいる住民も多い。戸建住宅向けのシンポジウムだけではバランスを欠くので集合住宅を対象としてシンポジウム第二弾を企画したようだ。ところが、いざ調べてみると、集合住宅への太陽光発電設置に焦点を当てて書かれている記事や文献があまり見つからない。結局、2年も前に記事を書いてブログにアップしていた私に行き着いた。ちなみに「太陽光発電、マンション」でGoogleで検索すると、私の記事が6番目にヒットする(2011-6-4時点)。

 最初にパネラーとしての出演依頼があったとき、思わず「私で良いんですか?」と聞き返したほどだ。「2年前の取材で、政府も電力会社もマンションやアパートへの太陽光パネルの本格普及に取り組むつもりがないことが判ったので、その後はほとんど取材していませんが…」と、正直に言った。それでも「他に頼める人がいない」との理由で引き受けることにしたのだが、しばらくすると今度は基調講演する人がいないという話になった。

 最初のプログラムでは、太陽光発電の導入に積極的に取り組んでいる資源エネルギー庁の新エネルギー担当を予定していたが、「とくに講演できる新しい材料がない」との理由で断られたという。他に適任と思われる大学の先生などを調べて私からも何人か紹介したが、すべて断られたと聞く。万策尽きて私に依頼があったのだが、政権交代のあと、太陽光発電の普及にも一段と力が入っていると思いきや、2年前の2008年当時と状況がほとんど変わっていない様子だった。

電力完全自由化が原因との見方は的外れ!?

 主催者側も、エネルギー政策の専門家ではない私が基調講演することに、さすがに不安を感じたのだろう。自らも事実確認しようと事務局の判断で東京電力などに話を聞きに行った。そこでマンション全体を電力自由化の対象となっている50kW以上の高圧需要家と見なして管理組合を法人化して契約したり、小規模電力事業者を介して契約することで、太陽光パネルの導入が可能であると解説。マンションに太陽光発電が普及しない理由が電力完全自由化に起因しているとの見方は的外れとの説明を受けた。

 主催者事務局も東電の説明に納得したようでレポートにまとめて、「電力完全自由化は本質的な問題ではないのではないか?」とのメールが私に送ってきた。2008年時点でマンションに太陽光発電を設置する方法を取材した時には、戸建住宅に設置するのと同じように住戸ごとにパネルを割り当てる「小規模多数連携システム」しかないという話だったが、その後、マンションを50kW以上の高圧需要家と見なして導入できるようになったようだ。東電では、その仕組みを使って太陽光パネルを設置するマンション事業者が登場していることを強調したという。

 しかし、高圧需要家として太陽光パネルを導入する場合には、電気主任技術者の配置や変圧器の設置場所などの厳しい規制をクリアしなければならなくなる。さらに家庭用と高圧需要家では太陽光発電の余剰電力の買取価格も2倍の開きがある。専門家もいないマンション管理組合に、これらの障害をクリアして導入しろ!という方が無理である。

 国の施策として再生可能エネルギーを積極的に導入するというのであれば、なぜ太陽光発電と風力や水力などそれ以外の再生可能エネルギーの買取条件が異なるのか、同じ家庭用太陽光発電を導入するのにも戸建住宅と集合住宅で取り扱いが大きく違うのか、国民にきちんと説明するのが国や電力会社の責任だろう。電力完全自由化に関係なく、単なる制度的な問題であると言うのなら、制度変更できない理由を説明すれば良いではないか。

ドイツの太陽光発電設置は集合住宅5割、戸建4割

 この頃、資源エネルギー庁の「再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチーム」の議論が大詰めを迎えていた。チームでは2010年の初めに欧州などに調査団を派遣してドイツなどでの再生可能エネルギーの導入状況を調査し報告している。議事録によると、太陽光発電の設置で2000年代に入って日本を一気に抜いて世界トップに躍り出たドイツでは、太陽光パネルの設置は、集合住宅5割、戸建住宅4割、メガソーラー1割であった。この数字を見る限り、技術的に集合住宅に太陽光パネルが導入しずらいというわけでもなさそうである。

 全量買取方式は、ドイツなど欧州で短期間に太陽光発電の普及に成功したことに刺激されて、民主党がマニフェストに盛り込んだ政策である。私も当初から、全量買取方式であれば、マンションにも太陽光発電を導入しやすくなり、むしろ長期修繕積立金などの資金を活用することで集合住宅への導入が進むのではないかと考えていた。安全性の面も、余剰買取の対象となっている家庭用太陽光発電の発電量10kW未満のパネルを、集合住宅では設置場所に応じて複数枚設置できるようにすれば、問題はないと思われた。

 しかし、2010年8月に発表された「再生可能エネルギーの全量買取制度の大枠」では、住宅用は全量買取制度の対象から除外された。この時点で政府も電力会社も、マンションに太陽光発電を普及させるつもりがないことがはっきりしたと言ってよいだろう。結局、9月に開催されたシンポジウムの基調講演では、2年前にブログに掲載した記事の内容と同じで、今後の見通しも含めてネガティブな話をせざるを得なかった。

電力会社に消費者=電力事業者として圧力を!

 シンポジウムには、マンションへの太陽光発電導入に取り組み始めていた大京とJX日鉱日石エネルギーの担当者もパネリストで参加した。舞台裏では、電力会社が設けている規制をクリアして太陽光発電の導入を実現した苦労話を聞かせてもらったが、なぜマンションに太陽光発電の導入が進まないのかがよく理解できた。電力会社が保有する送電網に接続するためには、制度面や技術面で様々な規制がかかっているのである。

 基調講演で最後に強調したのは、太陽光発電システムを導入した住民たちが、自分たちも電力事業者になったことを自覚して政府や電力会社に対して主張すべきことは主張する必要があるということだった。場合によっては「家庭用太陽光発電電力事業者ネットワーク」のような組織を立ち上げて、電力事業者の立場から既存の電力業界に圧力を加えていくことも必要だろう。

 この発想のヒントとなったには、エネルギー政策の担当経験もある経産省若手官僚のある一言。
「電力会社が最も怖れているのは、消費者が電力事業者になって電力会社に圧力をかけてくることだ」
確かに、政治家も役所も経済界もメディアも、これまで電力業界に圧力をかけらなかったことは、今回の原発事故で明らかになった。消費者も、電力を一方的に供給される立場だったから「電力の安定供給」を優先せざるを得なかった。

 しかし、マンション管理組合のような組織が太陽光発電を導入して電力事業者となり、周辺の戸建住宅も巻き込んでコミュニティへと広がり、全国規模でネットワーク化されれば、その立場はかなり違ってくる。電力事業者として「電力会社が独占している送配電網をもっと自由に低料金で利用させろ!」とか、「自分たちが発電する再生可能エネルギーをもっと効率的にかつ大量に利用しろ!」といった要求を突きつけることができるようになる。電力市場にも新たな競争が生まれ、省エネ化も含めてエネルギー全体の効率化が進むと同時に、新しい産業やビジネスによる雇用創出も期待できるのではないかと申し上げて、講演を締めくくった。

エネルギー政策の見直しに向けて発想の転換が必要

 シンポジウムの後、残念ながらマンションへの太陽光発電導入の動きが活発化したという話も、政府や電力業界がマンション向けの新たな施策を打ち出したという話も聞いていない。2011年2月18日にまとまった総合資源エネルギー庁新エネルギー部会買取制度小委員会の報告書でも、住宅用太陽光発電の買取方式は、現行通りに余剰買取方式が適当と書かれた。これに基づいて「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案」が、東日本大震災が発生した2011年3月11日に閣議決定したところである。

 福島第一原発事故のあと、菅直人首相はエネルギー政策の見直しを表明した。G8サミット(先進国首脳会議)の席では、再生可能エネルギーの導入と省エネルギーの推進をエネルギー政策の柱に据えることを公表したもの、直後に政局が混乱。果たしてエネルギー政策の見直しが今後どう進むかは判らないが、従来の電力会社や関係業界、経済界が中心となった議論では思い切った政策転換は難しいだろう。国民や環境未来都市となった地域社会が電力事業者としての役割を果たすことを考慮しつつ、エネルギー政策の全体像を考えるべき時期に来ているのではないだろうか。

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