【住宅】日本のエネルギー政策の見直しは進むのか?―太陽光発電とスマートグリッドに関する議論を振り返る(3)(201105-30)

 太陽光発電などの再生可能エネルギーの固定価格全量買取制度をマニフェストに掲げた民主党が衆院選挙で勝利し、2009年9月に政権交代が実現した。自民党政権時代に導入が決まった太陽光発電の余剰買取制度は導入されようとしていたが、11月のオバマ米大統領の初来日に合わせてスマートグリッド、スマートメーターの本格導入に向けて「次世代エネルギー・社会システム協議会」が発足。同時に再生可能エネルギーの全量買取に向けたプロジェクトチームも設置された。政権交代で、自然エネルギーとスマートグリッドの導入が一気に加速するとの期待が高まったが、果たしてどうだったか。

スマートグリッド導入へ高まる期待感

 政権交代後、太陽光発電やスマートグリッドを巡る動きは、記事太陽光発電の買取制度が11月からスタート―現行制度のままでCO2削減25%に対応できるのか?(全3回)」にまとめてブログに掲載した。その後も、日本企業でスマートグリッドに積極的に取り組んでいたNTTファシリティーズや清水建設などの取材をスタート。週刊ダイヤモンドの2010年6月5日号のゼネコン特集で掲載された記事「縮み志向のゼネコンに喝!建設業界のニュートレンド」の中で紹介した。

 しかし、一方で、経産省が立ち上げた委員会などの取材を通じて、スマートグリッド導入が一筋縄では進まないとの懸念も感じていた。2009年12月に開かれた再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチームの第3回ヒアリングでは、こんなやり取りが交わされていた。

全量買取制度をめぐって対立する議論

 自然エネルギーの導入に積極的なNPO法人環境エネルギー政策研究所の飯田哲也代表が、意見提出団体として招かれ、ドイツなど欧州の取り組みを紹介しながら「日本でも自然エネルギーの普及を促進する仕組みづくりが必要」との意見を述べた。それに対して東大原子力学科出身の大学教授の委員からは「電力系統安定化対策費用など負担の観点がない。全量買取のコストも膨大。負担論を考えないと議論が進まない」とバッサリ。

 飯田氏が「太陽光発電などの発電コストは2020年には大幅に下がると予測され、CO2削減効果や石油などの資源価格の不透明性などを考慮すれば、(事務局の)全量買取のコスト試算は過大では?」と疑問を呈したが、「2020年までわずか10年という近い将来の話であるのに、楽観的な話で制度をつくろうとするのは危険。技術進歩は楽観的にみるべきではない」とニベもなく否定された。

 同席した意見提出団体の(社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会の秋庭悦子常務理事からは「電力の安定供給を最優先とするべき。全量買取によるコスト負担を電気料金に上乗せすることは反対」との意見が出された。まさか、この時には原発事故によって巨額の賠償金の負担を電気料金に上乗せされる可能性までは予想していなかっただろうが、消費者団体代表も電力業界の主張を全面的にバップアップする姿勢を示していた。ちなみに、秋庭氏は2010年1月から原子力委員会の常任委員に就任している。

全量買取の対象からは外された住宅用太陽光発電

 雲行きが怪しくなってきたのは、普天間問題や小沢問題で、環境政策に熱心だった鳩山政権がぐらつき始めた5月頃だろう。スマートグリッド導入を議論する委員会としては実に3度目となる「次世代送配電システム制度検討会」と「スマートメーター制度検討会」が5月下旬に設置されたのだが、委員は自民党政権時代とほとんど代わり映えしない顔ぶれ・構成だった。スマートメーターの方には、グーグルの村上憲郎名誉会長、日本IBMの中山雅之理事が委員に加わっていたものの、次世代送配電システムの技術・ルールを検討するワーキンググループの座長は、前回の次世代送配電ネットワーク研究会の座長と同じ。報告書の結論が前回から大きく変わるとは考えにくいメンバーだった。

 6月に入って鳩山首相が突如辞任し、8日に菅内閣が発足した。18日には民主党政権の目玉政策である「新成長戦略」と「新しいエネルギー基本計画」を閣議決定し、大々的に発表。7つの戦略の最初に掲げたのは、グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略だった。具体的な戦略として、全量買取による再生可能エネルギーの急拡大、スマートグリッド導入による電力システムの高度化が打ち出され、エネルギー基本計画にはスマートメーターの全戸導入も明記された。

 当然、新内閣が打ち出した戦略に沿った政策が打ち出されると思いきや、2010年8月に発表された「再生可能エネルギーの全量買取制度の大枠について」では、全量買取の範囲はメガソーラーなどの事業用太陽光発電をはじめとした発電事業用設備に限定され、住宅における小規模な太陽光発電などは対象から除外された。省エネインセンティブの観点から“例外的に”現在の余剰買取が継続されることになったのである。住宅用太陽光発電などに全量買取が適用されて再生可能エネルギー導入が加速すると、電力系統安定化対策が急務となるだけに、スマートグリッド導入の動きが早まるのを調整したという印象だった。

環境価値の分配を巡って電力会社とPPSが対立

 次世代送配電システム制度検討会は、一般公開されたので、都合が付く限り傍聴希望を出してみたが、次世代送配電システムの技術・ルールを検討するWG1の傍聴は一度も当選しなかった。全量買取の費用回収を検討するWG2は初回だけ当選したので傍聴すると、興味深いやり取りがあった。全量買取した再生可能エネルギーの環境価値が、どの事業者に帰属するかという問題である。委員会のやり取りだけでは内容が良く理解できなかったので、後日、オブザーバー発言したPPS事業者のエネット役員にも取材した。

 PPS事業者は、大口需要の顧客を入札などで電力会社と競争しながら獲得して事業を展開している。しかし、国や地方自治体などの公的機関を中心にCO2の排出量が少ないグリーン電力を購入する動きが強まっており、発電源の環境価値が評価されるようになっている。電力会社は発電源として火力のほかにCO2排出量が少ない水力と原子力を持っているが、PPSの発電源は火力が主力とならざるを得ない。そのためバイオマスなど再生エネルギーを積極的に購入し、その環境価値を加えることで、電力会社と競争してきた。

 しかし、全量買取制度の議論は、太陽光発電だけでなくバイオマスや風力などの再生可能エネルギーを含めて電力会社、PPSなどの電力事業者が全量買取し、事業シェアに応じて買取費用を負担すると同時に環境価値も配分する方向で進んでいた。そうなると、事業規模の小さいPPSは、再生可能エネルギー購入による環境価値の調達が難しくなってしまう。メガ太陽光発電所の建設、CDM(グリーン開発メカニズム)の購入拡大などで環境価値を調達することも可能だが、競争力の大幅な低下は避けられないという。

 「環境価値は、再生エネルギーを買い取った業者に帰属するようにしていただかないと、基本的にPPSは事業を続けられなくなる」とまで主張。もしダメなら、PPSに対する環境規制を緩和するか、原子力や大型水力などのゼロエミッション電源をPPSにも開放するか、何らかの対応を強く求めた。しかし、2010年11月に発表された報告書では、環境価値は電力事業者全体に公平配分するとの原則が書き込まれただけで、PPSへの配慮はなかった。

既存制度を維持したままスマートグリッドの導入は可能なのか?

 次世代送配電システム制度検討会WG1とスマートメーター制度検討会の報告書は、東日本大震災発生直前の2011年2月28日に発表された。スマートメーターの方は、前年6月の新しいエネルギー基本計画で打ち出されたスマートメーターの全戸導入を2020年代のできるだけ早期に実現するために電力業界などが積極的に対応していく方向が示された。

 一方、スマートグリッドの方は、課題はいろいろと議論されているものの、導入に向けた具体的な道筋が見えてこない。確かに「再生可能エネルギーの導入拡大」「国民負担」「系統安定化対策」の3つのバランスを実現することは重要であるが、裏を返せばバランスが取れる見通しが立たない間はスマートグリッドの導入も困難ということだろう。どのようなバランス状態になれば導入可能なのかを示さなければ、いつまで経っても見通しは立たないことになる。

 そうした議論の前に、太陽光発電など再生可能エネルギーの出力抑制を行う仕組みづくりばかりが先行して進められようとしている。電力が余れば、蓄電池などに貯めるか、出力抑制するしかないわけだが、これまでも巨大な揚水式ダム発電所を建設して昼と夜の電力需給調整を行ってきたわけで、再生可能エネルギーでも出力抑制以外の対策も検討されるべきだろう。

 3つのバランスのあるべき姿も「既存の電力供給の制度や仕組みを今後とも維持する」ことが前提になっていると考えられる。今後とも3つのバランスの実現見通しがなかなか立たず、再生可能エネルギーの導入拡大も進まないとなると、既存の電力供給の制度や仕組みそのものを変えざるを得なくなる。原発事故をきっかけに噴出した「発電と送配電の分離」の議論も、国民の中にそうした認識が強まっているからだろう。

つづく