【住宅】日本のエネルギー政策の見直しは進むのか?―太陽光発電とスマートグリッドに関する議論を振り返る(2)(201105-30)

 2008年7月の北海道洞爺湖サミットで、福田康夫首相(当時)がCO2削減の長期目標を打ち出した頃、電力業界が太陽光発電の大量導入にかなり神経質になっていたのは確かだ。すでに太陽光発電の電力買取は実施されていたが、既存の送電線網を経由しての買取量が増えれば増えるほど、送電線網の安定化対策が避けられなくなり、巨額の設備投資が必要になるからだ。その議論の過程で、欧米などで構築が始まった「スマートグリッド(賢い電力網)の導入」、さらに過去に封印した「発電事業と送配電事業の分離」といった問題が再浮上する懸念もあった。なかでも「スマートグリッド」という言葉に異常と思えるほど電力業界は過敏に反応していた。

幻となった経産省2050研究会の報告書

 サミット閉幕の直後、経済産業省の外局である資源エネルギー庁は、太陽光発電の大量導入に向けて「低炭素電力供給システムに関する研究会」(非公開)を立ち上げて議論をスタートする。ところが同じ経産省でIT産業を所管する商務情報局でも、ITの視点から低炭素社会実現のための取り組みを進めようと2008年10月に「2050研究会」(非公開)を設置。欧米ではスマートメーター(賢い電力計)の供給実績があるIBMも加わり、スマートグリッド導入について議論を始めたのである。

 経産省のホームページを見ると、審議会・研究会一覧のなかに「2050研究会」が掲載されている。しかし、7回の会合は簡単な議事要旨が紹介されているだけで、詳しい情報はほとんど開示されていない。報告書もまとめられたと聞くが、公表されずにお蔵入りになってしまった。公的研究会の報告書が公表されないのはあまり前例がないと思うが、担当者に理由を聞いても、責任者の判断で見送られたとのこと。これも真相は藪の中だ。

 ただ、2050研究会を取材するなかで、不思議に感じたことがあった。「スマートグリッド」という用語に代って、途中から「ナショナルグリッド」と「ローカルグリッド」という用語が登場したことだ。ナショナルグリッドとは、もちろん大量発電・大量送電を行っている電力会社が保有する既存の送配電網のこと。ローカルグリッドは、地域を限定したスマートグリッドのことである。この2つを合わせて「日本型スマートグリッド」と呼ぶようになったのである。

 電機業界やIT業界がスマートグリッドに期待したのは、第2のインターネット革命とも言われるスマートグリッドの導入によって日本はもちろん世界規模で新しいビジネスが創出されることだ。そのためにはインターネットと同様に国際標準化が不可欠であり、日本型スマートグリッドでは、携帯電話のように新たなガラパゴス現象を生み出すことにもなりかねない。IT産業の育成をめざすはずの商務情報局がなぜ、日本型スマートグリッドと言い出したのか?その理由も当時は良く分からなかった。

日本の実情に合わせたスマートグリッドとは?

 2009年1月にオバマ米大統領が就任すると、グリーンニューディール政策の目玉として「スマートグリッド」という言葉が日本のメディアでも取り上げられるようになった。資源エネルギー庁が設置した低炭素電力供給システム研究会の議事録を見ると、2009年2月に開催された第5回会合で、初めて「スマートグリッド」という言葉が登場する。この時に日本型先進スマートグリッド技術という呼び方をしており、オブザーバー参加の電気事業連合会技術開発部長は「スマートグリッドには明確な定義がないのが実情。日本の実情を踏まえて我々に合ったスマートグリッドを研究すべき」と発言している。

 さらに第6回会合では事務局がまとめた論点整理のメモから、なぜかスマートグリッド、スマートメーターという言葉が消されていた。そのことに一部の委員が強く反発。2009年7月に公表された報告書には、スマートグリッドという言葉が記載されたものの、「スマートグリッドなる概念も含めて、本格的な研究開発を含む大きな課題を克服していかなければならない状況にある」との認識が示されただけで、幕引きとなった。

 ところが、翌月の2009年8月、資源エネルギー庁は、委員を大幅に入れ替えて、新たに「次世代送配電ネットワーク研究会」を立ち上げる。月末には歴史的(?)な衆院選挙を控えて役所の動きも止まっていた時期に、研究会は動き出した。

 前回の低炭素電力供給システム研究会の委員は、学者5人、シンクタンク2人、電事連、太陽光発電協会、証券アナリスト、消費者団体、マスコミ各1人の12人構成だったが、新しい研究会は前回から同じ委員は4人だけで、新規メンバー13人が加わって17人に。構成も学者4人、電力業界4人(東電、関電、中電、電中研)、重電メーカー3人(日立、東芝、三菱)、太陽光発電協会、風力発電企業(東電と豊田通商の共同出資)、証券アナリスト、消費者団体、シンクタンク、マスコミと、ガラリと変わった。

 次世代送配電ネットワーク研究会も非公開で行われ、詳しい議事録も公表されていない。実際にどのような議論が行われたのかは分からないが、政権交代後の2010年4月に公表された報告書に目を通した限り、欧米などで導入が進められている「スマートグリッド」と、日本が推進する双方通信が可能な「次世代送配電ネットワーク」を明確に区別して使い分けている。日本が導入するのは欧米型のスマートグリッドではなく、日本(の電力業界)の実情に合った次世代送配電ネットワークであることを強調した内容となった。

つづく