日本新聞協会が公表する新聞の総発行部数は2010年10月現在で前年比103万991部(2.0%)減の4932万1840部となった。6年連続の減少で、100万部以上の減少は2年連続。5000万部の大台を割り込んだのは1987年以来、23年ぶりとなる。今のペースが続いても、10年後には4000万部を割り込む計算だが、日本の人口減少は始まったばかりで、これからが本番。今後はスマートフォンやiPadのようなタブレット型PCの本格普及で、新聞や雑誌を買うよりも、読みたい記事だけを読むという消費者のニーズは一段と高まるだろう。私がウォッチしているゼネコン業界のように、大手5メディア体制のまま、縮小均衡へと突き進むのか?それとも再編はあるのか?

増え続ける情報コストをどう軽減するか?

 電車に乗っていても、タブロイド紙や雑誌を開いている人を見ることが本当に少なくなった。乗客10人中5、6人は携帯電話の画面を見ている感じだ。私も電車の中で携帯からPCメールをチェックすることが多いが、最近はゲームに夢中になっている人も良く見かける。携帯ゲーム会社も、若者から熟年層へと市場拡大を図ろうと、盛んにテレビCMを流している。

 タブロイド紙は、今年から65歳を迎え始める団塊世代のサラリーマンを中心に支えられてきた。駅売り価格は1部130円、週5日買っても650円、1か月(4週分)で2600円である。かつては200円程度だったタバコを1日1箱として月6000円。携帯電話代を払う必要がない時代であれば、月のお小遣いが2万、3万円としても十分に払える金額だっただろう。

 インターネット時代になると、携帯電話代、インターネット接続料、情報端末費などIT関連の費用が新たに発生した。ジャーナリストを商売にしている以上、情報への投資は当然と思われるかもしれないが、投資に見合う収入が得られていればの話である。私もフリーになった時にタバコを止めたので、その分が携帯電話代に代わったが、情報を得るための費用をいかに軽減するかは、いまや切実な問題である。

 ちなみに情報を得るために私が支払っている月額費用は下記の通り。
・新聞代=約8300円(全国紙2紙)
・CATV代=約1万7000円(インターネット接続料、固定電話代、WowWowを含む)
・NHK受信料=約1300円
・携帯電話=約6000円(端末費用を含む)
・プロバイダー費用=約2700円(両親用)
・ニコニコ動画=約500円

 これらを合計すると約3万6000円となる。プロバイダー費用(両親用)とは、年金生活をしている両親がインターネットをやりたいというのでパソコン環境を整え、プロバイダー費用だけは私が負担している。離れて暮らす親に、費用負担して携帯電話を持たせている人も多いだろう。

 情報端末を購入する費用もばかにならない。パソコンも携帯電話も一人一台の時代であり、新しい機種も次々に登場してくる。これだけの固定費をかけた上に、経済雑誌や週刊誌、専門紙や業界紙などを購読する余裕のある人がどれぐらいいるだろうか。最近の若者が新聞を取らなくなったり、雑誌を買わなくなるのも致し方ない話である。

情報を囲い込むための道具となった記者クラブ

 これまでの既存メディアのビジネスモデルは、民間のメディアが自前の記者を抱え、できるだけ多くの情報を囲い込んで、読者にとって読みたい記事も、別に必要ない記事もまとめて、広告とセットにして買わせているというやり方である。紙や電波に乗せて情報を大量生産・大量販売するには、そうしたビジネスモデルが効率的だったと言える。

 新聞の部数を伸ばし、テレビの視聴率を上げることで、巨額の広告収入を得られるようになると、メディアごとに情報やコンテンツを囲い込むことで、読者や視聴者を囲い込む戦略が加速する。代表的なものが読売グループの読売ジャイアンツというコンテンツだが、その延長線上で、記者クラブ問題も生じるようになったのだろう。

 本来、記者クラブとは、会見者側にメディアや記者を選別させないための制度であったはずである。官邸や役所の記者会見であれば、フリーの記者であっても、国民の知る権利として出席を求めるという大義名分は成り立つ。しかし、主に民間企業を取材する経済記者の場合、企業側に嫌われて会見に招待してもらえなければ、取材するチャンスすら得られない。そんな時に、会見者側に圧力をかけて記者を守るのが記者クラブの役割のはずで、記者クラブが記者を選別するなどあってはならないことである。

 ところが、大手の既存メディアほど、情報やコンテンツを囲い込まなければ収益が上がらないビジネスモデルとなったために、記者クラブも情報を囲い込むための道具となってしまったのである。それを、政府や役所などの権力側に上手く利用されて、現在のような歪な記者クラブ制度ができあがった。

 大手メディアの姿勢は、記者クラブ内に限ったことではない。最近、各メディアから注目され取材が相次いでいる某企業のパブリシティ制作の手伝いをしているが、そこの社長も「大手メディアの記者に限って、他のメディアに情報を流さないように圧力をかけてくる」と辟易している。もはや、報道機関としての役割を忘れて、メディアの利益、記者個人の利益のためだけに取材しているとしか言えない状況に陥っている。

省庁再編でも記者クラブの権益は確保

 日本工業新聞を退社する直前、私は建設省記者クラブに在籍していた。2001年1月には中央省庁再編に伴って、建設省、運輸省、国土庁の記者クラブが統合され、国土交通記者クラブが発足する予定で、その準備作業に追われていた。私自身は、2000年末での退社が決まっていたので、統合準備はどうでも良いことだったが、最後のご奉公だと思い、各メディアの要望を聞いて現在のクラブ室のレイアウトを設計したのは、建築学科出身の私である。

 当初、記者クラブ側は、新しいクラブ室のレイアウトや準備も役所にやらせようとしていた。しかし、自分たちが利用させてもらう部屋のレイアウトまで作らせるのは、いくら何でも遣り過ぎだと思い、その役目を買って出た。クラブ室内の机や書棚などの備品の数量と寸法を全て調べ、リストを作成し、各メディアの割り当てを調整し、営繕部から部屋の詳細図面を取り寄せて、全体のレイアウト設計。テレビ局の要望も聞いて、会見室の照明や電源などの配置も決めて、役所側に要望した。

 記者クラブの統合では、中央省庁再編による行政スリム化を考慮して、記者クラブ室も規模を縮小すべきという声が当初は出ていた。しかし、大手メディアのベテラン記者から、「何も記者クラブ側から、規模縮小を申し出る必要はない」との強い意見が出て、建設記者クラブ、運輸記者クラブ、国土記者クラブの床面積を単純合計した広いスペースを役所側に要求。すんなりと今の余裕のある広いクラブ室が確保されたのである。

 役所としても大事な省庁再編を控えて、記者クラブ側を刺激したくないと思ったのかもしれない。私自身は、相手の足元を見て広いスペースを要求することに内心忸怩たる思いもあったが、途中で発想を切り替えた。「いずれフリーの記者も自由に出入りできるオープンな記者クラブになる」ことを期待して、その時のために広いスペースを確保しておいても良いと考えることにした(かなり身勝手な発想ではあるが…)。

 実は、クラブ室のレイアウトも、将来に備えてフリーの記者が自由に使える机とスペースを目立たないところに配置。新規メディアが加盟した時のために拡張性を考慮した設計となっており、10人分ぐらいの机ならすぐに確保できる。何年後になるか分からないが、ジャーナリストを続けていれば、いつかはフリーでも記者クラブに戻れる日が来ると思い、そうしたのである。

記者や言論人が集まる非営利団体の可能性

 それから10年、残念ながら、フリーの記者が記者クラブに席を確保することは実現していない。相変わらず、記者クラブは情報を囲い込むための道具になっている。それに代わる組織として日本不動産ジャーナリスト会議(REJA)と一般社団法人IT記者会に参加させてもらった。REJAは、日本工業新聞の大先輩である木村さんに紹介していただいて2002年に入会。2005年には、REJA幹事だった木村さんを引き継いで、幹事になった。

 REJAでは、月1回のペースで企業のトップや有識者を呼んで勉強会を行っている。元朝日新聞の阿部代表幹事、元不動産経済研究所の伊能幹事、元日刊工業新聞で大京元取締役だった大越幹事などの幅広い人脈を通じて、フリーの記者ではなかなか取材できない人たちが講師で来てくれる。そこで築いた人脈のおかげで、フリー生活を続けてこれたと言っても過言ではない。

 REJAに対しては、一部に定年退職した高齢の記者OBのサロンとの批判を聞くこともある。しかし、人間誰しも、歳を取る。定年を迎えたからと言って、記者として培ってきた知見や豊富な人脈を活かさないのはもったいない。それらを後輩たちに伝えていくことも必要だろう。メンバーも多士済々で、先日も某大学の教授が講演に来て、講演後のREJA会員の質問攻めで議論が白熱し、その内容の濃さに「今日は来て良かった。自分も勉強になった」と言って帰っていった。私自身も、目からウロコの話が多くて勉強になっている。

 REJAの活動には超多忙でほとんど参加していないものの、最近、メディアにも良く登場している言論NPO代表の工藤泰志氏も、REJAのメンバーだ。私も1度しか会っていないが、「土地問題は、自分のライフワークのひとつなので、REJAを退会するつもりはない」と言っている。そんな工藤さんの活躍ぶりは、ネットを通じて注目しているが、本当に素晴らしい。言論機関として大義を掲げることの大切さを学ばせてもらっている。 (つづく

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