【建設】建設業に求められる「透明性」とは何か?(3)―出来高払い方式が普及しない理由(2002-12-17)

 建設コストの透明性を確保するのに有効な手法であると誰もが認めるのが「出来高払い方式」である。ご存知のように出来高払い方式は、建設工事の仕上がり状況に応じて工事代金を決済するというもので、何も特別なやり方ではない。東京電力では、昭和30年代から出来高払い方式で工事代金の決済を行っている。日本でも十分に対応可能な方法なのだが、これまで東電など一部の企業を除いて、ほとんど普及してこなかった。普及しなかった理由は、発注者側にある。最大の市場である公共工事において、出来高払い方式が導入されずにきてしまった影響は大きい。民間工事はなおさらである。

 

出来高払いのインセンティブが働かない?

 「発注者の立場で考えたなら、日本のような一括請負契約で工事代金が事前に決まっていて、予算オーバーのリスクが小さければ、お金はできるだけ遅く支払った方が良いに決まっている」(大手ゼネコン幹部)。つまり、発注者側に出来高に応じて仕上がり状況をチェックして、代金決済を早く行うインセンティブが全く働かないわけである。裏を返せば、大多数の日本の建設業者は、それだけ真面目に仕事をしていて、発注者側もおおらかに対応できたと言えるかもしれない。

 公共工事では、技術官僚が積算した予定価格通りに仕上げてくれれば、民間工事のようなシビアなコスト削減を求める必要もない。むしろ最初に契約した一括請負金額の範囲内で、予算オーバーしないやり方の方が有り難いと言える。日本の建設工事発注に関する仕組みや商習慣は、公共発注者(正確には発注代行者)にとって都合のよいように作られてきたと言って過言ではない。

公共工事の出来高部分払い方式に建設業界が反対する理由

 2002年7月、建設業界が出来高払い方式をめぐって大きく揺れた。業界関係者の予想に反して、国土交通省による出来高部分払い方式の試行実験が02年度も継続、拡大されることが決まったからである。

 すぐに日本最大の建設業界団体である全国建設業協会(全建、会長・前田靖治・前田建設工業社長、会員数約3万社)が反対運動を開始。「貴省が検討しておられます出来高部分払い方式の導入には反対するとともに、現行前払い制度の堅持と中間前払い制度の一層の活用・拡大を図られたく、強く要望申し上げます」―2カ月後の9月には、そう書かれた要望書が扇千景国土交通大臣あてに提出された。

 建設業界が出来高払い方式に反対する理由はいくつか考えられる。最も大きいのは最大4割もの前払い金が削減されることだろう。標準で1割、最大でも2割以内という案が示されており、それでなくても資金繰りが苦しくなっているだけに、前払い金が削られればその衝撃は大きい。

 さらに「工事費全体の総額だけによる現行契約を変えないままで、出来高払い方式を導入されては困る」(ゼネコン幹部)という、もっともな理由もある。工事費の総額だけの契約では、出来高を算定する時の根拠が不明確で、算定作業も大変だ。総額のほかに、基礎工事がいくら、鉄筋工事がいくら、というように工事種別ごとでも単価契約金額が決まっていれば、出来高を算定しやすく、専門工事業者への支払いもスッキリするはずである。

建設コストの透明性確保は置き去りに?

 しかし、毎度のことながら、国土交通省が新しい制度を導入しようとする場合、現行制度をどの程度見直そうと考えているのかが見えにくい。建設業界が現時点で反対しているのも、国土交通省が工事種別ごとの契約を導入する可能性はほとんどないと見ているからである。出来高払い方式にとって最も手間のかかる出来高査定も、東京電力では発注者側の監督員と検査員が兼務して効率的に行っているが、公共工事では現状の監督官と検査官を分けたままを前提に議論している節がある。

 前払い金が大幅に圧縮された場合、前払い金保証を行っている建設業保証会社をどうするかという問題も浮上するはずだが、手をつける考えなどサラサラないと思われる。現実問題として「出来高払い方式を導入できるほど、公共工事の施工と資金の流れが厳密に管理されていない」との指摘もある。

 今回の公共工事における出来高払い方式の議論は、ゼネコンの資金繰りが厳しくなる中で、下請け業者への支払い条件が劣悪化していることへの対策が主で、建設コストの透明性を高めようという狙いはほとんど含まれていない。出来高払い方式の研究会(02年6月で解散)の座長だった国島正彦・東京大学教授が、その後も同方式の導入を熱心に主張し続けているのも、国土交通省が本気で出来高払い方式を導入するつもりがなく、ウヤムヤになりそうな気配を察しているからだろう。

 国島教授が国土交通省の外郭団体である日本建設情報総合センター(JACIC)の機関誌にこんな一文を寄せていたので、紹介する。

 「公共工事における毎月清算払いは公共発注者がやるべき最も重要な事項の一つである。だから、日本以外の世界各国で行われているのである。やるべきことができない連中が集まって、コスト縮減と品質確保のための多様な入札契約方式などと言われても笑止千万である。コスト管理をしない契約システムを温存したままコスト縮減などできるはずもない。(中略)国土交通省が、全省を挙げて組織的に“やるべきことをやる”すなわち“毎月清算支払い方式と言う国際標準を導入する”と決断することである。それができないようでは、国土交通省は臆病な腰抜け野郎と悪口を言われても仕方がない」。

 まさに正論である。
つづく