「透明性の確保」とは、ヒト、モノ、カネの『情報』がキチンと整備され、かつ更新されている状態にあり、その情報にいつでもどこからでもアクセスできることを意味する――。これが私なりの「透明性の確保」の定義である。さらに、ここで言う『情報』にも、様々なレベルがあり、建設プロジェクト単位の情報から、工種ごとの情報、産業全体の情報までその範囲は広い。

情報不足でも通用する一括請負方式?

 身近な事例として、個人が一戸建て住宅を建てる場合を考えてみても、誰に最初に仕事を依頼すればよいのか、ハウスメーカーか、工務店か、設計事務所か…。住宅産業の全体構造とそれぞれの特徴が、一般消費者にはほとんど知られていない。工務店に頼む場合、できるだけ腕の良い大工に仕事を依頼したいと思っても、そのような情報もほとんど見当たらない。工事契約を結んだあとも、カネの流れや施工監理の状況などの情報もキチンと提供されているとは言い難い。あらゆるレベルの情報が整備されておらず、不足しているのである。

 ただ、そうした情報不足の状態であっても、建設工事を進められるのが請負契約方式だと言うこともできる。建設業法によれば、「建設業」とは、建設工事の完成を“請け負う”営業をいう―と定義づけられている。工事を請け負った以上、あとは建設業者に任せておけば、当初契約通りの予算と仕様で建物が完成される。発注者は信頼できる元請業者さえ見つけ出して、仕事を発注すれば、あとは“お任せ”で、中身はブラックボックスでも問題がないはずと言うわけだ。

 しかし、その信頼が崩れてしまえば、どうしようもない。原因は様々ではあるが、談合問題や欠陥住宅、手抜き工事など自業自得と言えるようなものばかり。「そんな不良不適格業者は、業界全体のほんの一部だ」とも言えるが、いまや、そうした反論が通用しない社会になっていることは自覚しなければならないだろう。

相互監視機能が低下した都市型社会

 戦後、相互監視によって強い自制が求められるムラ社会経済から、工業化の進展による都市型経済へと移行するなかで、日本社会の秩序を維持してきた相互監視機能は大幅に低下してきた。狭いムラ社会において信頼を裏切ることは死に直結する行為だが、都市では必ずしもそうはならない。会社の名義を次々に変えて騙し続けて儲ける人間も出てくる。

 行政による監視機能も、付け入られる隙を与えるとなし崩しとなってしまう脆いものであり、マスコミなどによる監視機能も限定的なものだ。いずれにしても抑止力としては必ずしも十分ではなく、狂牛病による牛肉買い取り問題のように「バレなければ大丈夫」という心理も働きやすい。また、問題発生を予防するという機能も十分とは言えないだろう。

 「アカウンタビリティ」(説明責任)―この言葉が日本でも使われるようになったのも、最近のことだ。まだ、10年も経っていないだろう。あの霞ヶ関の中央官庁ですら、HIV問題などで国民の攻撃にさらされ、ようやく2、3年前に情報開示窓口が設置したところだ。国民や消費者の信頼を確保する方法は、適切な「情報開示」以外にはなくなってきているのである。

建設業者と発注者との信頼関係を再構築する鍵は?

 建設業では、いまだに「情報開示」に対する抵抗が根強い。建設コストの情報開示について、いまだに「トヨタなど自動車メーカーだってコストを開示していないのに、なぜ建設業だけコスト開示する必要があるのか」との理屈で、反論する業界関係者が少なくない。自動車は「これだけのコストがかかっているので、この値段で買ってください」と消費者にいくら情報開示したところで、「高いから買わない」と言われれば、それでおしまい。自動車メーカーは莫大な先行投資を行い、それだけのリスクを背負って価格設定を行っているわけで、建設業者とは全く立場が異なる。

 建物も「請負金額が一度決まってしまえば、あとは実行コストを開示する必要がない」と考えることもできるかもしれない。しかし、請負金額決定の根拠となる見積価格が実際の実行予算とは大きく異なっていることは、いまや周知の事実。見積価格に対する信頼が失われれば、請負業者にとって悲惨な結果が待っている。いわゆる“指し値”発注が横行し、それが手抜き工事を生み、さらなる信頼の低下を招くという悪循環に陥ることになる。

 ハルシステム設計の安中眞介社長が立ち上げた中小ゼネコンのネットワーク「B-NET」では、「クッションゼロ」予算という考え方で、実行予算を発注者に対しても情報開示を行っている。実行予算に紛れ込ませている「不確定支出への備え」とか、「計画の狂いの吸収」とか、「マージン」とか、請負金額の範囲内で工事を仕上げるための余裕部分=クッションをゼロにして、あとから発生したクッションを発注者と協議しながら積み上げていくという手法である。

 「建設現場の利益は、発注者とともに作り上げていくもの」―B-NETを主宰する安中氏の言葉には、発注者と建設業者との信頼関係を再構築する鍵が含まれているように思うのである。
つづく

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