ソフト開発会社のエイチアイ(HI)が、創業19年目となる今年(2007年)4月にジャスダック市場に上場を果たした。ソフトの受託開発から出発したHIが大きく飛躍するきっかけとなったのが、3D(三次元)画像のゲームキャラクターを携帯電話でも動かせるようにした3Dグラフィックエンジン「マスコット・カプセル」の開発だ。相手が機械でも画面にキャラクターが登場すると、人は親近感を感じるもの。複雑化する携帯やデジタルテレビなどの操作も、キャラクターを使って飛躍的に向上できないか?技術開発型企業にHIを育てた社長の川端一生は、人間と機械とのインターフェースに革命をもたらそうと情熱を燃やしている。

転勤なしの就職先を選んだつもりが…

 川端が、国立舞鶴高専電気科を卒業したあとシステムエンジニアとして就職したのはNECのソフト子会社、関西日本電気ソフトウェア(大阪市、現・NECシステムテクノロジー)だった。

 「自宅のあった滋賀県長浜市からも通勤でき、転勤もないと思ったので…」

 そんな甘い川端の目算は見事に外れた。1年目からNEC東京本社に出向となり、基本ソフトウェアの開発部門で働くことに。2年後に関西に戻れることになったものの、神戸市にあるソフト子会社へ移籍。結局は自宅からの通勤を断念してひとり暮らしを始めた。

 「転勤ばかりの環境なら開発案件も多く活力のある東京で働いた方がいい」

 そう思い立った川端は、NEC時代の先輩が起こしたソフト会社を頼って上京。その会社からの派遣で、東洋情報システム(TIS)で働き始め、人工知能(AI)の開発に携わるようになった。ちょうどUNIXベースのエンジニアリングワークステーションが普及し始めた時期で、川端は「Sun View」「X Window」などグラフィックインターフェースやAI向けプログラム言語「LISP」など最先端技術にも接することになる。

学生アルバイトの受け皿会社だったエイチアイ

 当時、TISでは優秀なIT系大学生がアルバイトとして多く働いていた。彼らを採用するための受け皿会社として学生を中心に1989年に設立されたのが有限会社HIだった。学生と同じ分野のソフト開発を担当していた川端もHIの経営に関わるようになる。

 90年にバブル経済が崩壊し、翌年にはIT業界にも影響が及んできた。外注先の整理が始まり、受託開発を主力としてきたHIも大きな岐路に立たされる。

 「有限会社というだけで仕事を切られた。せっかく優秀な人材が揃っていたので、株式会社に衣替えして、大きな仕事も受託できる企業をめざすことにした」

 学生アルバイトの社員たちは、増資のために給与削減が決まるなかで、HIに残るかどうかの選択を迫られ、最後に社員として5人が残った。同時に大学院生だった社長から、HIを川端が引き継ぐことになったのである。

 グラフィックスやAIなどの技術を武器に船出した新生HIは、大型案件の受託開発の受注をめざす一方で、独自製品を開発して販売することを目標に定めた。川端は、仕事を取るために、新聞記事を見てデジタルカメラの開発を始めた大手企業や大手半導体商社などに営業して回った。

 「新聞を見ても連絡先が判らず新聞社に聞いたら、教えられたのは広報部の電話番号。そこから開発担当者を紹介してもらって仕事を受注した」

 当初から大手企業からの受託にこだわったのは、資金回収の焦げ付きを回避するのと同時に、取引先の信用力で銀行からの融資も受けやすいと考えたからだ。

資金繰りの苦労で銀行との付き合いを学ぶ

 最初は国民金融公庫から資金を借りたり、自分の生命保険を担保に高価だったパソコンのリース設定をしたりと苦労した。銀行にも、自分で工夫して作成した資金繰り表を持って毎月通い、担保なしの個人保証だけで三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)から300万円の融資を引き出すことに成功した。

 「必死になってお金を借りて回ることで銀行との付き合い方も判り、良い経験だった」

 受託開発事業は、デジタルカメラ付属の画像処理ソフトや、人気の高かったマッキントッシュ向けグラフィックソフトから、納期が厳しい分だけ収益性が高かった展示会向けデモンストレーション用ソフトまで、幅広く手がけた。しかし、もう1つの目標だった独自製品の開発は、グラフィックインターフェース関連分野でトライしたものの、資金力、販売力が続かずになかなか芽が出なかった。

 受託開発事業で会社の収益基盤も整備され、社員数も増え始めるなかで、株式会社化から4年目の1994年。現在の主力製品「マスコット・カプセル」の前身となる最初のグラフィックエンジン「マスコット・エンジン」の開発をスタートした。

つづく

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