日本土木工業会の機関誌「CE建設業界」11月号に、コラム「営業戦略の欠如が生んだ利益なき消耗戦」を寄稿し、掲載された。過度な価格競争に陥りがちなゼネコンの営業体質から脱却するべきという“言わずもがな”のテーマで記事を書いたのは、このままでは下期から再びダンピング受注競争に突入するのではないか?という強い危機感があったからだ。主要ゼネコン20社の2009年9月中間期決算で公表された受注計画を集計してみても、上期受注高が前年同期比32.5%と大きく落ち込んだにも関わらず、通期計画の見直しは小幅にとどまった。この通期見通しの数字をクリアするには、下期受注高は前年同期比24.9%増を達成しなければならない。各社それぞれの思惑で数字を積み上げたのだろうが、民主党政権による公共事業費の削減、円高による民間需要の低迷、海外受注の減少と厳しい受注環境が続くなかで、どのようにして受注を確保するのだろうか。まさにゼネコンの営業戦略の欠如を物語る証拠である。

――主要ゼネコン20社の2009年度上期受注実績・通期受注見通し修正額の一覧表を掲載しました。

受注計画の数字は単なる願望か?

日本土木工業協会から原稿執筆の依頼は、初めてのこと。どちらかと言えば、先行き厳しい記事ばかりを書いてきたので、敬遠されてきたのだろうが、政権交代が濃厚となってきた8月、突然に原稿依頼があった。ちょうどその頃、日本建築学会の機関誌向けの原稿も書いていたので、似たようなテーマにしようかと思ったが、ふと頭に浮かんだのはゼネコン営業のことだった。

数年前に、あるゼネコンの社長に「ゼネコン営業の極意とは何か?」という質問をしたことがある。その答えが、長年、経済記者をしてきた私も驚いてしまうような中身で、結局は記事にもしなかった。最近では、建設業界もようやく談合決別を宣言し、“提案営業”とか、“ソリューション営業”といった言葉も聞かれるようになったが、長年、染み付いてきた営業体質をそう簡単に変えるのは難しいのでは?と危惧していた。

今年6月にこのブログに掲載した「ゼネコン経営の正念場は今年度下期か?―週刊ダイヤモンドの記事を執筆(2009-06-01)」でも、主要ゼネコンの受注計画の甘さを指摘した。ゼネコン決算を取材してきて、受注計画が緻密な予測に基づく数字ではなく、ほとんど“願望”に近い数字であることは判っているつもりだ。ただ、そうした計画の甘さがゼネコンの思い切った構造転換を遅らせて、建設産業全体を疲弊させてきたのではないだろうか。

今期受注計画が前期比プラスが過半数

改めて主要ゼネコン各社の9月中間期(竹中工務店だけは6月)の受注計画を表にまとめてみた。上期実績は、談合問題などで前年同期の実績が大きく落ち込んでいた西松建設と前田建設工業の2社がプラスになった以外は軒並み2ケタ減。鹿島は何と、半分以下に激減するという厳しい状況となった。

 

<主要ゼネコン(個別)の受注高>

 企業名  09年度上期実績  09年度通期予想  修正額 
 鹿島

3,464(▲51.1)

11,450(▲17.5)

▲  200

 清水建設

4,927(▲32.2)

11,650(▲11.9)

▲1,050

大成建設

4,223(▲35.0)

10,300(▲12.7)

▲1,200

 大林組

4,197(▲39.6)

11,750(  0.1)

▲1,250

 竹中工務店

3,576(▲37.5)

9,390(▲ 8.7)

▲  200

戸田建設

1,711(▲11.7)

4,460(   2.7)

  ――
 西松建設

1,274(   2.8)

3,165(  14.4)

  ――
 五洋建設 

1,301(▲10.4)

2,820(▲11.3)

▲  330

 長谷工コーポ

1,257(▲18.7)

2,700(   7.6)

  ――
 三井住友建設

1,125(▲23.1)

2,900(     4.0)

  ――
 前田建設工業

1,146(   9.9)

3,050(   19.3)

▲  50

 フジタ

1,176(▲27.1)

2,350(▲  8.3)

  ――
 熊谷組

841(▲11.7)

2,200(     1.6)

  ――
 東急建設

912(▲34.4)

2,400(▲13.3)

▲  200

奥村組

529(▲41.9)

1,920(   14.6)

▲  50

 安藤建設

719(▲29.0)

1,800(     8.2)

▲  200

 ハザマ

666(▲38.6)

1,700(▲17.6)

▲  300

 錢高組

519(▲20.9)

1,800(     7.1)

  ――
 東亜建設工業

635(▲16.9)

1,600(     6.0)

  ――
 淺沼組

585(▲29.9)

1,550(▲10.4)

▲  313

 合計

34,965(▲32.5)

90,955(▲ 5.9)

▲5,343

単位:億円、カッコ内は前年同期比増減率、▲は億円。修正額は当初受注見通しとの比較。

こうした実績を踏まえて公表された通期受注計画では、清水建設、大成建設、大林組が1000億円以上の下方修正を行った。ところが、表を見ても変わるように、修正していないゼネコンも多く、結局のところ、通期では前期比プラスを見通しているゼネコンが大林組、戸田建設など過半数の11社もある。

建設経済研究所が10月に公表した「建設経済モデルによる建設投資見通し」によると、今年度(2009年度)の名目建設投資は前年度比8.6%減の43兆1900億円にとどまるとしている。さらに2010年度はさらに落ち込んで3.7%減の41兆6000億円と予想した。どう考えても、特殊な事情でもない限り、ゼネコン各社の受注高が前年度を上回ることはあり得ないだろう。

ダンピング受注競争は再燃するか?

ゼネコンの経営者の多くも、決算で公表している受注計画の数字を達成できるとは内心、思ってはいないかもしれない。ただ、数字を思い切って下げれば、当然、それに伴って経営戦略の抜本的な見直しが必要になってくる。建設工事以外の分野で新たな収益を確保できなければ、人員削減などのリストラも避けられなくなる。

現時点で、受注計画の数字を見直さないのは、抜本的な経営戦略見直しのための“時間稼ぎ”であるのなら良いが、見直しのために残された時間は少ない。ただ、単に手をこまねいて決断を先延ししているだけなら、厳しい事態に追い込まれるゼネコンが出てくるのは避けられないだろう。

結局、何とか生き延びようと、無理な受注獲得に走り出すゼネコンが出てくれば、再びダンピング受注競争が勃発する可能性は高い。それを心配するので、土工協の機関誌に強く注意を喚起する意味で、“言わずもがな”のコラムを書かせてもらった。そうした私の予想が杞憂に終わってくれることを願っているが、決算発表の数字を見る限り、ダンピング受注競争が始る危険は高まりつつあるように思える。

新しい収益モデルをどう確立するか?

簡単ではないと思うが、ゼネコンの営業部隊は、建設工事の受注ばかりを追いかけるという発想を捨てるべきではないか。「工事が受注できなければ、売上高を計上できない」のは確かだが、利益を上げる方法は工事を受注するだけではない。建設構造物というハードをつくるだけのビジネスでは限界に来ているのは明らかであり、いろいろなソフトやサービスを組み合わせた新しいビジネスモデルを構築することが求められているはずである。

顧客は何を求めているのか、建設・不動産市場のニーズはどこにあるのか―そうした情報を一番持っているのは営業のはずである。そうした情報に基づいて新しいビジネスモデルを確立して収益を生み出すことが営業戦略の大きな柱である。無理に受注計画の数字を積み上げることが営業の仕事ではないと思うのだが…。経営トップが手持ち工事の減少に慄いて、ひたすら営業の尻を叩き続けても、建設市場が直面している構造転換を乗り越えるのは難しいだろう。無理な工事受注に頼らずに、いかに生き抜いていくか。コラムの最後にも書いたが、「その覚悟こそが求められているはずである」。

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