週刊ダイヤモンド09年6月1日発売号の特集「ゼネコン不動産崖っ縁決算」の中で記事を執筆した。昨年9月1日発売のゼネコン特集にも参加したが、今回はリーマンショック後、初のゼネコン特集だけに内容も盛りだくさんで、充実した仕上がりだ。改めて今回のゼネコン決算を振り返ると、納得感が乏しかった。「各社とも、どうやって今年度の受注計画を達成するつもりなのだろうか…?」との疑問をゼネコン関係者からも聞く。本当の正念場は今年度下期からか。総選挙の結果も含めて、しばらくは景気動向を慎重にウォッチしていく必要がありそうだ。
――主要ゼネコン(個別)の2008年受注実績・09年度見通しの一覧表を掲載しました。

ゼネコン決算で感じた素朴な疑問

 ゼネコンや不動産会社の決算に立ち会うようになって10年以上になる。証券アナリストのように数字を細かく分析しているわけではないが、決算説明を聞いていて納得するときと、しっくり来ないときがある。決して決算の数字を信用していないわけではないが、日頃の取材で聞いている話や対応振りとの微妙な差異を感じたときだ。

 記者は思い込みだけで記事を書くと、今年1月にブログに書いた鹿島の社長交代予想のように間違えるが、直感が働くときは結構、予想が的中するものである。鹿島の件は、トヨタの社長交代に合わせて同族経営ゼネコンが世襲に踏み切った場合の予防線を張る程度のものだった。さすがにゼネコンを取り巻く経営環境が厳しい時期だけに、想定外(?)の一社を除いて世襲トップ交代は行われなかったが…。

    <主要ゼネコン(個別)の受注高>

  2008年度実績  2009年度見通し 

鹿島 

 13,876(▲ 5.2)  11,650(▲16.0)
清水建設   13,224(▲18.7)  12,700(▲ 4.0)
大林組   11,742(▲ 2.0)  13,000(  10.7)
大成建設   11,794(▲16.1)  11,500(▲ 2.5)
竹中工務店   10,282(▲ 4.0)   9,590(▲ 6.7)

長谷工コーポ 

  2,509(▲31.7)   2,700(   7.6)
戸田建設    4,267(▲ 0.9)   4,400(    3.1)
西松建設    2,601(▲31.6)   3,165(  14.4)
五洋建設    3,161(▲15.4)   3,150(▲ 0.3)
三井住友建設    2,787(▲23.0)   2,900(   4.1)
前田建設工業    2,556(▲18.4)   3,100(  21.3)
フジタ    2,563(▲14.6)   2,350(▲ 8.3)
熊谷組    2,166(▲15.1)   2,200(   1.6)
東急建設    2,769(▲ 2.5)   2,600(▲ 6.1)
奥村組    1,675(▲ 4.3)   1,970(  17.6)
安藤建設    1,663(▲26.2)   2,000(  20.3)
ハザマ    2,062(▲18.6)   2,000(▲ 3.0)
錢高組    1,680(▲ 0.7)   1,800(   7.1)
東亜建設工業    1,509(▲ 3.0)   1,600(   6.0)
淺沼組    1,730(▲ 4.9)   1,863(   7.7)
合計 

 96,616(  ―  )

 96,232(▲ 0.4)

大手建設50社  123,766(▲12.3)   

注)単位・億円。カッコ内は前期比増減率、%、▲はマイナス。

 そんな記者の直感など、企業にしてみれば信用できないと言うだろうが、ゼネコンが発表した業績予想の方も楽観的見通しのオンパレードである。企業側に「受注見込み案件を積み上げた結果だ」と主張されてしまえば、確認する術はなく信用するしかないのだが、過去の例を見ても国内建設投資が縮小するなかで受注拡大に成功した企業は稀である。マンション市場が好調だった時期に、土地取得を含めて独自のビジネスモデルを確立した長谷工コーポレーションぐらいだろう。短期的に見ても、談合などによる指名停止といった特殊事情や超大型物件の受注成功でもない限り、一社だけ突出した形で受注を伸ばすのは至難の業だ。

大型補正が加わっても今年度の建設投資は横ばい?

 財団法人建設経済研究所が4月に発表した建設経済モデルによる国内建設投資の見通しでは、2008年度が前年度比2.3%減、09年度見通しが同5.8%減とマイナス幅が拡大する。大型補正が加わっても前期並みとの予想だ。建設受注の方は、景気回復が順調に進めば、投資額に先行して今年度下半期から回復するとのシナリオを描けないわけではないが、本当に回復が見込めるかような市場環境と言えるのか?である。

 国土交通省が発表する建設大手50社の受注高が大きく落ち込みだしたのは、08年12月からだ。08年10月頃までは製造業を中心に大手の建設受注は比較的好調に推移していたのだが、12月になると27.3%減と急落。09年1月38.3%減、2月24.9%減、3月37.8%減と2割以上の落ち込みが続き、4月も25.9%減だった。足元の受注高は、間違いなく景気低迷の厳しさを映し出している。

 もちろん、景気の先行きがどうなるかは神のみぞ知る、である。大型補正予算の執行が本格化し、前期比大幅減の反動で、今年12月頃から受注高が数字的にはプラスに転じるかもしれない。さらには総選挙後の経済運営がどうなるのか?米国の景気がどうなるのか?北朝鮮情勢がどうなるのか?―判らないことだらけだ。しかし、そうであっても国内建設投資が今年度プラスに転じるのは難しいように思える。

熾烈な価格競争に突入する懸念はないのか?

 今年度からスタートした中期経営計画で3年後の売上高目標を封印した鹿島は、今年度の受注見通しも16.0%減と最も厳しく予想している。営業出身の中村満義社長が厳しく案件をチャックしているためか、最近の鹿島の予想はかなり的確との印象がある。現時点で予想するのなら、鹿島のように16%減ぐらいを発射台にして、下期にどれだけ上乗せできるかで考えるべきだろう。

 「今年度下期にどれだけ着実に受注を伸ばせるかで、ゼネコンの優勝劣敗が分かれるのではないか」―ある上場ゼネコンの役員も、そう腹を括る。しかし、このままでは受注目標を無理に達成しようと熾烈な価格競争が始まるのは避けられないだろう。ゼネコンに、赤字工事を受注できる余裕はない。現在の経営環境の下で積極的に受注拡大をめざすことが、果たして正しい経営判断と言えるのか?ただ経営体力を疲弊させるだけと心配するのだが…。

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