【不動産】不動産仲介の両手取引は禁止すべきではないか?―中古住宅市場の活性化を考える(下)(2009-07-12)

「仲介手数料の問題には首を突っ込まない方がいいよ」―ある業界関係者が心配して忠告してくれたことがある。もともと小心者なので面倒な問題はできるだけ避けるようにしているが、そんな忠告を受けたのは自動車担当だった94年頃、自動車リサイクル問題を取材して回っていたとき以来のことだ。不動産仲介手数料と自動車リサイクルでは全く別物ではあるが、業界関係者の多くが問題を認識していながら、誰も手を付けたがらなかったという点では共通している。自動車市場では、2004年に自動車リサイクル法が施行され、ようやく生産から廃棄までのライフサイクルが確立された。長く住み継ぐことで、「廃棄物を減量し、資源を節約し、国民の負担を軽減する」透明性の高い住宅市場のライフサイクルはどのように構築するのか?不透明と言われ続けてきた不動産流通システムに手を付けずに済むはずはない。たかが「3%+6万円」の問題ではないのである。

一致団結して難問解決に取り組んだ自動車業界

 「自動車リサイクル法が成立したのは、ある意味、奇跡に近い出来事だった」―自動車業界団体を引退することになった幹部OBに会って思い出話を聞いたとき、最も印象に残った出来事として挙げたのが自動車リサイクル問題だった。日本のリーディング産業である自動車業界にとって、リサイクル問題は長年、手を付けられずにいた懸案であり、地球環境問題への対応を進めるうえで避けては通れない課題だった。

 この問題を取材するキッカケは、中古自動車輸出の規制緩和(95年実施)と社会問題として浮上していた放置自動車問題であった。必然的に廃自動車の破砕時に発生する有害な産業廃棄物のシュレッダーダストや、盗難車や事故車、中古部品の輸出問題などに対象は広がり、大阪南港に点在していた解体・輸出業者にまで取材に行った。そのとき知り合った大手総合商社の担当者から「あのトヨタですらシュレッダーダスト問題には関わらないようにしている」と忠告を受けた。

 そんなデリケートな問題を解決するべく新たな枠組みを作り上げたのは、経済産業省のリーダーシップのもと「自動車業界が一致団結して取り組もうという強い意思があったから」と、団体OBは胸を張った。確かにそれ以降、放置自動車問題はメディアでもほとんど騒がれなくなった。今後、急増することが予想される”放置住宅”問題に対して国土交通省や不動産・住宅業界は、自動車業界のような社会的責任のある取り組みができるだろうか?

住宅を長く住み継いでいくコストを誰が負担するか?

 「廃棄物を減量し、資源を節約し、国民の住宅に対する負担を軽減する」―これは2007年10月に福田康夫前首相が所信表明演説の中で200年住宅構想について語った言葉だ。その方向性は私も正しいと思っているが、消費者が安心して長く住み継いでいくことができる住宅市場を形成するには、新たなコストも必要になってくる。

 中古住宅の品質・性能をきちんと調査して適切に査定し、痛んだ部分を含めて補修・修理し、必要であれば品質保証を付ける。その後も適切な維持管理を行い、補修した情報は履歴として保存し、次に住む人のために引き継いでいくための仕組みをつくる必要があると言われている。将来的には放置住宅の処分コストを負担する仕組みが必要になるかもしれない。

 これらの費用は誰が負担するのか?全てを消費者が負担するのか?従来の不動産流通システムを見直さずに、新たな仕組みを導入して上手く機能するのか?福田さんが言ったように、国民の住宅に対する負担を軽減することが目的であるならば、消費者だけでなく、住宅業界、不動産流通業界、そして国も含めて、応分のコストを負担するのが当然だろう。

 重要なのは、住宅のライフサイクルを通して、住宅を住み継いでいくのに必要なコスト(税金、地震保険、住宅ローンの手数料、解体・廃棄費用なども含めて)を「見える化」し、「全体最適化」を進めることだ。深刻な不況が続くなかで、中古住宅を買い取って改修し「リノベーション住宅」として売り出すなど、新しいビジネスモデルも登場してきているが、「国民の負担を軽減する」商品・サービスであるかどうかを消費者が正しく判断できなければ意味がない。

資産としての価値を正しく評価するには?

 「国民の負担を軽減する」という意味には、消費者が良質な住宅に低コストで住むことができる環境を整えるのと同時に、保有する良質な住宅が大切な個人資産として価値を持ち続けることの両方を満足させる必要があると考えられる。そうでなければ、誰も割高になる長寿命住宅への投資を積極的に行うようにはならない。

 安い住宅を提供するだけなら、減価償却が進んだ中古住宅を安く仕入れ化粧し直して、ソコソコの値段で売って儲けるといったビジネスも可能ではある。しかし、それでは建物を資産として正しく評価し適正な価格で取引される市場を形成していくのは困難である。リノベーション住宅と言っても、ベースとなった中古住宅の建物評価と価格、改修した項目とその費用などの履歴情報を、消費者に正しく提供することは不可欠である。

中古住宅購入で大工の棟梁を連れてきた買主

 もう10年前のことだが、今の住宅を建てる前に、中古住宅を売却した経験もある。築7年で購入して築17年で売却したわけだが、土地購入を仲介したB社が中古住宅の売却もやらせてほしいと言うので、専属専任媒介契約を結んで、物件を売却した。

 当時の契約書を見ると、全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)の定型書式の契約書に、査定価格と売り出し価格、契約期間、仲介手数料3%+6万円+消費税が記入された簡単なもの。建物調査も、ざっと外観をみたあと、雨漏りしたことがあるか、シロアリの被害を発見したことがあるか、下水はスムーズに流れるか、など4つの質問に答えただけだった。その後、B社からは1〜2週間ごとに物件に対する問い合わせ件数が報告され、3番目ぐらいに見学に来た若い夫婦が購入を決めてくれた。

 印象的だったのは、1番目に見学にきた霞ヶ関の高級官僚を名乗る人だった。アパート経営など手広く不動産投資を行っているらしく、知り合いだという60歳過ぎの大工の棟梁を連れてきて、床下まで潜って建物を調べていった。当時は日本では欧米で行われているインスペクション(建物調査)はほとんど知られていなかった頃である。

建物調査を実施するのは売主か、買主か

 以前から疑問に思っているのだが、日本でも普及し始めたインスペクションは誰が実施すべきなのか?日本ではいつのまか買主側が実施するものとの認識が一般化しつつある。最初にインスペクションサービスを始めたのが不動産仲介業者の三井不動産販売だったからかもしれないが、本来は建物の所有者である売主側がまず詳しい建物調査報告書を作成するべきで、欧米ではそれが一般的だと聞く。

 建物の所有権が移転していない段階で、買主側のインスペクターが行う調査ではやはり限界があるだろう。建物調査がキチンと行われるには、まず売主側が詳細な建物調査報告書を作成し、それに基づいて買主側のインスペクターがチェックするというのが正しい姿ではあるまいか。

 日本では、私が体験したように、売主側による中古住宅の建物調査はほとんど実施されてこなかった。その理由も、売主寄りの仲介業者が不利になるような情報を出来るだけ出さないようにしながら「両手取引」で仲介を行ってきたからだろう。中古住宅市場を活性化するために、建物調査がキチンと行われる環境を整備しようと言うのならば、真っ先に両手取引を禁止すべきなのである。

消費者庁のターゲットになることを期待

 両手取引の問題は、私自身が痛い目に会った経験もあり、不動産業界を担当してから10年、いろいろな人に意見を聞き、自分なりに考えてきた。ただ、これまで記事にしたことはなかった。「今、書いても無視されるだけだろう」と、思ったからだ。本気で中古住宅市場を育てようといった大きな社会変化でも起きなければ、誰も火中のクリを拾おうとはしまい。

 しかし、人口減少が進み、金融危機も発生して、日本の住宅市場は、さすがに二進も三進も行かなくなってきた。「そろそろ問題提起の時期が来たかな…」と思っていたら、今年に入って大手ゼネコンから社内報に寄稿してほしいという依頼があり、「建設業の将来ビジョンを考える―建設2次市場をどのように育てるか?」という表題のコラムで、両手取引の禁止の話を書いてみた。次に6月1日発売の週刊ダイヤモンドで執筆した提言の中にも入れてみた。

 あまり目立たないようにキャンペーン(?)を始めたところで、今のところ何処からもリアクションはない。業界は無視するだろうが、9月に消費者庁が発足すると、いずれ両手取引の問題は格好のターゲットになるのではないか。そんな期待を込めて、両手取引について私の過去の体験も含めて概要を整理したのが今回のコラムの狙いだ。

 両手取引の問題では、禁止することで消費者にどのような具体的なメリットが期待できるか、不動産流通業界はどのような変化がもたらされるか、建設・リフォーム業界への影響はどうかなど、考察すべきテーマはまだまだ多い。それらは改めて整理してみたい。

 政策はシンプルであるほど効果的だ。中古住宅市場の活性化に向けて保証制度や履歴管理制度などが検討されているが、そうした面倒な仕組みをつくるよりも、明らかな”利益相反”である両手取引を禁止することで、日本の不動産市場が大きく変革する第一歩が踏み出せると思うのである。

(おわり)→(上にもどる