【コラム】ピンはね社会に吹き荒れる雇用削減の嵐(中)―あるジャーナリストのケース(2009-02-03)

 偽装請負や派遣切りなど雇用問題を盛んに報じているメディアも、こと自分たちの労働実態には全く触れようとしない。他業界のことは遠慮なく記事にするのに、自分たちのことは頬かむりでは、ジャーナリズムとしてはやはり問題だろう。下請が元請との取引実態をばらせば元請から圧力が加わり、私の仕事もパタッと途絶えるかもしれない。経済産業省から送られてきた「親事業者との取引に関する調査」も下請の回答は秘密厳守となっているが、私自身が「日本の請負慣行が問題だ!」と主張する以上は実情を明らかにしないわけにもいくまい。アンケートの質問事項に回答する形でメディア業界の下請取引を考える。

経産省の下請取引の調査票とは

 経産省のアンケート調査は、まず親事業者を選び、その親事業者の下請取引名簿からアンケート先を選んで送付してくる。調査票には、最初から親事業者A社の名称が印刷されており、質問もA社と私の個人会社エフプランニングの取引に限定されている。ただ、アンケートの最後には、調査対象外の親事業者との取引についても記述する欄が用意されている。

 A社は、私の取引先の中では最も対応がしっかりした会社である。記事の発注のたび、電話で概要を伝えて了承を得たあとに、正式な発注依頼書が郵送されてくる。原稿料も記事が掲載された1週間後に振り込まれる。交通費や取材日当などもキチンと清算してくれるところだ。

 しかし、A社のような親事業者は実はかなり少ない。質問事項への答えも、A社以外の親事業者を思い浮かべながら回答したものである。調査票の質問項目は大項目が12あり、それぞれ2〜7の設問が用意され、自由記入欄が2つあった。

1.親事業者からの発注について
(1)親事業者からの発注は、通常どのような方法で行われているか?(5択)
<回答>1注文は電話、口頭のみで受けている(注文書等は交付されていない)
(2)取引条件のうち、支払方法、支払条件などの基本的事項が示された書面をあらかじめ交付されているか?(2択)
<回答>2いいえ
注)テーマ、字数、原稿料、締め切りの4つだけ電話で伝えられて記事を書くこともしばしば…。

2.親事業者からの下請代金の受取状況について
(1)下請代金の支払制度はどのようになっているか?(記述式)
<回答>締切日:月末締め
支払日:翌月末〜翌々月10日(現金一括)
支払日までの期間:30日〜40日
手形満期等:なし
最長手形サイト:なし
(2)締切日は何を基準にしているか?(3択)
<回答>2検収日(=記事掲載日)
(3)納入日から検収日の期間は?
<回答>4日〜30日
(4)下請代金が支払日に支払われないことがあったか?
<回答>2なかった

3.下請単価の決定(又は改定)について
(1)平成20年1〜12月に従来単価を引き下げられたか?(4択)
<回答>4引き下げられたものはない
注)過去20年間、フリーの原稿料相場は据え置かれたままで、これ以上は下げようがないぐらい安い。
(3)新規発注の単価決定はどのように行われるか?(5択)
<回答>5その他(発注者の指値で決まる)
注)記事作成の手間や難易度に関わらず「所定の字数単価」が決められており、字数換算で自動的に原稿料が決められる。見積もり等はない。
(4)納期や納入の変更は?(回答省略)
(6)原材料価格の上昇などで下請代金の引き上げを要求したことは?(回答省略)

4.下請代金の減額について
(1)下請代金を代金受取時に減額されたことは?(2択)
<回答>ない
注)当初の金額から2割減額要求されたことはある。拒否したら支払われたが、その後、仕事依頼はなくなった。
5.親事業者の納入物品の受領について
(1)発注を受けた物品の納入を受領してくれなかったことは?(2択)
<回答>2ない
6.親事業者からの返品について
(1)親事業者は納入物品の受入検査を行っているか?(3択)
<回答>1行っている
(3)返品されたことは?(2択)
<回答>2ない
注)ただし、商業雑誌向けの記事は編集者の指示で何度か書き直しするのが普通。その分、手間がかかるが、原稿料には反映されない。

7.親事業者からの発注内容の変更・やり直し要請について
(1)発注内容の変更またはやり直し要請を受けたことは?(2択)
<回答>1ある
(2)その理由は?(3択)
<回答>1親事業者の都合により仕様等(記事のテーマ)の変更が生じた
(3)やり直しによって生じた費用は貴社が負担したか?(2択)
<回答>2いいえ
注)当初は原稿料1回分の代金しか支払われなかったので抗議したらやり直しの原稿料が支払われた。その後、仕事の依頼はなくなった。

8.親事業者からの有償支給原材料等の代金の決済について(回答省略)
9.親事業者からの購入要請・サービス利用要請について(回答省略)
10.親事業者からの金銭、役務その他経済上の利益の提供要請について
(1)親事業者からの要請を受け、金銭または役務等を提供したことは?(2択)
<回答>1あった
注)取材先に紙媒体の購入を働きかけるように依頼され、購入してもらった。

11.下請取引において発生した知的財産権の譲渡・利用許諾について
(1)貴社が既に所有している知的財産権(独自取材してきた知見やネタなど)について、譲渡・利用許諾について親事業者と何らかの規定がされているか?(2択)
<回答>2いいえ
(2)下請取引を行う際に譲渡・利用許諾の要請を受けたことがあるか?(2択)
<回答>1ある
注)企画特集などに参加する場合は独自取材のネタ提供が前提。
(3)譲渡・利用許諾に関わる対価は支払われたか?(2択)
<回答>2いいえ
注)原稿料のほかに企画料として上乗せしてくれたケースもあるが、大半は原稿料のみ。
12.金型の製造について(回答省略)

広告原稿の方が原稿料が高い!

 改めて調査票に回答してみると、いかに世間の常識とは別の世界で、メディア業界が動いているかが実感される。IT業界のプログラム作成費用も、ITスキルなどはほとんど評価されずに、いまだに人月単価から抜け出せないが、記事作成費用の方は「今回の原稿料は○○円でお願いしますね」と、最初から金額が決まっている。

 一般的な経済雑誌でも、私の場合で原稿料は1ページ2万円前後である。昨年経営破たんした不動産会社のうち2社は、雑誌の広告特集の原稿を依頼されて社長インタビューをしたことがあるが、クライアントが付いているためか原稿料は1ページ3万円だった。1回インタビューして書いた原稿料の方が、多方面に時間をかけて取材し、神経をすり減らして書き上げた原稿よりも1.5倍も高い。ちなみに取材交通費等は全て自己負担だから、取材すればするほど実収入は減る。

情報だけもらいに来る記者

 さらに困るのは雑誌や新聞の記者から識者として取材を受けた時の対応だ。突然、知らない記者から電話がかかってきて「○○について教えてください」という。私も現役記者時代は、新聞社から給料をもらっていたから、あまり気にせずに対応してきたが、フリーの現在はネタ情報や知見はメシの種である。

 私も取材相手には原則として取材フィーを払ってはいないが、メディアの看板を持たない記者の取材に応じてもらうために、日頃から様々なところに顔を出し、取材できる関係づくりをして取材を行っている。さすがに新聞社や有名雑誌社などはコメント料という形で報酬を払ってくれるが、ほとんどの場合は「ありがとう」と言われて終わり。それによって原稿執筆など仕事が来た例もない。

つづく