【建設】産業比較:建設vs印刷(2)―アウトソーシング需要を狙え!(2008-10-20)

 日本印刷産業連合会の山口政廣会長(共同印刷会長)に9月の印刷月間に合わせてインタビューする機会があった。2年前にも当時の連合会会長だった藤田弘道・凸版印刷前会長にインタビューしてブログに「産業比較:建設vs印刷」を書いた。今回のインタビューでは、アウトソーシング需要の拡大、ブローカー(仲介業者)の参入、中小業者のコラボレーションなどの話題が出た。「経済のサービス化」の波は、印刷業界にも急速に広がり始め、新しいビジネスモデルを模索する動きが活発化しているようだ。厳しい状況に追い込まれている建設業界において新しいビジネスモデルを議論している余裕はないかもしれないが、勝ち残るためには将来に向けた戦略は不可欠だ。

ゼネコンも印刷業界のような二極化構造へ

 日本印刷産業連合会会長へのインタビューは古巣のフジサンケイビジネスアイの広告局に依頼されたもので、今年で3回目。1回目の2006年9月のインタビューは、同じ請負業である建設業と印刷業が、明治維新以降に辿った産業発展の歴史や、中小業者における公共需要への依存度の高さなどで、類似点が多いという話題で盛り上がった。

 06年といえば、1月に改正独占禁止法が施行されて、その影響が懸念されていた年である。印刷業では公共需要にほとんど依存していない大手企業同士は、以前から民間需要を中心に激しい市場競争を展開してきた。その結果、大日本印刷と凸版印刷の2社が売上規模も1兆6000億円以上と突出し、業界3位の共同印刷(売上高約1100億円)と10倍以上の開きのある構図が出来上がっている。

 建設業界でも、改正独禁法で受注競争が一段と激化すれば、印刷業に似た業界構図へと進むのではないか?―前回のコラムは、そんな仮説を念頭にして書いた。その後、建設業界でも大手5社と準大手以下の格差は予想した通りに拡大しつつあると言って良いだろう。今後もゼネコンの二極化は加速していくことになるかもしれない。

印刷業界はアウトソーシングに活路!

 共同印刷会長の山口さんにインタビューするのは昨年に次いで2回目だったが、前回に比べて印刷業がめざしている方向性が判る内容だった。国内印刷市場の縮小、中国など海外印刷の増加など印刷産業を取り巻く経営環境は相変わらず厳しいものの、勝ち残るために自らを変革していこうという姿勢が明確になってきたという印象を受けた。

 昨年のインタビューには登場しなかったキーワードが「アウトソーシング」である。以前からも、印刷を中心に付帯サービスまで含めて外部委託するニーズはあったが、ここに来てアウトソーシング需要が拡大しているとのこと。例えば、キャッシュカードのICカード化を進めている銀行からは、ICカードの製造だけでなく、ダイレクトメールの印刷、顧客への発送業務までをまとめてアウトソーシングするケースが増えている。通販会社からはカタログ印刷だけでなく、消費者からの注文を受けるコールセンターから商品デリバリーの業務までをまとめて依頼されるケースも出てきているという。

 確かに銀行にすれば、ICキャッシュカードそのものがほしいわけではなく、ICキャッシュカードを使って金融サービスの利用を促進していくことがビジネスである。通販会社にしても、通販カタログは単なる道具であって、いかに買ってもらえる商品を揃えてるかが勝負のポイント。商品のデリバリーなどの業務は、サービスの品質に大きな差がなければ外部委託しても構わないということなのだろう。

 技術面でも、小ロットの印刷に適したインクジェット印刷が従来の活版印刷と遜色ない品質レベルを実現できるようになってきた。同じものを大量に印刷するのに適した活版印刷に対して、インクジェット印刷を使えば、ダイレクトメールを印刷する場合でも宛先の性別、年齢層などに応じて文面を変更するなどのきめ細かな対応が可能となってきた。

 「印刷だけを受注するのでは、中国などとの価格競争に巻き込まれてしまう。いかに付加価値をつけてアウトソーシングしてもらうか。新しいビジネスモデルを考え出した企業が伸びる」―やはり印刷産業においても、印刷だけの請負ビジネスでは生き残りが難しくなりつつあるようだ。

請負とアウトソーシングの違いはどこにあるのか?

 建設業の歴史を振り返ってみても、恒常的に建設投資を行ってきた発注者は、建設技術者を自ら雇用したり、傘下に建設子会社を保有している時代があった。国や地方自治体のほかに、鉄道会社、電力会社、通信事業者などがそうである。しかし、高度成長期が終わり、バブル経済が崩壊した90年代になると、インハウスエンジニア部門を独立させたり、建設子会社を売却したりする動きが広がった。

 さらに2000年以降、建設分野でも建設関連業務をアウトソーシングする事例が出ている。ボーダフォン(現・ソフトバンクモバイル)が通信設備管理業務を外資系CM(コンストラクションマネージメント)会社であるボヴィス・レンドリースに、セブンイレブンが全国の店舗の維持修理をなおしや又兵衛のJMに、りそな銀行が国内店舗約300店の施設管理を明豊ファシリティワークスに委託したケースなどがそうだ。

 アウトソーシングは、企業してみると内部業務を外に出すのだから、自らが行うとの同等のレベルで、コストなどの透明性を求めることになる。業務を委託するという意味では、請負もアウトソーシングも同じように見えるが、発注者と受注者が利益相反の関係となる請負と、Win-Winの関係をめざすアウトソーシングでは本質的に異なっていると考えられる。

 今月17日に日本法人の設立20周年パーティを都内高級ホテルで開催したボヴィスのアンドリュー・ガウチ社長も「建設工事の新規受注はしばらくは厳しい状況が続きそうだが、ソフトバンクモバイルやノキアなどから委託されている通信施設管理業務で安定的な収益が見込める」と、アウトソーシングの効果を強調する。明豊ファシリティーワークスも9月22日、09年3月期9月中間決算の収益見通しの上方修正を発表。建設需要が急速に冷え込んできたなかでも、堅調に業績が推移しているようだ。

印刷業界にもPM会社が登場―中小ではコラボレーションの動きも活発化

 さて、印刷業に話題を戻すと、業界内で話題となっているのが今年8月に、総合商社の丸紅が発表したプリンティングマネジメント(PM+)事業への参入だ。共同印刷の山口さんは「ブローカー」という表現を使っていたが、建設業でいうCMサービスに相当するビジネスモデルである。

 すでに英米の印刷業界ではブローカーが勢力を伸ばしており、日本の印刷会社も海外市場では競合することが増えていたため、以前から警戒はしていたようだ。そのビジネスモデルを、印刷用紙などの輸入販売を手がけていた丸紅が日本に初めて持ち込んでカタログなどの印刷事業をスタート。企画・制作から印刷、用紙購買、デリバリーまでトータルサービスとして提供し始めた。

 丸紅といえば、マッカーサー道路の名称で知られる東京都の環状第2号線整備・再開発計画の第一弾となった高層住宅「グランスイート虎ノ門」(2007年3月完成)の建設工事を落札するなど、建設分野でもゼネコンとしばしば競合する存在となっている。印刷分野にも、総合商社の企画力と印刷用紙の調達力を生かして参入したわけで、既存の印刷会社にとっては手ごわい競争相手になりそうだ。

 こうした外部からの参入やアウトソーシング需要の増加に対応して、これまで他社との連携に消極的だった中小印刷会社の間でも、積極的にコラボレーションを進めようという動きが出てきているようだ。1社だけでは大手のようなアウトソーシングサービスを提供するのは難しいが、コラボレーションすることで新たな需要を開拓しようという試みである。

 コラボレーションというと、建設分野でもJV(共同事業体)や共同事業組合などの仕組みがある。ただ、同じ業種の企業が集まってリスク分散するだけでは、新しいサービスやビジネスモデルが生み出すことは難しいだろう。異業種との積極的なコラボレーションによって刺激を受けながら、自らを変革していくことが新しいビジネスモデル、サービスモデルを生み出す鍵を握っているのではないだろうか。