【IT】ITを使ってカネを稼げる情報はつくれるのか?―動き出した情報大航海プロジェクト(2008-10-10)

s-IMG_2297.jpg 情報大航海プロジェクトを覚えているだろうか―。2年前にマスコミでも”グーグル対抗”として大きく取り上げられたIT国家プロジェクトだ。2007年度に事業が開始されて1年半が経過し、9月30日から開催された展示会「SEATEC2008」=写真=で大々的にその成果が展示された。大量の情報の海の中から必要な情報を取り出して新しいビジネスにしよう!との狙いは判るのだが、情報そのものを商売にするのはそう簡単なことでない。役所や企業が隠しているリスク情報を引っ張り出せるようなサービスが実現するのなら利用するのだが…。

情報でカネを稼ぐことの難しさ

 長年、情報を売る商売をしてきて痛感するのは、情報でカネを稼ぐことの難しさだ。インターネット時代に入って、一般的な情報であればタダで手に入るようになってからは、なおさら難しくなったと感じている。日頃から消費者がカネを払ってでも欲しがる情報を探し求めている人間にとって、情報大航海プロジェクトはまさに夢のプロジェクトと言えるかもしれない。

 2年前に話題になったときは、グーグル対抗という側面ばかりが強調されていて、何をめざしているのかがよく理解できなかった。IT国家プロジェクトというと80年代後半のシグマ計画の大失敗があるだけに、国主導で始まったプロジェクトに冷ややかな見方も少なくなかった。私自身も、国が支援してシステム基盤を作ることには別に反対はしないが、コラム「SEATEC2006で見た日本のIT戦略」で書いたように、正直言って「本当に消費者に使ってもらえるようなものができるのだろうか?」と懐疑的な見方をしていた。

 今年のSEATEC2008でのプレゼンテーションや展示を見て、プロジェクトの狙いは多少、理解することはできた。Web上のデジタル情報だけでなく、企業内で作成されるデジタル情報、GPS(全地球測位システム)を活用した位置情報・移動情報、個人消費に関わる情報など、あらゆる情報を有効活用できる情報基盤を作って、生活やビジネスに役立つ情報を提供しようということらしい。

お得情報の提供だけなら広告収入モデルと同じでは?

 情報基盤を使ったアプリケーションをいくつか紹介されていて、確かに便利そうではある。ただ、果たしてカネを払ってまで利用するだろうか?というのが正直な感想である。

 プレゼンテーションを見たのは、NTTドコモを中心に開発を進めている「マイ・ライフ・アシストサービス」。自分の行動履歴を蓄積して、日常生活の行動パターンに合わせてタイミング良く、まるで「空気が読める」ように各種推奨情報が提供されるというものだが、自分の行動が見透かされているようで少々、気味が悪い。

s-IMG_2301.jpg 「近くにおいしい店があるよ」「お土産にお菓子はいかが?」「近くに好きな画家の展覧会をやってるよ」といった程度の情報であるなら、カネを払ってまでほしいとは思わないのではあるまいか。結局のところ、情報を提供してメリットのある店や企業がカネを出すのであれば、グーグルが行っている広告収入モデルと大して違わなくなってしまう。

カーナビに載せる有料コンテンツに苦慮

 本当に価値あるコンテンツを提供することで収益が稼げるビジネスモデルを構築し、広告収入モデルのグーグルを超える―そんな野望を成功させるのなら、カネが稼げる情報とは何か?をもっと徹底的に追求することである。消費者の行動を解析して、企業が商品やサービスを売らんがための情報を提供するだけで、カネが稼げるほど世の中は甘くはない。

 SEATECでは、ルート案内や渋滞情報以外の情報も提供できる最新のカーナビゲーションシステムも展示されていた。どんなコンテンツを載せているのかと思って、日産自動車のブースで説明を聞いたが、説明員も「カネを取れるようなコンテンツづくりに、どこも悪戦苦闘している」とポロリ。それが本音のところだろう。

カネが稼げるのは「リスク情報」

 私が執筆に参加した9月1日発売の週刊ダイヤモンドも、9月29日発売の週刊東洋経済も、ともに異例の増刷となる大ヒットとなったようだ。不動産、ゼネコンなどの倒産が相次ぐなかで、まさに読者が今欲している情報が掲載されていたからである。その情報とは、まさにビジネスに直結する「リスク情報」だ。

 人間誰しも、生命や財産に直結するようなリスク情報には関心がある。自分自身には関係なくても、芸能人や有名人のゴシップやスキャンダル記事が売れるのも、その中身がリスク情報だからだろう。夕刊フジなど駅売りの夕刊紙やスポーツ紙が過激な見出しをつけるのも、消費者にカネを払わせるため。逆にお得情報と言われるようなものは、フリーペーパーやインターネットからも簡単に入手することはできる。

リスク情報を抱える役所や企業に、リスク情報が開示される覚悟はあるか?

 4年半前に私は「ユビキタス住宅とは?」と題するコラムを書いて、あるサイトに寄稿した。そこで「いろいろな情報が勝手に集まってきて、生活に役立つようなリスク情報が簡単に引き出せるような社会が到来するのではないか?」と書いた。そのような社会を実現するために情報大航海プロジェクトで開発を進めているような情報基盤も必要にはなるだろう。そうした意味では大いに期待したいところだ。

 ただ、これまでリスク情報を最も多く抱えてきたのは、役所である。汚染米問題であれば農林水産省だし、耐震強度偽装事件であれば国土交通省だし、それらのリスク情報を握っていることが役所の権力の源泉でもあった。そうしたリスク情報を役所以外でも、簡単に集められるような情報基盤が構築されることを、役所は本当に歓迎するだろうか?「安易にリスク情報が流出すれば、社会的な混乱を招く」として、自分たちで管理したがるに違いない。

 安全と思って食べていた食品に有害物質が混入していたり、安全だと思って購入したマンションが耐震強度不足であったり、いま求められているのは、まさにリスク情報である。耐震強度偽装事件では、改正建築基準法が施行され、チェック機能が大幅に強化されたが、肝心のリスク情報がオープンにならなければ消費者は知らないままである。

 役所主導の国家プロジェクトによって、消費者が求めるリスク情報が得やすくなるとしたら、消費者庁が設立されようとする時代、投入する税金も無駄ではないだろう。ただ、いくらITを駆使して情報を集めたところで、リスク情報までにたどり着くのは容易なことではない。日々、リスク情報を追い掛け回している記者だから、そう思うのかもしれないが…。