【IT】日本のITの歴史―SONY『NEWS』の戦略(4)(1989-03-20)

2・2ソニーのマーケティング戦略(続き)

【デスク・トップ・パブリッシング(DTP)】

 そこで問題となるのは、NEWSに何を乗せるかであったが、ソニーはちょうど米国で市場が立ち上がりつつあったDTPにターゲットを絞った。DTPは、米国ではパソコンクラスのマシンを使っても実現されていたが、漢字という複雑な文字を扱わなければならない日本語DTPではパソコンだと能力不足で、かといってオフコン、ミニコンクラスを使うとなるとコストが高くなってしまう。

 米国ではアップルのマッキントッシュ上でDTPが急速に普及し始めたことを考えれば、処理能力も飛躍的に向上しつつあったWSは日本語DTPを実現する素材としては最適だったといえるだろう。日本メーカーは専用の電子出版システムを商品化してきた実績からDTPについても専用機としてのアプローチを指向しているようにみられるが、オープンシステムが世の中の流れとなっている中で、マルチベンダーの様々なパソコン、ワープロ、プリンターなどの入出力装置を取り込むニーズを満足させるためには専用機より汎用的なアプローチの方が市場に受け入れられるかもしれない。

 ソニーがDTP分野に進出するにあたり打ち出した最大の戦略は、87年4月に大日本印刷など34社で結成した「DTPコンソーシアム」であろう。日本語DTPにとって最も重要であった文字フォントの提供を大日本印刷をコンソーシアムに率いれることで解決、さらにDTPソフトの充実も図るというシカケを作ったわけだ。DTP分野でのソニーの主な戦略を時系列的に並べてみる。

(1)87年4月 「DTPコンソーシアム」結成:88年9月時点で、会員数は130社に増加、13のDTPソフトがサポートされている。そのうち5システムが印刷社などの専門家向けで、89年から本格的に一般オフィス分野を狙って環境を強化していく。

(2)88年5月 「CDFF連合」結成:NEWSと他のパソコン、ワープロとの文書交換を可能とするため「共通文書ファイルフォーマット(CDFF)」をソニーが独自に開発、その仕様を業界標準とするべくアスキー、SRA、エルゴソフトなどでCDFF連合を結成、88年9月時点で会員数は12社。

(3)88年7月 「文字フォント自動作成システム」発売:わが国でも印刷会社などの専門会社に対し高いシェアをもつ西独URW社と提携、URW社の文字フォント自動作成システム「LINUS−G」をNEWSに移植して発売した。これにより、大日本印刷提供の文字フォントに加えそれぞれに容易に独自のフォントを開発できる環境が整った。

(4)88年8月 ユーザーインタフェース構築ツール「SONY Widgets」開発、パブリックドメインソフトとして提供:X Window上で動作する業界初の日本語対応ツール。同種のツールは米国などでは盛んに開発されているが、どうしても日本語対応となると国産のツールが求められるところ。そこにいち早く目を着け独自に開発した。さらにそれをパブリックドメインとして提供しようというあたりに、ソニーのしたたかさが感じられる。

(5)88年9月 CDFF文書操作基本ソフト「MediaBank」発売:富士通製ワープロOASYS、ジャストシステム製パソコン用ワープロソフトー太郎、ソニー製ワープロPRODUCEとCDFFとの相互ファイル変換機能、レーザープリンターヘの印刷機能などをNEWS上でサポートする。この時点でCDFF連合に参加するソフトハウスがCDFF対応ソフトとして文書ファイルコンバーター「花子用」、「書院用」、通信プログラム「PC−9801用」など8種のソフトの開発を表明。ソニーでもCDFF文書を写植機で出力するための写植コンバーターを発売、DTP関連装置の製品ラインを充実した。

(6)88年9月 SONY Widgetsを使って開発したユーザーインタフェースpopDESKを標準装備したWS「popNEWS」発売:3モデルのうち2モデルはMediaBankを標準搭載。発表記者会見ではアシストのビル・トッテン社長始め約10社のソフトハウスからの代表者が壇上に並び、先のMediaBank発表時に公表された2種を加えて16種のソフトがpopNEWS用、つまりpopDESKに対応したものとしてサポートしていくことを表明した。こうしたシカケとは別に、富士通の親指シフトキーボード、オフィスなどに多く導入されている日電製パソコンPC−9801用のフロッピーディスクドライブ(FDD)を利用するためのFDDケーブルといったキメの細かい配慮も。

 これら6項目が主なDTP関連施策で、popNEWS発売以降はいよいよパソコン分野進出の準備を本格化させる。

【CD−ROMならびにMO(光磁気)ディスク装置】

 コンピューターシステムにとって外部記憶装置は非常に重要なアイテムだ。ソニーに都合がいいことには、もともと磁気記録・光記録ともに超一流の技術を持っており、コンピューターに応用した場合でも技術的に十分リーダーシップを発揮できる立場にあったことだろう。その技術をNEWSに利用しない手はない。

 とくにオフィス分野にNEWSを拡販していくためには、NEWSを使って大規模なデータベースシステムを構築できるシカケが必要となる。その鍵を握るのが外部記憶装置であり、ソニーがまずそのシカケの第一弾として打ち出したのがCD−ROMだ.最近でこそ天才エンジニア、ステイーブン・ジョブスが昨年秋に発表したパソコン「NeXT」を皮切りに、日電のゲームマシンPCエンジン用のCD−ROMROM、今年2月に発表された富士通のハイパーメディアパソコン「FM TOWNS」などCD−ROM搭載のマシンが話題を集めているが、ソニーでは87年8月にNEWSを中心としたCD−ROMビジネスを展開していくことを正式に発表した。

 CD−ROMそのものが、83年にソニーと蘭フイリップスが共同開発したもの。ソニーではNEWSビジネスをスタートさせる以前にCD−ROMの論理フォーマットを作成、標準化するための団体「High Shierra Group(HSG)」を結成、HSGが中心となって国際標準化機構(ISO)の場で87年までに規格化(ISO9660)を推進していた。そうした土壌があってCD−ROMに取り組んだのだから他社に大きく先行できることになる。

 ※HSGのメンバー:アップル、DEC、日立製作所、レーザー・デイト、マイクロソフト、マイクロウェア、フイリップス、リファレンス・テクノロジー、ソニー、3M、TMS、ビデオツールズ、XEBEC、エリックの14社。

 87年8月の段階で、米国ではすでにHSGの一員であるマイクロソフトがこの規格に準拠したMS−DOS用のCD−ROM基本ソフト「MS−CD EXTENSION」の提供を開始しており、それをベースとした応用ソフトやCD−ROMソフトを他のソフトハウスなどが販売し始めていた。そうした状況を踏まえてソニーはまず4つの計画を発表した。

@米国などでMS−DOS用に出来上がりつつあるCD−ROMソフトをNEWSの基本ソフトであるUNIX上で扱うためのソフト「UNIX−CD EXTENSION」の開発意向表明。(88年春発売)
A米ナレツジセット社と提携、ナレツジセット社のCD−ROM検索ソフト「KRS」をUNIXに移植する共同開発をスタート、あわせて日本語化も図る。それ以前にナレツジセット社とは、ソニーの米国子会社でコンパクトディスクの製造を行なっているディジタル・オーディオ・ディスク社が86年5月にCD−ROMのデータ加工サービス会社「パブリッシャーズ・データ・サービス社」を合弁で設立しており、協力関係が確立されていた。
BCD−ROMドライブ内蔵モデル「NWS−891」の発売(出荷・88年4月)
C岩波書店、大日本印刷とNEWS向けのCD−ROM版「広辞苑」用検索ソフトの共同開発で合意。その前には86年10月に岩波書店、大日本印刷、富士通にソニーが加わって、富士通製ワープロOASYS向けのCD−ROM版広辞苑システムの試作機を開発していた。

 ハイシエラフォーマットをベースとしたテキスト中心のビジネスの可能性を追求する一方、ソニーでは音声、画像なども一緒に扱うことができる大容量CD−ROMの規格である「CD−I」の開発も進めていた.土井氏はCD−Tの普及について「あまりに細かく規格を決めすぎたために、技術的にはいいものだと思うが強引に普及させる決断がつかなかった」という。そのため改めてCD−Tで使われているADPCM(Adaptive Differential Code Modulation)技術を用いて圧縮したデジタルオーディオ情報を時分割多重してディスク上に記録する新規格「CD−ROM XA」を、88年8月にソニー、フィリップス、マイクロソフトの3社で共同提案した。

 この新しいXAフォーマットについては、近く規格がフィックスされる予定で、本格的な普及時期に入る。あとでまた取り上げるが、ソニーでは89年3月に日本語版IBM互換パソコン仕様「AX」をベースに、XAフォーマット対応のCD−ROMビューアーを発表した。89年夏にサンプル出荷を予定しており、この分野でも先行することになりそうだ。

 ソニーがCD−ROMと並んでカを入れている外部記憶装置がMO(光磁気)ディスク装置だ。1枚のディスクに両面で594MB記憶できる書き換え可能な光ディスクで、88年から外部接続タイブを製品化、専用機として商品化されている光ファイルシステムや普通の大規模データベースシステムなどをNEWSを使って構築可能とした。

 それと関連して88年5月には、イメージ処理、イメージファイリング機能を強化する周辺機器を開発、その一例として「ソニー人事情報システム」を構築し、ビジネスショウ88でデモを行なった。その時発売した周辺機器は、@イメージボードAイメージリーダーBドキュメントフィーダーの3機種で、こうしたパーツを使って部品情報システム、商品情報システム、図面情報システムなどの設計、構築ができるシステムインテグレーターを募集することで、アプリケーションの強化を図っていく戦略を打ち出している。
 引き続き88年9月にはMOディスク装置を内蔵したNEWSの最上位シリーズ「NWS1900」を商品化して、製品ラインを拡充している。

(つづく)