【IT】日本のITの歴史―SONY『NEWS』の戦略(1)(1989-03-20)

 ソニーのコンピューター事業と言えば、ゲーム機の「プレイステーション」やパソコンの「VAIO」を思い浮かべるかもしれないが、かつてUNIXワークステーション「NEWS」をヒットさせた輝かしい歴史があった。下記のレポートは、コンピューター担当記者時代にまとめたものである。当時は外部公表する予定はなく面白半分に書き始めたので、かなり不適切な表現もあるが、当時の感覚を尊重して、そのまま掲載することにする。原稿用紙で50枚はある長文なので、何か時間があるときにでもお読みいただければ幸いである。

SONY『NEWS』の戦略(1989-03-20)

 ソニーが、86年に本格的にコンピューター事業に進出したあと、順調にビジネスを拡大している。わが国では新規にコンピューター、とくにハードウェア事業を開始した企業で、成功と呼べるだけの成果を上げたところはほとんど皆無。むしろトップメーカーの寡占化さえ進行しているだけに、これまでのソニーの事業経過はわが国では、あのソード以来の順調さといえるかもしれない。このレポートでは、わが国におけるコンピュータービジネスの特色と最近の流れをふまえたうえで、ソニーがこれまでにどのような戦略を進めてきたかを分析する。

1.わが国コンピューター業界の現状

1・1コンピューター産業の規模

 わが国の情報産業の生産規模は88年度で約8兆円と推定される。内訳はコンピューター産業が5兆6000億円、ソフトウェア産業が2兆3000億円として算出したもので、業界団体統計から漏れたものをくわえると、わが国の情報産業は12兆−13兆円に達しているとの統計もある。このうちコンピューター産業は、年率14−15%の成長が見込まれており、わが国産業全体をみても非常に有望な産業といえる。

 この数字をわが国のコンピューター産業全体の数字とみるわけにはいかないが、わが国の大手コンピューターメーカーの売上高ランキングと比較してみる。88年度実績見込みによるランキングは次のとおり。

[88年度国内コンピューターメーカー売上高ランキングBESTlO]
メーカー     売上高        国内   決算期
富士通   13,800(12)  11,500(13)  8903
NEC        12,300(13)  10,250(15)  8903
日本IBM  12,000(14)    8,550(15)  8812
日立        9,220(15)    7,470(13)  8903
東芝      4,300(13)    3,126(10)  8903
日本ユニシス 2,700(12)     2,700(12)  8903
沖電気     2,240(18)     1,780(16)  8903
三菱電機   1,780( 7)    1,360( 9)  8903
日本NCR  1,090( 7)     950(10)  8811
日本DEC    910(25)    910(25)  8906
合計     60,340(13)   48,730(19)
注)単位:億円、カッコ内は前年同期比伸び率%

 決算期はそれぞれ異なるが、単純計算しただけでもコンピューターメーカー上位10社で売上高は6兆円を達成しており、国内売上高も約5兆円となっている。これらの数字にはハードウェアだけでなく、ソフトや保守サービスなども含まれているが、現状ではハードウェアの比率が約80%と考えれば、上位10社だけで4兆円ものコンピューターを販売していることになる。

 それから類推してもコンピューター市場はすでに巨大な市場を形成しているわけだが、さらに驚くべきことはその巨大市場が年率20%近い伸びを示していることだろう。今後コンピューターは教育、家庭へと市場を拡大していくことは確実で、これだけの有望市場に対して松下電器産業やソニーといったエレクトロニクスメーカーだけでなく、鉄鋼メーカーや機械メーカーなどが新規参入してくることは当然のことである。

 そうしたなかでも、日本IBMや日立製作所などと提携しメジャー路線を強力に推し進めている新日本製鉄、米ミツプス・コンピュータシステムと米アーデントなど非常に有望な米国ベンチャー企業を発掘しかつ資本参加するといった目先の効いたビジネスを展開している久保田鉄工、そして様々なシカケでワークステーション分野に旋風を巻き起こしているソニーの3社はこれからのコンピュータービジネスを展開するうえで多くの教訓を示唆しているといえる。

1・2ワークステーション市場の動向

 わが国ではまだ正式にはワークステーションの定義が確立しておらず、日本電子工業振興協会の統計でもその項目は設けられていない。そのため正確な市場親模を表す数字もないが、大部分は従来のパソコンに含まれていると考えられる。一応の目安としては価格が300万円以下のものをパソコンに加えるとされており、台数ベースではWSも圧倒的に300万円以下のものが出ているとみられる。

 わが国のパソコン市場は88年度で約130万台が見込まれており、うち16、32ビットパソコンが約100万台と全体の77%を占めている。このほとんど90%以上がMS−DOS文化圏に属しており、その他は微々たる存在に過ぎない状況だ。

 そうしたなかで徐々に勢力を拡大してきているのがUNIX。ある予測によれば、将来的にはこの分野で20%のシェアを占めるともいわれており、非常に有望な市場といえる。たとえばパソコン市場が年率20%の成長を続けると考えれば、UNIXは40%以上の伸びを達成する計算となる。UNIXが標準OSとなっているEWSで、今後40−50%の成長を予測しているところもあり、多少数字にバラツキがあったとしてもこの市場に業界が大きな期待を寄せていることでは一致している。

 ビジネス向けのパソコン、WSでUNIXをメインOSとして採用しているのは、日立製作所の2050、富士通のGシリーズ、アップルのマッキントッシュが主なもので、そのなかでも最も売れているとみられる2050でさえも88年度で1万台程度。一方、エンジニアリング向けのWSは、ほとんどがUNIXマシンでこちらも市場サイズは88年で2万5000台とみられている。最大に見積もっても5万台がいいところで、100万台からみれば5%程度である。

 それだけに、UNIXワークステーションに本気で取り組んできた大手メーカーはほとんど皆無といっていい状況だった。それはEWSでは米サン・マイクロシステムズ、米アポロコンピュータ、米ヒューレツト・パッカードの外資系3社と、そして新参者のソニーで上位を占めていることからも明白であろう。これまでは新規参入者でも入りやすかった市場だったわけで、ソニーのほかにも住友電気工業、立石電機といった国産の新規参入組がいち早くEWS市場に目を付けてビジネスをスタートさせていた。

 しかし、現時点ではソニーと大きく差がついてしまっている。その原因は一口ではなかなか説明できないし、またすべてを分析することも不可能だろう。勝負は時の運ともいうし、たまたまソニーがついていたという部分もかなりあると考えられる。そうした点を十分に踏まえたうえでソニーのこれまでのコンピューター戦略を分析していくことが重要と思われる。

(つづく)