【住宅】家づくりの経済学―耐震強度偽装問題を考える(9)(2006-02-09)

家づくりの面白さは、設計変更なども加えながら建築主が思い描く家を自由につくれること。建築確認・検査制度などでガチガチに縛られれば、その自由度がかなり制約される可能性も出てくる。

最も重要なのは建築主の安全性に対する意識

耐震強度偽装問題は、「非姉歯」物件にまで広がりを見せ始めてきました。今国会で建築基準法改正案が提出されるなど抜本的な対策が講じられようとしています。しばらくは政府や建築、住宅関連業界の対応を見守っていくことにしたいと思いますが、やはり最も重要なのは、建築主の安全性に対する意識ではないかと思うのです。

このコラムでは、建築確認・検査制度が建築物の安全性を担保するのではなく、作り手である建築主が設計者や施工業者とともに作り上げていくべきものという立場を取ってきました。あくまでも建築主がものづくりの最高責任者であり、東横インの西田社長のように建築主が要求すれば、設計者も施工業者も図面を最初から2枚用意して違反建築をつくることなど造作もないことなのです。

建築主の責任を強調すればするほど、こんな反応が出てくるかもしれません。

「建築には全く素人の一般消費者にも、建築主の責任を求めるのか!」と。

それに対する答えは明快です。

「建築の素人である一般消費者であっても、建築主である限り責任を持つのは当然でしょう」

そのことをはっきりと言わずに、「お施主様は神様です」という対応を取り続けてきた建築業界、住宅業界側の問題でもあるのですが、建築に対する見識を持つ消費者の方が増えてきた今だからこそ、きちんと言うべきなのではないかと思うのです。

今回の耐震強度偽装問題をきっかけに、金融機関の間にも、建築物の安全性の問題から金融機関としても逃げられないとの意識がようやく芽生えてきたようです。先日、ある住宅エスクロー会社の代表者から「金融機関が果たすべき役割について相談したいというオファーが増えてきた」という話を聞きました。

さらに一般消費者からの問い合わせも、金利上昇局面を迎えるなかで、「エスクロー会社に手数料を払っても、早めに住宅ローンの金利などを確定した方が得だ」という考え方をする建築主を中心にして増えてきているとか。

そのような考え方でエスクローサービスを利用されるとは、私も予想していませんでしたが、確かに設計を始めて家が完成するまでには最低でも半年はかかるわけで、半年後の金利上昇リスクをカバーすると考えれば、エスクローのサービス手数料も高くないという判断もできるでしょう。

ただ、エスクロー会社の代表者が懸念していたことがありました。それは「建築主のワガママ」です。

設計変更を制限することが消費者に与える影響

今回の事件をきっかけに、国土交通省では、建築確認・検査制度を強化する方向で検討を進めています。中間検査、完了検査の完全義務付けが打ち出される可能性もあるでしょうし、その場合、これまで安全・品質問題に関わってこなかった金融機関も政府からの要請があれば、完了検査が通らなければ、住宅ローンの融資を実行しないといった対応を取らざるを得ないかもしれません。

しかし、建築工事に、設計変更は付き物です。とくに建築には素人の一般消費者であれば、パソコンの3Dソフトを使ってシミュレーションしても、実際に骨組みが出来上がってくると、設計図面と実物と間のイメージに大きなギャップを感じるでしょう。当然、「こんなイメージではなかった」と、ほとんどの建築主が設計変更を求めることになります。

設計者も、建築主の要求には応えざるを得ません。大概のワガママには構造的に問題がない限り対応することになりますが、問題は構造計算に影響を及ぼすような設計変更を求められたときです。もちろん「構造に影響が出るので対応できません」と突っぱねることもできますが、それでなくても「クレーム産業」と呼ばれる住宅ビジネス。家が完成したあとも、メンテナンスなどで長いお付き合いになるわけですから、「あの時、こうしてほしいと要望したのに、対応してくれなかった」と言われ続けるのでは堪りません。

従来は、建築主のこうしたワガママも設計者、施工業者は受け入れて、帳尻を合わせてきたのです。建築主の強い要望で、窓や柱の位置が変更されれば、当然、筋交いの入る位置や方向などが変わることもあります。本来なら建築物の構造が建築確認時から大きく変更された場合には、もう一度、確認申請をやり直して許可を受ける必要があるのです。

しかし、その間は、工事が完全にストップしてしまいます。当然、建築主の都合で工期が延長されたわけですから、設計・施工コストも上乗せしてもらう必要が出てきます。それは建築主も望んでいませんから、設計者と施工業者がプロとして建築物の安全性をキチンと確保するという前提のうえで、中間検査や完了検査を受けられないことを建築主にも了承してもらい、再申請は行わずに工事を継続して建物を完成させるケースがこれまでは少なくなかったのです。

もし、完了検査が通らないと住宅ローンの融資を実行しないことになれば、当然、建築検査機関としても対応せざるを得ません。エスクロー会社として検査員を現場に入れて検査したときに、確認申請の図面から大きく設計変更が行われていて完了検査が通らないと判断したときは、当然、工事をストップさせることになってしまいます。

「そんなこと、一般消費者が納得すると思いますか?お施主様は神様ですから『何とかしろ!』と言うに決まっているじゃないですか」
エスクロー会社の代表者が懸念しているのは、このことでした。

建築主の個性や感性を発揮できる家づくり

分譲・建売住宅のような「買う」住宅の場合、買主が変更できるのは、せいぜい構造躯体に関係ない間仕切壁や内装・設備にとどまります。しかし、「つくる」住宅は、建築主が外観を含めて構造躯体を変更できるのです。その“自由度”を享受できるからこそ、「家づくり」の醍醐味があり、作り手としての責任を建築主が負うのも当然だと思うのです。

このコラムで「建築物の安全性を担保するのは、建築確認・検査制度ではなく、作り手である建築主の責任である」と主張し続けてきたのも、建築主の個性や感性を自由に発揮できる「家づくり」の環境を残しておきたいと思うからです。いちいち、お上にチェックしてもらってお墨付きをもらわなければ、安全性を確保できず、住宅ローンの融資も実行されないような社会というのも「いかがなものか…」と思ってしまうのです。
おわり)→MKSアーカイブINDEXへ