設計・施工段階のチェックが難しい「買う」場合には、第三者機関が評価する住宅性能表示制度の活用は不可欠。宅建業法や中古住宅の価格査定とも連携して制度を十分に機能させるための仕掛けが必要だろう。

住宅性能表示制度の普及はなぜ遅れたのか?

住宅品質確保促進法(品確法)を国土交通省が制定しようと準備を進めている当時、ちょうど記者クラブに常駐していたので、会見した住宅局幹部にこんな質問をした記憶があります。

「この法律は、まずは分譲や建売住宅の品質を向上させるために法律ですね。分譲や建売には住宅性能表示制度を義務付けないのですか?」と。

設計・施工段階から建築主が直接、関わることが可能な「つくる」場合であれば、第三者に品質・性能を評価してもらわなくても良いという建築主もいるでしょう。例えば、インハウスエンジニアとして建築技術者を抱えている国土交通省など役所や東京電力などの大企業などであれば自らチェックできますし、建築主が国の制度を利用しなくても自ら信頼できる監理技術者を雇ってチェックさせることもできます。

しかし、分譲や建売のような「買う」場合には、実際問題として購入者が住宅の品質をチェックすることは困難です。売主のインハウスエンジニアや、売主が雇った監理技術者がチェックするにしても、それを第三者がチェックしてもらう必要があります。

中古住宅流通市場が発達して建物の売買が活発な米国のインスペクション制度(建物検査制度)と比較しても、日本の建築確認・検査制度が欠陥住宅問題に対して十分な機能していないという認識があったので、国土交通省が新しい制度を導入する意義は理解しました。

建築確認・検査制度と住宅性能表示制度を2つに分けることも、建築主によって第三者チェックの必要性に違いがあるので、高層建築から住宅まで全ての建物に義務付けられている建築確認・検査制度と同じように義務付けるのも難しいという理由で理解しました。

建築主が自ら建てて利用する「つくる」建物も、将来的に中古市場に供給されて誰かが「買う」わけですから、そのときの判断材料としても性能表示制度は重要になるはずです。これは中古住宅の価格査定に同制度を反映するなどの仕組みによって「つくる」でも同制度を利用する建築主が増えるというシナリオは描けるでしょう。

しかし、新築の分譲・建売住宅について、のんびりと性能表示制度の普及を待っているわけにもいきません。性能表示制度で等級が上の住宅から売れるとか、価格が少々高くても消費者が選んでくれるといったインセンティブが将来的に働く保証はないわけですから、「買う」場合には同制度の適用を義務付けるか、積極的に奨励するかが必要であるように思えました。


住宅を「つくる」と「買う」で役所の所管に組織の壁

住宅局幹部も、品確法が一義的に「買う」消費者のための法律であることは認めていました。しかし、性能表示制度は分譲や建売だけに義務付けるものではなく、まずは全ての住宅を対象に任意で運用していくとの答えだったと記憶しています。

その背景には、住宅局が所管するのは「つくる」であって、「買う」を所管する総合政策局不動産業課との間で、縦割り行政の壁があって、住宅局としてそこまで踏み込めないという意識があったのではないでしょうか。

建築基準法は基本的に「つくる」だけを見て「買う」は宅地建物取引業法がカバーする。法体系も、役所の組織と同じように縦割りのまま。そのなかで住宅性能表示制度は、国土交通省(当時は建設省)が家を「つくる」と「買う」をひとつの法律体系のなかに位置づけようとした最初の施策だったかもしれません。しかし、残念ながら、制度はつくったものの、十分に機能させるまでには至っていなかったように思います。

話は脱線しますが、ここ2年ほど、急速に拡大している不動産証券化を含めて各種金融商品における消費者保護を目的とした「投資サービス法」の制定作業が金融庁で進められています。その作業には、不動産証券化に関わる国土交通省も参加、その担当幹部と話をする機会があったのですが、株式などの投資商品の法体系と整合性にこだわる金融庁、同じ投資商品でも不動産固有の問題や実物不動産売買を規制する宅建業法との関係整理に腐心する国交省で、かなり作業は難航している様子でした。

一方、海外では複雑化する行政サービスを国民本位に見直す動きがあると聞きます。例えば、社会保障関連サービスを国、州、地方自治体を含めて再体系化し、それにあわせて行政側の組織も整理統合して「サービス・カナダ」を実現したカナダ政府の取り組みなどが国際的に高く評価されているようです。行政組織にあわせて法律や制度が細分化され、縦割りのままで運用されている状況は何とかする必要がありそうです。


住宅性能が新築・中古住宅の価格に反映する仕組みを!

すでに一部の報道で、住宅性能表示制度を分譲・建売住宅には義務付けるという話が出ています。そこで重要なのは、住宅性能表示制度を利用するメリットを消費者にも十分に説明して理解を得ることと、全体のスキームを見直して住宅の品質向上に役立つ制度に仕上げていくことです。

性能表示制度を単に義務付けるだけでなく、消費者はもちろん、不動産業者、設計事務所、施工業者、さらには金融機関や保険会社なども積極的に参加して、制度を有効に機能させていくための仕掛けが必要ではないでしょうか。

先ほど述べたように、中古住宅の価格査定にも同制度を反映させる必要があるように思われます。このコラムで何度か取り上げた(財)不動産流通近代化センターの「中古住宅価格査定マニュアル」には、住宅金融公庫が定めた技術基準の高耐久性基準やバリアフリー基準に準拠している住宅の査定価格を高くする仕組みがすでに導入されており、性能表示制度を組み入れることも不可能ではないでしょう。この際、中古住宅の価格査定の透明性を高めて、良質な住宅は売るときに有利であることを消費者に示していく必要もありそうです。

建築主が住宅性能表示でどの検査機関を利用するかも、今回の事件で建築確認が通りやすい検査機関を利用していたことを考慮する必要があります。いくら住宅性能表示制度を義務付けても住宅の品質を100%保証するのは難しいわけですから、あとは保険でカバーする必要が出てきます。その過程で、損保会社が検査機関を“格付け”するようになり、建築主がどの検査機関を利用するかで、瑕疵担保責任保険の料率に反映させるような仕組みができれば、民間検査機関もより良い検査を行おうとするのではないでしょうか。

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