【住宅】家づくりの経済学―耐震強度偽装問題を考える(6)(2006-01-21)

建物の品質保証リスクに対応するために、住宅金融公庫では以前から技術基準を定めて独自の審査を行ってきた。国の建築確認や公庫の審査に頼るだけでなく、官民が連携して住宅の品質向上のための新たな仕組みが必要ではないか。

品質向上に果たす金融の役割とは?

耐震強度偽装問題について考察してきましたが、金融機関の話題を持ち出したところで、この連載コラムを読まれてきた方は、私が意図するところに気付いたのではないでしょうか。

「なるほど金融機関をからませることで、住宅ローンのノンリコース化や建築費の出来高払いなどの仕組みを構築して、住宅の品質向上と中古住宅流通市場の形成に向けた基盤を整備したいということね」

ピ〜ンポ〜ン、正解です。

2003年5月から、2年半以上に渡って、この連載コラムで書き続けてきたことを実現するための鍵が、耐震強度偽装問題によって見えてきたのかもしれません。

今後とも、国が建築確認・検査によって違反建築を取り締まることは重要ですし、同時に安全や品質も同時にチェックすることも大切でしょう。しかし、国が個々の建物の品質や安全性を保証するのは別問題です。

だからこそ、建築基準法を改正したあとに、わざわざ住宅品質確保促進法を制定して、建築確認・検査とは別の枠組みの制度を導入して、品質と安全を確保することにしたはずなのです。

出来高払い方式を住宅建設に導入できるのか?

住宅性能表示制度が導入される前後に、住宅業界の一部で、金融機関や保険、さらに総合商社なども巻き込んで、住宅の品質向上のための仕組みを構築しようとする動きがありました。国がいくら規制を強化したところで欠陥住宅を取り締まることが難しいのであれば、「欠陥住宅には金融機関がカネを付けない」という仕組みを導入するのが最も効果的だろうと考えられたからです。

しかし、こうした試みはことごとく失敗してきました。理由は簡単な話で、金融機関がそうしたリスクに対応するつもりが全く無かったからです。確かに、金融機関にしてみれば、これまでもほとんどノーリスクで住宅ローンを販売してこられたわけですし、目の上のたんこぶだった住宅金融公庫の直接融資も廃止に追い込んだわけですから、何もわざわざ建物の品質保証リスクを取る必要もないということなのでしょう。

では、金融機関がこれまでも建物の品質保証リスクに対応してこなかったのでしょうか。

日本でも97年ごろから不動産証券化の考え方が浸透し始めてきて、不動産物件を還元利回りで評価する考え方が定着してきました。ここでは、投資家からの資金を集めるために、不動産物件に対するデューデリジェンス(詳細な調査のこと)が行われ、そのなかで建物の状態を調査したエンジニアリングレポートも作成して、投資家に開示されるようになっています。

さらに、以前から住宅金融公庫では、住宅ローンの対象となる住宅に対して独自に定めた公庫仕様を適用することを求め、書類審査を実施してきました。発売当初から公庫の融資対象となるマンションには、事前に設計図面の審査を行うなどの対応を取ってきました。戸建て住宅の新築では、建設途中で中間資金を融資する制度を適用する場合に、公庫による中間検査も実施していました。

つまり国でも、建築確認・検査を実施するだけでなく、金融公庫を通じて住宅ローンを出す場合には、公庫に審査を行わせるという二重チェック体制を敷いてきたのです。最近ではあまり目立たなくなった印象もありますが、かつてはマンション業者が公庫融資付きマンションを売り物にするケースが多かったのも、公庫付きの良さを多くの消費者が認めていたからかもしれません。

旧・住宅金融公庫の役割を誰が担うのか?

住宅金融公庫が「民業圧迫」との批判が高まって直接融資が廃止に追い込まれることになったときに、住宅政策に関わってきた多くの識者からは懸念する声が聞かれました。その最大の理由が、住宅金融公庫が住宅の品質向上に果たしてきた役割を、民間金融機関が自主的に担っていくとは考えにくく、住宅の品質が低下するのではないかという問題だったのです。

住宅の品質が低下してしまえば、今年の通常国会に国土交通省が法案を提出する予定の『住宅基本法』に盛り込まれている「中古住宅ストックの有効活用」も絵に描いた餅で終わってしまいます。欠陥住宅が中古流通市場に出回っていけば、2次被害も懸念されます。多額の補給金を得ながら住宅金融公庫が直接融資を続けていくことが難しいのであれば、ポイントはいかにして民間の仕組みで、住宅の品質向上を図るための仕組みを構築していくかだったのです。

このことは国土交通省でも十分に理解していたはずなのですが、都市整備公団や住宅金融公庫の独立行政法人化などの対応に追われて、動きが鈍い。そうした危機感から、この連載コラムを書き続けてきたわけですが、新しい仕組みが構築される前に、恐れていた事態が発生してしまったのは残念と言わざるを得ません。

今回のヒューザーの物件では、事前に設計審査を行っている住宅金融公庫融資付きというマンションは1棟もなかったと聞いています。ただ、ヒューザー物件が完成したあとに、個人で住宅金融公庫のローンを申し込んでローンを実施したケースは数戸程度あったようです。

住宅金融公庫では、2003年10月から証券化手法を使った新型ローンを民間金融機関と協力して提供を始め、05年から「フラット35」の愛称で販売していますが、フラット35でも従来の直接融資のときと同じように、技術基準を設定して公庫独自の審査や現場検査を実施する仕組みを継続しています。

2007年10月の独法化後も、公庫だけにこうした役割を依存して良いのか。現在の仕組みを改善する必要はないのか。フラット35を利用しなくてもサービスだけを提供することはできないのか。住宅金融公庫以外に、民間金融機関も対応すべきではないのか。

さらに、この連載コラムでも取り上げたエスクローサービスや出来高払い、昨年秋の自民党の報告書でも取り上げられた住宅ローンのノンリコース化、品質性能評価を踏まえた中古住宅の資産査定のあり方などをどのように組み立てていくのか。まさに、問題や山積みです。

今回の耐震強度偽装問題を小手先だけの対策で終わらせてはならないと思うのです。

「耐震偽装問題を考える(7)」