【住宅】家づくりの経済学―耐震強度偽装問題を考える(5)(206-01-19)

建築確認・検査が建物の品質や安全性を担保しないとすると、最も困ってしまうのが金融機関だろう。担保物件である建物を見もせずに、欠陥マンションにも住宅ローンを売ってきた“貸し手責任”が問われかねないからだ。

建築確認による品質確保を前提に住宅ローンを出してきた金融機関

「そもそも国の建築確認制度は、建物の安全性を国が保証する制度ではないはずです」―前回のコラムでそう書いたのは私なりの解釈であって、法律を管轄する国土交通省はそれに対して否定的な見解を述べるでしょう。

もし否定しなければ、非常に困ってしまうところがあるからです。それは、土地建物を担保にして住宅ローンを提供している「金融機関」です。

耐震強度偽装事件のテレビ報道の中で、住民の中から偽装マンションに担保設定して住宅ローンを提供した金融機関の責任を指摘する声がチラッと紹介されていましたが、なぜか、この問題がメディアなどで取り上げられたのをほとんど見かけません。しかし、今回の事件によって明らかになってきた日本の建築生産システムの構造的問題を究明していくうえで、住宅ローンの問題は避けては通れないと思うのです。

一般消費者が住宅を建築または購入する場合、ほとんどの方が金融機関の住宅ローンを利用するでしょう。私自身も、いまも住宅ローンを抱えていますし、コラムを読んでいる方でも住宅ローンを利用した経験がある人も多いと思います。

住宅ローンを借りるときには当然、土地建物が担保になります。金融機関では、担保となる物件をキチンと査定して、それに応じて融資するのが原則だと思うのですが、新築物件で住宅ローンを借りるときに、金融機関が自ら担保査定を行っているという話を聞いたことがありません。

住宅ローンの場合、実質的には住宅ローンを借りる人の返済能力だけを見て貸し付けており、消費者には保証会社への高い保証料を支払わせ、生命保険にも加入させているので、担保物件をキチンと査定する必要がないのでしょうか。そうだとしても、サラ金と同じような無担保ローンですから、金利1%なんてことことはあり得ないはずです。

担保査定もしない金融機関に貸し手責任はないのか?

なぜ、金融機関が担保物件の査定をキチンと行わずに、住宅ローンを貸し出せるのか?

国の確認検査を通っていれば、建物の品質や安全性が担保されていることが前提になっているとしか考えられないのです。国の制度が、金融機関に成り代わって担保物件の査定を行ってくれるわけですから、金融機関も安心ということなのかもしれません。

そうだと仮定するならば、これまでも数多くの欠陥住宅に住宅ローンが付けられて、消費者に販売されてきたことも説明が付きます。担保となる建物がどんな物件であるかを自らは調べもせず、欠陥住宅でも国が確認検査を通したのだから金融機関には責任はないと言えますから。

コラムの冒頭に書いたような解釈をしてしまうと、金融機関は担保物件の検査もせずに住宅ローンを出したことへの“貸し手責任”が問われることになるかもしれません。

それを反省して金融機関に担保物件の検査を求めれば、審査能力のない金融機関が住宅ローンを売りにくくなる。その影響でマンション業者や建築業者も住宅を売りにくくなる。自民党や公明党など与党が必死になって、今回の問題の収束化を図ろうとするのも、判らないわけでもありませんが、果たして、国の建築確認・検査に全ての責任を押し付けるような仕組みをこのまま続けていってよいのでしょうか?

「瑕疵」と「欠陥」は同じなのか?

建築確認・検査のあり方は「瑕疵担保責任」の考え方にも影響を及ぼしていると考えられます。

このコラムでも、今回の問題について「建築主」の責任について言及しました。ヒューザーの小島社長も「10年の瑕疵担保責任があるから責任は取る」と言っているとも聞きますが、何ともその言葉に違和感を覚えるのです。

「瑕疵」とは、広辞苑によると「キズ」とか「欠点」という意味で、もともとは「宝玉のキズ」から由来しているようです。きれいな宝玉にチラと付いたキズが「瑕疵」であって、最初からキズだらけのものは宝玉と呼べず、従って瑕疵とも言うべきではないでしょう。

そう考えると、「瑕疵」とは、建築基準法などの基づいてキチンと設計・施工された建物が、経年劣化や想定していなかった問題などによって生じた「不具合」を意味するもので、設計データ偽装までして作った「欠陥」マンションは明らかに「瑕疵」ではありません。小島氏が「瑕疵」という言葉を強調するたびに、たまたま不具合が生じただけで、自分が悪いことをしたわけではないと言っているようにしか聞こえないのです。

昨年暮れから松下電器産業が、10年以上に前に製造した石油ファンヒーターに「欠陥」があったとして、巨額な費用を投じて購入者探しを展開しています。石油ファンヒーターにも「品質保証期限」は設定されていて10年より短いとは思いますが、「欠陥」に対しては作り手としての責任を果たそうとの姿勢が強く感じられます。

しかし、建物に生じた不具合については「瑕疵」と「欠陥」がこれまで明確に区別されていなかったと思うのです。その背景にも、建築確認・検査が通った建物は、品質や安全性を国がチェックしている「建前」があったのでしょう。築後、数年を経て、「瑕疵」か「欠陥」か、区別するのが難しい不具合もあるでしょうが、今回のような明らかに悪意のある「欠陥」も、10年で免責されるとしたら、消費者は浮かばれません。

耐震強度を偽装しても地震さえ起きなければ10年ぐらいは問題ないはず。地震が起きて倒壊したとしても、阪神大震災のような大混乱のなかでウヤムヤにできるはず。国の建築確認・検査さえ下ろさせて売り抜けてしまえば、逃げ切れる。そんな思惑で商売をしているマンション業者や施工業者を根絶して、消費者が安心して住宅ローンを組んで、住宅を購入できる環境を整備することが求められていると思うのです。

「耐震偽装問題を考える(6)」