建築確認制度を見直し強化しようという意見があるが、建物の安全性を確保する責任は建築主にある。国が関与を深めることは、消費者保護にはならず、むしろ悪徳マンション業者や施工業者を助けることになりかねない。

公明党から強まった消費者保護の声

「国の建築確認・検査制度を見直して強化するべき」―耐震強度偽装事件を受けて、消費者保護の観点から、こうした意見が北側国土交通大臣のお膝元である公明党などから聞かれるようになりました。

果たして国の建築確認・検査制度の強化が消費者保護につながるのか―私自身は、大いに疑問であると思っています。むしろ問題を悪化させる懸念があるのではないでしょうか。

理由は、単純明快です。建築の安全性に対する国の関与が強まれば強まるほど、何か問題が発生した時に国の責任は重くならざるを得ません。しかし、今回の事件をみても、建築確認機関の目をごまかして欠陥住宅をつくったのは、一部の悪徳なマンション業者や施工業者です。

そうした連中は、いくら規制を強化したところで、検査の網をかいくぐって欠陥住宅をつくり続けることは間違いありません。万一、欠陥が明らかになったとしても、国が責任を取ってくれるとなれば、建築検査機関の目をごまかして欠陥住宅をつくって儲けようとする悪質業者がむしろ増えることも懸念されます。

これまでの制度でも、自ら努力して十分に安全で品質の高い住宅をつくってきたオーナー建築主(注文住宅を発注する消費者)や優良なマンション業者や施工業者にしてみると、国の制度強化で否応なしに費用などの負担が増えるだけのこと。さらに、制度強化で検査員の人件費や経費も増え、それを賃貸住宅に住んでいる人も含めて国民全体で負担することになります。

これこそ、建築技術官僚や彼らの天下り先とも言われる民間検査機関の仕事を増やすだけの“焼け太り”。先日、ある建設技術官僚の大物OBと話をしたときも、まるで他人事のように「役人がよく使う手なんだよなあ」と心配していました。


建築確認制度は国のお墨付きを与えることなのか?

そもそも国の建築確認制度は、建物の安全性を国が保証する制度ではないはずです。それにも関わらず、国がお墨付きを与えているような誤解を消費者に与え続けてきたことが、欠陥住宅問題を蔓延させてきた大きな原因となっていたのではないでしょうか。

そうした誤った認識を改めもせずに、国が建築確認・検査制度を強化することは、消費者の安易な消費行動を増長し、欠陥住宅問題をさらに深刻化させるだけのこと。

まさに制度の見直し強化は、消費者保護ではなく、悪徳マンション業者・施工業者の保護のための施策ではないのかと疑わざるを得ないのです。


建物の安全・安心は建築主の責任

建物の安全性について、その責任が建築主にあることは自明のことです。建物をつくる責任者はあくまでも建築主であり、建築士や工務店は建築主から仕事を請け負っているという関係にあります。国が定めた建築基準法の範囲内であれば、建築主は自由に建物をつくることができます。誰が“モノづくり”をしたのかといえば、やはり建築主なのです。

では、なぜ国が、建築基準法や建築確認制度を定める必要があるのでしょうか。

建築基準法の第1条にはこう書かれています。
「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする」

建築確認制度は、第6条で規定されています。
「工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならない」

確かに「国民の生命、健康および財産の保護を図り」とは書かれていますが、建築基準法を遵守して安全な建物を建てる義務を負っているのは、国ではなく、国民であると考えるのが正しい解釈でしょう。建築確認制度も、その義務を国民が遂行していることを示す行為であって、公共の福祉に反するような違反建築ではないことを建築主が証明する制度と解釈すべきではないでしょうか。

戸建て住宅において最も欠陥が発生するのは、地盤と基礎部分であると言われています。もし、建築確認制度が建物の安全性を保証する制度であるならば、申請時に地盤に関するデータを求め、中間検査は基礎の配筋が完了してコンクリートを打つ前に行うのが当然なはず。

しかし、現状では地盤のデータは申請しませんし、中間検査も基礎も打ち終わり、柱が組みあがって屋根がかかった段階で1度行うだけです。明らかに国が建物の安全性を保証する仕組みにはなっておらず、こんな制度で建物の欠陥を見抜けずに安全性の問題が生じた場合に国が費用負担を求められるのなら、納税者は堪ったものではありません。

建築工事を行う場合、設計と施工を分離発注するのが良い方法だと言われてきました。オーナー建築主の場合、建築予算2000万円を用意できれば、その範囲内でできるだけ良い建物をつくろうと考えるのが普通でしょう。2000万円の予算を無理に1500万円まで値引きしようとは考えないはずです。

建築予算の全体が決まれば、設計・監理料は建築予算のX%で決まり、設計者の利益もほぼ確定することになります。一方で、施工予算も(建築予算−設計料)で決まりますが、施工業者の利益は、材料費や外注費を削れば削るほど増えるという図式になります。

設計と施工が分離されていれば、設計者はいくら材料費や外注費を削っても自分の利益が増えるわけではありませんから、建築主の代理人の立場で施工状況を正しくチェックできるはずですし、建築主もその役割を期待して設計者にキチンとした設計・監理料を支払うべきなのです。

もし、国が建築確認・検査制度を通じて建物の安全性への関与を強めたらどうなるでしょうか。

設計・監理料をキチンと支払って、施工状況をチェックしてもらおうという建築主が減ってしまうかもしれません。食えなくなった設計者は、姉歯元建築士のように施工業者の下請けとなって、マンション業者や施工業者に都合の良い仕事を行うようになっていく。まさに最悪なシナリオが進行していくのではないかと危惧するのです。

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