【住宅】家づくりの経済学―耐震偽装問題を考える(3)(2005-12-26)

1995年1月の阪神大震災による建物倒壊で、工事検査の受検率が低いことがクローズアップされた。本来、建築確認の工事検査と安全性は必ずしも直結しないのに、建築確認制度が建物の安全性を担保するとの誤ったイメージが広がった。

阪神大震災で注目が集まった建築物の耐震性能

政府が建築基準法の抜本的な改正について検討を始めたのと同じ時期に、あの阪神大震災が発生しました。95年1月に阪神・淡路地区を襲った大地震で6000人以上の人命が奪われ、数多くの建物が破壊されたことは建築業界にも大きな衝撃を与えました。この大災害によって建物の耐震強度問題に社会的な関心が集まったのも当然です。

震災直後には、国の建築行政に対して様々な批判があったとも聞きます。しかし、私が建設省担当になった96年半ばには国に対する責任追及もほぼ一段落して、耐震強度問題は大きく2つのポイントに収れんしつつありました。

ひとつは、81年に制定された新耐震基準の以前に建てられた建物の被害が集中していたという点。もうひとつは、新耐震基準に適合した建物にも被害が発生し、耐震性能にも格差が存在していたという点でした。

これに対応して国は2つの新しい法律を制定しました。新耐震基準以前の建物で、学校や商業施設など人が多く集まる建物を中心に耐震補強工事を促進するための「耐震改修促進法」(95年12月施行)と、住宅の品質・性能を確保するための「住宅品質確保促進法」(2000年4月施行)です。

この住宅品質確保促進法の議論を通じて私自身も、住宅を「つくる」と「買う」との違いを強く意識するようになったのです。きっかけは、建築確認後の工事検査の実施率が非常に低いとのデータでした。

工事検査の実施率が低いのはなぜか?

建築基準法では、建築確認申請を行い、確認済証が交付されたあと、中間検査と完了検査の2回を受けることが義務付けられてきました。しかし、中間検査は1割、完了検査は4割しか実施されていないが明らかにされ、このことが81年以降の新耐震基準に準拠しながらも倒壊した建物が発生した原因のひとつとされたのです。

今回の耐震強度偽装問題でも、3割の建物がいまだに完了検査を受けていないという報道がありましたが、ややもすると「検査を受けない=耐震性能に問題」といった短絡的な議論の陥りがちな面があります。

なぜ工事検査の受検率が、それほど低かったのでしょうか?

手抜き工事や耐震偽装などの設計・施工の問題を隠すためとの理由は、分譲・建売の場合であれば、当てはまるかも知れません。しかし、建物のオーナー(居住者)自らが建築主であれば、施工業者が何と言おうと強引に検査を受けさせれば良いだけのことです。戸建て住宅なら検査費用はわずか1万5000円程度のことですから、阪神大震災当時に完了検査が4割しかなかったのは、オーナー建築主も工事検査を受けないことを認めてきたと考えざるを得ません。

その理由は、多くの建築主が自ら違反建築を行ってきたからなのでしょう。このことは、国土交通省としても、新聞やテレビなどのメディアにしても、おおっぴらに認めるわけにいかず、第3者に迷惑がかからない範囲のなかで、世間一般でも大目に見てきた問題と言えるのではないでしょうか。

違反建築を作らせているのは建築主?

限られた狭い土地に建物を建てることが多い日本では、近隣建物との調整を図るために、建築基準法で建ぺい率や容積率、日影規制や斜線規制、防火要件など非常に細かな規制の網がかけられてきました。

自分の土地に自分のカネで建物を建てる分には、本来ならどんな建物を建てようが建築主の自己責任のもと自由であるはず。しかし、目の前に高層ビルが建って日が当たらなくなれば、近隣は当然、大反対。隣接した建物の防火性が低ければ、万一火災が発生した場合に類焼(もらい火)の危険が高まりますし、耐震性が低ければ、倒壊して周りの建物に倒れ掛かってくる懸念も生じます。
そうした問題を事前に調整して安全な建物を建てるために、建築確認申請と工事検査の制度がつくられたと考えるのが自然ではないでしょうか。

しかし、こうした規制をキチンと守って建てると、居住者である建築主が満足する広さや機能などを実現できないケースが、都市の狭小敷地などで生じることがあります。自ら家を建てるのは一生に一度あるかないかのこと。何とか理想に近い家を建てようとすると、最後の手段として違反建築ということになるのかもしれません(決して、違反建築を認めているわけではないのですが…)。

例えば、建ぺい率や容積率を多少オーバーせざるを得ない場合には、建築確認申請のときには建築許可の下りる図面を提出し、図面通りに工事を行い、工事検査にも合格したあとで、壁の一部を壊して増床するといった方法が考えられます。しかし、取り壊し費用や手間もかかるので、最初から設計変更して建てることにすれば、工事検査を受けても合格しませんから、最初から検査は受けようとしないでしょう。

オーナー建築主であれば、行政の検査を受けるまでもなく、耐震性や耐火性が高く、品質もキチンと確保されている安全な建物を建てるはず。別に行政の建築指導主事や民間検査機関の検査員でなければ正しい検査が出来ないわけでななく、不安であれば施工に詳しい建築技術者を雇って自主的に検査すれば良いのです。

建築確認検査制度の責任にするのは危険!

今回の耐震強度偽装問題が発生してから、非常に危惧している問題があります。それは、耐震強度偽装問題の責任の一部が「国の建築確認・検査制度に問題があった」とする論調が一部の国会議員やメディアから聞かれることです。これこそ、国土交通省のまさに“思う壺”、役人が得意とする権益拡大に利用されるだけの話ではないでしょうか。

私も、日本の建築生産システムが「善意の上に成り立った」危ういシステムであり、今回の問題の責任は、国にもあると指摘しました。しかし、建物の安全性を担保する責任を、国に負わせるべきではありません。あくまでも建物の安全性を確保する責任は建築主にあります。その原則を曲げるべきではないと思うのです。


「耐震偽装問題を考える(4)」