【住宅】家づくりの経済学―耐震偽装問題を考える(2)(2005-12-22)

「日本の住宅は高すぎる」―米国側の主張に乗せられて、国は98年春に建築基準法の抜本的な見直しを決断する。国が細かなスペック(仕様)を定める『仕様規定』から、性能を満足すれば自由に設計できる『性能規定』への転換が図られた。

米国から突きつけられた『性能規定』

「日本の住宅は高すぎる!」
米国がその原因と指摘したのが、建築基準法の『仕様規定』でした。つまり、建築基準法で定められた仕様(スペック)は“過剰スペック”であり、それが価格を高くしている原因だと決め付け、建築基準法の『規制緩和』を求めてきたのです。

もちろん、狙いは米国など海外の住宅を日本に買わせることでした。もともと日本には木造在来工法があり、木造住宅のほとんどはこれに基づいてつくられてきたわけです。1980年代に入ったころ、三井不動産などの大手不動産が米国から2×4工法などを導入して事業を始めていたわけですが、これも建築基準法に基づいてつくられてきました。

建築基準法は、日本の法律ですから、住宅に使う材料の仕様は日本工業規格(JIS)などに準拠しており、そこで定められた仕様は日本国内で作られる材料の仕様が基準となるのは当然のことでしょう。

海外メーカーが、材料を日本市場に売り込みたいのなら、日本の仕様にあわせた材料を作ればよいわけですが、そんな面倒なことはしたくない。じゃ、米国やカナダなど海外仕様のまま日本で売れるようにしよう、と日本に圧力をかけてきたわけです。米国では認められていた木造3階建てが日本で解禁されたのも、米国で生産された住宅をそのまま輸入して建てられるようになったのも、そうした流れがあったのです。

性能規定による規制緩和の目的はコスト削減

建設・住宅分野での一連の規制緩和を、個別案件ごとに承認していたのではとても追いつかないので、基盤となる建築基準法を抜本的に見直すことにしたわけです。この時の見直しの考え方は、従来の建築行政そのものを大転換するものでした。これまでは『仕様規定』によって箸の上げ下げまで行政が細かく指導してきたものを、建築主の裁量に任せる『性能規定』へと転換することを決断したのです。

『性能規定』とは、文字通り「性能さえ満足していれば良い」という考え方です。従来であれば「25ミリの鉄筋を10本入れる」という具合に建築基準法で「仕様」を決めることで耐震強度を確保していたわけですが、同等の性能を鉄筋6本で実現できることを証明できれば基準をクリアしていると認めるわけです。

もちろん、性能を証明するには、高度で複雑な構造計算が必要になります。建築基準法には、引き続き従来の仕様規定も残されており、緻密な構造計算への対応が難しければ、仕様規定に基づいた設計も可能ですが、それでは建築コストを下げることはできない。

しかし、構造計算にコストをかけすぎれば経費が増えて、性能規定によるコスト削減のメリットが薄れてしまう。結果的に、姉歯元建築士のように、安いコストの仕事をできるだけ多く引き受けようと、無謀な構造計算を続ける技術者が現れたと言えるかもしれません。

建築基準法の改正案が国会に提出された98年3月に、当時、建設省記者クラブに在籍していた私が書いた記事がデータとして残っていたので、少々長いですが、その当時のままで(数字などは読みやすいようにアラビア数字に変更)で掲載します。

この記事を読んでどう思われるでしょうか。国土交通省や建築業界、不動産業界がこの問題に真剣に取り組んできたといえるでしょうか。

[98年3月16日執筆・日本工業新聞(現・フジサンケイビジネスアイ)掲載]

“ザル法”との評価も聞かれた建築基準法が50年振りに抜本的に改正される。建物に対する規制が大幅に緩和されると同時に、建物の品質確保では所有者の自己責任が求められる。違法建築、欠陥住宅などの問題が解決され、優良な建築ストックを整備していく基盤となるのか。わが国の建築文化そのものの変革を迫ることになりそうだ。

「法改正の考え方を含めて社会に定着させるためには20年間ぐらいかかると覚悟している」(建設省住宅局)。
 建築は、金融と並んで最も規制緩和が遅れていた分野だ。法律が建物の品質や安全性を確保するという考えから、建物の細部の寸法や材料までも規定し、その範囲内で設計・施工することが求められてきた。

国が定めた通りに建てるという“建前”があるため、手抜き工事などを排除する仕組みも十分に整備されていなかった。施工前の計画段階では、全ての建築物を行政が書類審査(建築確認)しているが、その通りに建てられたかどうかを検査する仕組みが不十分だった。

法務省でも施工完了検査を受けなくても建物の登記を認めており、完了検査の実施率が35―40%に止まっている一因となっている。国が建築物を規制すればするほど、建物に対する社会の関心を稀薄にし、欠陥住宅など様々な問題の責任を曖昧にしてきたとも言える。

今回の改正は、従来の基本的な考え方を180度転換。建築の自由度を大幅に認める代わりに、新たに創設する様々な仕組みを使って建築主は品質や安全性を確保する努力が求められることになる。「規制緩和と自己責任」という図式が建築の世界にも導入されるわけだ。

高品質で安全な住宅を入手したければ、建築主自らが米国のように20万円程度の追加費用を払って、民間を含めた認定検査員を雇い、施工状況を検査するか、中古住宅なら行政が今後整備する検査履歴台帳を確認することが必要になる。逆に、建築主側がそうした努力を怠った場合は、建物に欠陥が発生しても建築主の責任も生じる可能性は高い。

一生に1―2度ぐらいしか経験しない住宅取得で、こうした仕組みを消費者がどこまで活用できるのか。性能規定によって設計の自由度が増し新技術が積極的に導入されれば、素人では設計・施工をチェックすることがますます難しくなる。それだけに、建設会社側の手抜きも巧妙化し、欠陥が悪質化、増大することを懸念する声があるのも事実だ。

建設省が法改正の定着に20年かかると言うのは、消費者保護とその教育に最も時間がかかるためだろう。厳しい消費者の目が、日本の建築文化を向上させ、良質な建築ストックを増大させる。そうした観点に立って、行政は不適格業者を排除する仕組みなど消費者を支援するための基盤整備を引き続き進めていくことが求められている。(了)


「耐震偽装問題を考える(3)」