建設業界は、企業再編とは全く無縁な業界だった。大手ゼネコンと言っても、工事現場の集合体に過ぎず、個人工務店の延長線上にある程度の会社ばかりと言うのなら、それも致し方ない。しかし、昔ながらの地縁・血縁に頼った「御用聞き営業」で大手が生き残るのは困難であり、より戦略的な経営が求められる時代となっている。ゼネコン再編がいよいよ間近に迫ってきているのではないだろうか。
建設業界に競争原理を持ち込んだ93年のゼネコン汚職事件

 建設業界の再編は、国土交通省の建設産業政策研究会の席でみずほコーポレート銀行の山本茂常務執行役員が指摘したように、これまでは不良債権処理に伴うものばかりで、業界地図を大きく塗り替えるような再編は起こらなかった。

 戦後、日本経済が成長を続けるなかで、建設業者数は右肩上がりで増え続け、97年の東海興業の経営破たんが上場ゼネコン初の倒産と話題になったほどである。それも原因は不良債権問題で、技術力や営業力によって優勝劣敗となったわけではない。

 「ゼネコンが合併してもメリットがない」と、建設業界では言われ続けてきたことも、建設受注の多くは「談合」や地縁・血縁による「特命受注」に支えられてきたからなのだろう。建設業界には「競争原理」が全く働いていなかったと言っても過言ではない状況が続いてきたのである。

 そんな建設業界に「競争原理」が最初に持ち込まれるきっかけとなったのは、93年のゼネコン汚職事件だったのではないか。それ以前から談合に対する批判はあったと聞くが、広く世間一般に建設業界の談合体質が知れ渡ったのはこの事件の影響が大きかったと言えるだろう。

 その前段階として、90年の日米構造協議では、米国政府から公共投資による内需拡大と公共工事への外資参入が求められていた。公共投資は10年間で420兆円という目標が設定され、政府建設投資はその後2000年まで30兆円を上回る投資が続けられてきたが、外資参入問題は進展しなかった。

 そこにタイミング良くゼネコン汚職事件が発覚したのである。94年には世界貿易機構(WTO)の前身であるGATTが定めた政府調達協定に基づいて、国の工事は7億2000万円以上、地方の工事では24億1000万円以上で一般競争入札制度が導入されることになった。さらに建築分野でも、建設資材の相互認証制度による建材輸入の拡大、建築基準法も仕様規定から性能規定への転換を図るなど規制緩和への取り組みが始まった。


再編第一幕は法的・私的整理が中心

 97年の東海興業の経営破たんに始まるゼネコン危機は、不良債権問題が原因ではあったが、それによってゼネコンの「選別化」が進みだしたという点で、競争原理が働き始めたとの見方ができる。ただ、建設市場の4割以上を占める公共事業マーケットでは、2000年の中尾栄一元建設相の贈収賄事件、02年の業際事件が相次ぎ発覚して、入札制度改革も十分に浸透していない状況だった。

 ゼネコン再編・淘汰の第一幕は、法的・私的整理が中心。上場ゼネコンで再編に至ったケース(更正会社の救済合併は除く)は、2000年の高松建設による小松建設工業の買収(02年に青木建設も買収して青木あすなろ建設を設立。現・グリーンウッドアライアンス(GWA)グループ)、01年の日東大都工業による三井不動産建設の買収(現・みらい建設グループ)、02年の三井建設と住友建設の提携(03年に合併して現・三井住友建設)など限られたものとなった。

 本来、企業再編は、将来に向けた明確なビジョンと戦略がなければ実現しないものである。一度は話し合いのテーブルに着いたものの実現に至らなかった熊谷組と飛島建設の経営統合は、やはり債務免除を得るだけの打算的なものだったのではあるまいか。他のゼネコンにしても、将来に向けたビジョンを描くまでには至らなかったのだろう。

 結果的に、ゼネコン危機を経て、鹿島、大成建設、清水建設、大林組に竹中工務店を加えた大手5社体制が、揺ぎ無いものになっただけという印象もある。5社を脅かす存在だった熊谷組などの準大手は大きく企業規模を縮小。優良準大手の戸田建設、前田建設工業、西松建設の3社との企業格差も拡大してきた。このままでは大手5社と準大手以下で二極化がますます進むのは避けられない情勢だ。

 もし99年から技術提携関係にある戸田と西松との経営統合が実現したとしても、合計売上高は1兆円に達せず、大手5社に対抗するのは苦しいところ。一方で、大手5社は事業規模も拮抗しており、均衡が取れている。同族経営企業も多いことから、大手ゼネコンを巻き込んだ業界再編が起こるとは、建設業界を知れば知るほど考えにくいかもしれない。


ゼネコン再編第二幕が本格化するのは2010年頃か?

 本当に、大手5社体制は、これから先も安泰なのか―。建設業においても、他の業界と同様に「再編エネルギー」が蓄積されて、かなりの水準に来ているはずである。市場規模が急速に縮小するなかで、大手を含めて建設許可業者数はほとんど変わっていない。再編第一幕で準大手以下の再編・淘汰が進んだことで、「次は地方」との声も聞かれるが、大手も過剰供給構造が解消されたとは言い難い状況ではないのか。

 業界再編を促したものが、自動車が「国際化」、金融業は「規制緩和」、いずれにしても「市場競争」であった。では、建設業で金融ビックバンに相当する事象が、まだ起きてはいないのか。いや、建設業界でも、2006年には「改正独占禁止法」が施行され、耐震強度偽装事件をきっかけに「建築基準法改正」も始まっている。これでも建設市場に競争原理が働かないようであれば、事態はますます深刻である。

 数字の偶然と言われればそれまでだが、金融業と建設業の間に奇妙な関係があることに気が付いた。こと、業界再編に関しては金融業の『10年』遅れで、建設業が動いているのではないか、という仮説である。

 金融再編第一幕のキッカケとなった「金融の自由化」が始まったのは1983年。その10年後の93年に建設業を揺るがしたゼネコン汚職事件が発覚した。金融再編第一幕最初の合併である太陽神戸三井銀行が誕生したのは90年。その10年後の2000年には高松建設による小松建設工業の買収と、私的整理の山場だった熊谷組の債務免除が実施された。

 さらに、金融再編第二幕の端緒を96年の金融ビックバンだとすると、その10年後の06年は、大手ゼネコンが談合決別宣言までした改正独禁法が施行された年。ここまではほぼ10年遅れが当てはまる。

 もし、ゼネコン再編第二幕も10年遅れで始まるとすると、みずほフィナンシャルグループが誕生した2000年の10年後、つまり2010年頃に建設業界でも大型再編が起こることになる。ちょうど団塊世代の大量定年退職がほぼ終わり、建設市場の先行き不透明感が増す一方で、建設技術者・技能者不足問題が深刻化し始める時期である。

 ただ、金融再編のときは、政府による公的資金注入もあって再編を後押しする強力な施策が実施されていた。建設の場合、談合決別がどこまで進むのかが未知数であり、今後2〜3年で大手5社が再編に動き出す理由が何になるかを現時点で予想するのも難しい。そうは言っても、日産がルノーの資本を受け入れることも、さくら銀行(三井)と住友銀行が合併することも、実際に再編が実現するまでは誰も予想しなかったのではないだろうか。

 これまで高かった公共工事の利益率が一段と低下し、下請け叩きも通用しなくなって、大手ゼネコンの収益力が悪化すれば、海外事業を拡大するにしても、入札ボンドが導入された公共工事やPFI事業、大規模開発事業などを手がけるにしても、保証枠などの問題で制約が高まる可能性がある。優秀な技術者・技能者不足もこれから一段と深刻化し、いくらIT化を積極的に進めても収益確保が難しくなるかもしれない。それによって大手5社の均衡が崩れる可能性もあるだろう。


大手+準大手で3グループ程度に集約されるとすれば…

 本当なら、ここで原稿を止めるのが無難なところなのだが、昔から余計なことを書く悪い性癖がある。別に図に乗っているわけではないが、ここから先は、全くの独断・偏見で勝手なことを書くのをお許し願いたい。

 ゼネコン再編がもし実現するのなら、最終的には5社体制+準大手が、3グループ程度に集約されるのではないだろうか。理由は単純で、金融グループがりそなを除けば大手3グループに集約されたからである。

 金融グループ別に大手と準大手を整理すると、みずほ系が大成建設、清水建設、前田建設、西松建設の4社、三井住友系は鹿島1社、三菱東京UFJ系は大林組、竹中工務店、戸田建設の3社ということになる。

 ただ、大林と竹中は長年、竹林戦争を争ってきた間柄で、経営統合は考えにくい面がある。大林組はむしろ同じ鉄道系が強い鹿島との相性の方が良いのではないか?同様に前田も鹿島に近い印象がある。戸田の戸田守二元社長が、日本土木工業会会長だったときに、副会長を竹中土木の長沢元会長、西松の金山元社長で固めていた。

 そんなこんなで組み合わせを考えるのなら、みずほ系は大成建設と清水建設の2社、三井住友系は鹿島、大林組の2社に、前田が加わるかも。三菱東京UFJ系は、竹中、戸田と業務提携関係にある西松の3社。この3グループであれば、企業規模もほぼ同じ。もちろん、業界トップを取ろうとする経営者がいれば、違う組み合わせを考えるだろうが…。
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