「ゼネコンが合併してもメリットがない」―散々、そう言い続けてきたゼネコン業界でも、さすがに業界再編に否定的な声は少なくなってきた。97年に始まった不良債権問題をきっかけとしたゼネコン危機では、金融機関主導での再編・淘汰が進められてきた。それもほぼ一段落した感はあるが、これでゼネコン再編が終わったとは誰も考えてはいないだろう。果たしてゼネコン再編・淘汰の第二幕は、いつ、誰が(何が)引き金を引くことになるのだろうか?

株価が割安なゼネコンに注目が集まる

 国土交通省が昨年(2006年)6月に立ち上げた建設産業政策研究会の第11回会合(3月30日)で、ようやく研究会の本題とも言える業界再編の話題が取り上げられた。最初に国交省から業界再編の動きを総括したあとで、モルガンスタンレー証券の高木敦マネージングディレクターと、みずほコーポレート銀行の山本茂常務執行役員がそれぞれの視点から建設業界の再編について意見を述べた。

 証券アナリストの高木氏は、株価や財務データに基づいた建設業界の分析を披露。なかでも興味深かったのは、現預金や土地などの保有資産と対比して時価総額が低い「割安なゼネコン」のランキング。第1位が錢高組、以下、土屋ホーム、松井建設、淺沼組、神田通信機、金下建設と続き、10位に戸田建設が入っている。

 第1位の錢高組の場合、現預金+投資有価証券に土地を加え、そこから有利子負債を引いた保有資産が570億円であるのに対して時価総額は230億円と40%にしか満たない。かつてバブル期にもミサワホームが保有している土地に目をつけて上場企業を買収したケースがあったし、最近では村上ファンドが阪神電鉄株を買い占めたのも、狙いは保有資産だという見方があった。割安な上場企業が狙われる可能性は、ゼネコンであっても十分に考えられる話ではある。

 もうひとつ面白い分析が、最大手ゼネコン4社(鹿島、大成建設、清水建設、大林組)と、空調工事大手4社(高砂熱学工業、三機工業、大氣社、ダイダン)の営業利益率の推移を比較したグラフ。かつては元請けのゼネコンと、下請けの空調工事の営業利益率はほぼパラレルに推移していたが、97年を境に大きく乖離。下請け叩きが常態化して、元請と下請の間の適正な利益配分機能が働かなっている実態を浮き彫りにした。


法的・私的整理では対応が難しい再編第二幕

 みずほコーポレート銀行の山本氏は、ゼネコンの再編・淘汰を主導してきた金融機関の立場で意見を述べた。

 これまでの再編・淘汰は主に不良債権という「ストック問題」だったため、法的・私的整理も選択肢となりえたが、今後は過剰供給構造をどうするのかという「フロー問題」がメーンであり、従来の法的・私的整理では解決しえないとの認識を示した。金融機関や国交省に言われて構造改革に取り組むというのではなく、建設会社それぞれが自らの意思で変革していくしか、問題解決の道はないということである。

 研究会は、両氏の意見陳述のあと自由討議となった。委員には”割安なゼネコン”4位となった淺沼組の浅沼健一社長もいて、隣に座っていた大成建設の荒井康博常務執行役員をチラッと見てから「もし淺沼組が大成建設さんの傘下に入ったとしたら、技術者がモチベーションを維持するのは難しいだろう」と発言。淺沼組の技術者はそうかもしれないが、それが他のゼネコンにも同様に当てはまる話なのか。研究会は個別企業の話をする場ではないはずだが、思わず本音が出てしまったのかもしれない。

 さらに討論の後半では「企業再編も、地方ゼネコン・地場業者をどうするのかが問題」との意見が続出。高木氏、山本氏がテーマとした上場ゼネコンなど大手の話が、地方・地場の話に摩り替ってしまった印象があった。

 研究会のあと、国交省総合政策局建設業課の長谷川周夫建設業構造改善対策官に「なんだか、地方の話になってしまいましたね」と聞くと、「大手の方が差し迫った問題だと思うんだけどねえ」と一言。業界内はまだまだ温度差があるのは確かではあるが、再編第二幕に向けて建設業界を取り巻く環境が変わってきているのは確かだろう。


生産性向上にはITの積極的導入が不可欠

 建設産業の構造問題が「過剰供給構造=生産性の低迷」に起因しているのであれば、まず取り組むべき課題は「徹底したIT化」であると考えられる。

 次回の研究会でもIT化と生産性の問題が主テーマとして取り上げられる予定だが、他の産業を見ても製造業、非製造業ともに生産性向上にIT化が大きく寄与しているのは間違いない。

 本来、建設生産で最も重要なのは「段取り」である。今風に言えば「プロジェクトマネージメント(PM)」や「コンストラクションマネージメント(CM=施工管理)」のこと。「段取りが良い」監督がいる現場は品質はもちろん生産性も高いが、「段取りが悪い」と手戻りばかりで、生産性も落ちる。この部分の格差が実は非常に大きいことが、あまり表立って議論されていないのが不思議なぐらいである。

 建設分野にITが導入されるときに私自身が最も期待したのはPM、CMの部分がIT化によって大きく効率が改善することだった。長年の経験や勘を頼りにしてきた「段取り」の部分がIT化をきっかけに体系化されていけば、「建設業ほどIT化の恩恵を受ける業界はない」とすら考えていた。

 建設業界でも、国交省がCALS/EC(公共工事総合情報支援システム)で電子入札や電子納品を導入してきたし、建設EDI標準のCI−NETを策定して普及を促進してきた。

 しかし、以前のコラムにも書いたように、CALS/ECについては役人自身にIT化による生産性向上の意識が欠如していたこと、遅れた業者に合わせてIT普及を図る「護送船団方式」であったために、スタートから10年経っても、いまだに部分的な使われ方しかしていないのが実情だ(建設業が雇用の受け皿となってきたために、IT化が遅れたという理屈もあるかもしれないが…)。

 91年に開発がスタートしたCI-NETでも登録業者数がいまだに8000社程度に止まっている状況である。

 「護送船団方式」の代名詞と言えば金融業界だったはずだが、いまやIT投資にどこまで耐えられるかが生き残りの条件となりつつある。IT投資を賄い切れなくなった地方銀行の間では情報システムを共同開発する動きが急速に広がる一方、インターネットバンキング、電子マネー、ケイタイクレジットなどの新しいサービスも次々に導入されて、外資系や異業種の参入も活発化している。競争から脱落すれば、金融機関でも容赦なく淘汰されていく時代となった。

 建設業界においても、国交省が自らIT化を推進することに力を注ぐよりも、建設業者のIT化を加速するための環境を整備することである。IT化のための技術標準を整備するとともに、IT化に適した業務フローの見直しも行っていく必要があるだろうし、ITを駆使することで全く新しい制度や仕組みを導入することも可能なはずだ。

 どの産業であっても、経済社会の新しい動きに対応できずに競争力を失えば淘汰される企業が出るのは当然のこと。建設業界だけが例外ではあり得ない。
つづく

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