【不動産】「利便性重視」からの転換で変わる?「不動産価格」(2020-07-01:リベラルタイム8月号)

 新型コロナウイルスによって、収益悪化が予想される不動産業界。テレワークを始めとした生活様式の変化で、首都圏の住宅需要は低下するのか?消費落ち込みが長期化すれば、不動産価格の急落も視野に入る。

迫られる都市の構造改革

 世界中の都市から人が消えた。都市は三密(密閉、密集、密接)が常態化した空間であり、都市において「三密」を回避しようとすれば、人は自らを隔離するしかない。新型コロナウイルスは都市が抱える感染症リスクを顕在化させると同時に、日本社会ではハンコ問題やオンライン教育などデジタル化の遅れが浮き彫りになった。

 すでに10年前からインターネット、スマートフォン、クラウドコンピューティングなど自宅などでテレワークできる情報通信基盤は整いつつあった。働き方改革が叫ばれ始めた2年前、筆者は「テレワークを本格導入するとオフィススペースを半減できる」と記事に書いたが、日本企業の多くは満員電車に揺られて都心部のオフィスで働くワークススタイルを変えようとしなかった。

 政府の緊急事態宣言によって否応なしにテレワーク導入が進んだことで、日本がデジタルテクノロジーの利活用で遅れていたことを自覚した企業は多いだろう。ハンコなどの紙業務の削減を進めれば、生産性向上とコスト削減が進むと認識したはずだ。コロナによって経済活動が停滞し、不動産市場に深刻な影響を及ぼすのは確実だ。それ以上に都市構造を抜本的に見直す転機となる可能性がある。

当面は7割経済

 毎年4、5月に行われる上場企業の3月期決算の記者会見を、今年は三井不動産、三菱地所、住友不動産の大手3社が中止した。他業界ではWEB会見で対応する企業も多かったが、コロナの影響が出る今期予想について記者会見で質問攻めされるのを避けたかったのだろう。

 不動産大手は、2000年代以降に積極的に都市戦略を展開してきた。大規模なオフィスビルの開発に加えて都市の賑わいを広げるために商業店舗を増やし、海外からのインバウンド需要を取り込むために宿泊施設を新設するなどに投資を拡大。「都心居住」をキーワードにタワーマンション建設も活発化させた。

 しかし、コロナによって商業店舗は休業に追い込まれ、ホテルの稼働率は大きく低下。今期予想の営業利益は軒並み2ケタ減で、東急不動産では4割近い減益を見込んでいる。マンション販売もモデルルームの閉鎖を余儀なくなれ、不動産経済研究所によると首都圏の発売戸数は3月が前年同月比35.8%減、4月は51.7%減と落ち込んだ。

 しかし、電話取材には「コロナで消費者の動きは止まっているが、先行き住宅需要がなくなるわけではない」「オフィス需要への影響もすぐには出ない。むしろソーシャルディスタンスを確保するため広いオフィスが必要になる」「進行中の開発プロジェクトに影響はない」などの答えが返ってくる。

 過去の景気後退局面を振り返ると、不動産市場にも様々な影響が出た。1991年のバブル崩壊では、平均6000万円を超えていた首都圏の新築マンション価格が不動産会社の損切りで92年に4000万円台に急落。結果的に第6次マンションブームが到来したが、10年近く不良債権処理に苦しんだ。

 2008年のリーマンショック後は、世界規模の金融収縮で新興デベロッパーの経営破綻が相次ぎマンション価格も下落したが、同時に首都圏の供給量が半減。個人消費が底堅く推移していたためマンション価格は短期間で持ち直し、その後も上昇が続き、バブル期に迫る高値となった。

 今回のコロナ不況でも不動産業界ではリーマンショック後のシナリオを期待しているだろう。首都圏のマンション施工シェア約4割を占める長谷工コーポレーションの受注額は2018年度から前年割れが続き、供給量は抑えられている。ただし、雇用不安などによる消費の落ち込みが長期化すれば、バブル崩壊後のような損切りに追い込まれる可能性もある。

 オフィス、店舗などの商業用不動産でも、リーマンショック後に積極的な投資が行われてきたが、建築床面積はほとんど増えていない。結果的にオフィスなどの空室率は低水準を維持し、商業用不動産価格指数も直近まで上昇を続けてきた。

 今3月期決算発表を見ると、上場企業の半数以上が業績予想を非公表とするなど、先行きの見通しが立たない状況にある。今後は収益悪化を食い止めるため固定費削減が進むことが予想され、「しばらくは7割経済を覚悟する必要がある」(大手不動産幹部)との声も聞かれる。

 駅近よりも安全性が優先に

 問題は、コロナが都市構造に与える影響だ。戦後の日本は資本主義経済の発達とともに都市化が進んできたが、都市政策の観点から振り返ると、前半と後半で大きな違いがある。

 1980年代前半までの約40年間は、都市への人口集中が急速に進むなかで「国土の均衡ある発展」や田中角栄首相の「日本列島改造論」などで地方経済の基盤整備に注力した時代だった。しかし、1982年に中曽根康弘首相が内需拡大を掲げて都市開発に注力し始めて以降、都市は国際競争力の基盤として投資対象となった。

 80年代の不動産バブルも「国際都市・東京に世界中から企業が集まり、オフィス不足が深刻化する」と、国土庁(現・国土交通省)が公表した「首都改造計画」の過大予測のもと投資が過熱。85年のプラザ合意後の金融緩和も加わり、不動産バブルが発生し、地価が高騰した。

 バブル崩壊後も、2001年に政府が都市再生本部を設置して都市開発を推進。都心部の容積率緩和によって、大規模なオフィス・商業施設、タワーマンションなどの集約化による収益拡大で、都心部の不動産価格ばかりが上昇してきた。

 しかし、コロナをきっかけにデジタル社会への移行が本格化すれば、ワークスタイルやライフスタイルの多様化が一気に進むだろう。これまでは通勤や生活の利便性ばかりを考えて、都心居住や駅近が最優先条件だったが、テレワークが普及し、オンライン教育、遠隔医療、電子行政なども利用できれば選択肢が広がる。

 国交省によると、洪水、土砂災害、津波などの想定区域内に建っている住宅は全体の23%、1200万世帯に達する。地球温暖化の影響で、台風や豪雨災害など自然災害が増えている現状を考えれば、駅近よりも安全性を優先する人も増えるだろう。

 バブル崩壊後、経済政策の大きな柱として進められてきた都市開発だが、果たして日本経済の成長と発展に繋がったのだろうか。コロナ後は地球環境と共生できる持続可能な都市が求められている。