【不動産】「デジタル技術」の活用で期待増の「都市開発事業」(2020-02-10:リベラルタイム3月号)

 トヨタ自動車の「コネクテッド・シティ」がいま不動産業界で注目を集めている。あらゆるモノやサービスがネットワークでつながる実証都市。2020年代「建設・不動産業界」飛躍の鍵が「デジタル化」への対応だ。

トヨタへの熱視線

  2020年1月7日、米ラスベガスで開幕した世界最大のデジタル技術見本市「CES2020」で、トヨタ自動車と積水ハウスが都市と住宅の新しい構想を発表した。トヨタ自動車は、あらゆるモノやサービスがつながる実証都市「コネクテッド・シティ」を東富士(静岡県裾野市)に2021年初頭から着工。積水ハウスは、住宅に設置した非接触型センサーで居住者の異変を検知して救急活動を行う「在宅時緊急性疾患早期対応ネットワークHED-Net」を2020年に構築し、社会実装を開始する。

  翌日の1月8日、東京・虎ノ門で昨年9月にオープンしたばかりのホテルオークラ東京で、不動産協会と不動産流通経営協会の新年賀詞交歓会が開催された。広い宴会場を埋め尽くした不動産業界関係者からはトヨタのコネクテッド・シティに強い関心が示された。

  「東富士に行くのなら、東京・羽田空港よりも富士山静岡空港から行く方が近い。上手く連携できれば面白いだろう」とは、三菱地所の吉田淳一社長。18年4月に空港事業部を立ち上げ、これまでに高松空港、沖縄のみやこ下地島空港ターミナル、富士山静岡空港で空港運営事業を開始し、昨年7月に北海道7空港民営化の優先交渉権を獲得した企業連合にも参画している。

  「トヨタさんが東富士に実際の都市をつくるかどうかは分からないが、われわれの最大の関心事も10年後の社会がどう変わっているか。デジタルテクノロジーによって都市をどうインスパイアしていくかばかりを考えている」とは、三井不動産の北原義一副社長。「将来的は社名から『不動産』が無くなっても構わない」と公言する。

業界の現状と課題

 2010年代の建設・不動産業は、アベノミクスの恩恵を最大限に受けて順調な市場拡大を続けてきた。08年のリーマンショック後の10年度には42兆円規模にまで縮小した名目建設投資額は2019年度には62兆円を超える見通しだ(国土交通省)。増加分のうち、2015年度からリフォーム・リニューアル工事分7.5兆円が上乗せさたので、実質増加分は12.5兆円だが、それでも投資額は約3割増加した。

 J-REIT(不動産投資信託)の時価総額も2010年は3兆円規模だったが、安倍政権発足後、日本銀行によるJ-REIT買い入れもあって2019年に17兆円を突破。公示地価(全国)も2008年のリーマンショックで前年比伸び率がマイナスに転じたが、2015年から4年連続でプラスが続いている。

 とくに発注者からの建設コスト引き下げ要求に苦しんできた建設業は、オリンピック・パラリンピック特需を含めた建設投資の急回復で建設技能労働者の人手不足問題が一気に顕在化したことで建設コストの引き上げに成功。その結果、大手を中心に収益率が大幅に改善した。

 しかし、安倍政権によるアベノミクスがいつまで続くかは分からない。東京を中心とした都市開発事業は、東京オリンピック・パラリンピック後も5年分のストックがあると言われるが、計画通りに実施されるかどうかは先行きの経済状況次第だ。

 2020年以降に、昭和39年(1964年)の東京オリンピック後に訪れた“40年不況”の再来を懸念する声がある。この時は1972年の第一次石油ショックまで続いた高度経済成長期に、建設投資額のうち工場やオフィスなどの非住宅投資が一時的に前年比マイナスに落ち込んだだけ。住宅投資は20%増、土木投資も16%増で、全体では9%増と2ケタ近い伸びだった。

 今後の10年は、急激な人口減少と高齢化が進む時代。一時的な反動減を心配しても意味がない。まず予想されるのが、建設投資の約3割を占める住宅投資の減少だ。すでに2019年の首都圏新築マンション供給戸数(不動産経済研究所予測)は前年比15.7%減の3万1300戸と落ち込み、賃貸住宅の投資もサブリース問題が表面化し先行き不透明だ。

 老朽化インフラ対策で増加が期待される土木投資も、民主党政権時代に比べれば増えたものの、年間20兆円前後で推移。国や地方の財政事情を考えれば今後も大きな増額は期待できないだろう。

 さらに建設投資の制約要因となるのは労働者不足の問題だ。建設技能労働者数は2018年で約330万人だが、うち60歳以上が4分の1を占め、今後10年で大半がリタイアすると予想されている。とくに地方で技能者不足が深刻化しており、外国人特定技能者の受け入れ確保も進んでいない。

「デジタル化」で快適な都市へ

 2020年代も建設・不動産業で期待できる分野が都市開発事業だろう。5年分のストックを含めて都市開発事業を確実に進めていくには、冒頭に述べたように都市のデジタル化が不可欠との認識が一気に高まっている。

 例えばネットショッピングの拡大に合わせて物流施設の建設が活発化しているが、箱モノだけを作っても物流全体が増えるわけではない。物流全体の効率化に向けて物流情報プラットフォームを構築しようと、大和ハウス工業、三井不動産、トラック最大手の日野自動車などが昨年9月に連携。デジタル技術を都市にどのように実装していくかが重要なテーマ。今回、積水ハウスが発表した「HED-Net」も、人生100年時代を見据えた健康情報プラットフォームと言える。

 とくに注目されているのが、都市における交通、物流、行政サービスなど様々なサービスを連携して都市全体を効率的に運営するための「都市OS(オペレーティングシステム=基本ソフト)」の開発だ。トヨタも、コネクテッド・シティの発表のなかで都市のインフラとなる都市OSの開発を進めると表明した。

 世界の都市間競争が今後、激しくなると予想される中で、日本の都市に外国人観光客を含めてインバウンド需要を引き寄せるには、いかに魅力的で快適な都市環境を構築できるかがますます重要になるだろう。それを実現するには、単なる箱モノを提供するだけではダメで、積極的にデジタル技術を活用してカスタマーエクスペリエンスを向上させる空間サービスを生み出せるかどうかにかかっている。

 もともと建設・不動産業は、デジタル技術の活用では最も遅れた業界の一つと言われてきた。これからの10年は、時代の大きな変革に対応できるかどうかで企業の浮き沈みが分かれることになる。