日本不動産ジャーナリスト会議(代表幹事・阿部和義氏)が2019年9月に創立30周年の迎えたのを記念して発刊した記念誌に掲載した記事を転載する。24人の会員から原稿が集まってみると、デジタル革命を題材にした原稿が一本もなかった。さすがに今後の不動産・住宅産業への提言を発信しようと企画した記念誌としては「まずいだろう」と判断して勝手に追加した記事だ。

Society5.0は実現できるのか?(千葉利宏)

 わが国の成長戦略として政府は「Society5.0」「データ駆動型社会」の実現を打ち出した。1984年に日本工業新聞社に入社して以来、半導体やコンピューターなどIT(情報技術)分野を取材してきた記者としては今回も間違いなく失敗すると確信している。35年間も死屍累々の失敗を見せ付けられれば、そう考えざるを得ない。

 1985〜90年の6年間、IT担当記者時代に筆者が最重要テーマとして取材したのは「標準化」と「セキュリティ」である。情報=デジタルデータをグローバルネットワークを通じて流通・活用するためには標準化とセキュリティが不可欠と考えたからだ。

 しかし、その基盤技術は欧米勢に主導権を握られ、ソフトウェア生産工業化を目指した国のシグマ計画(85〜90年)は見事に失敗。90年代に入ってインターネットとWindows95が登場すると、日本のコンピューター・半導体産業は国際競争力を失っていった。

 2000年に新聞社を退社した後、01年にIT国家戦略「e-Japan戦略」がスタートした。この時もソフトバンクの孫正義氏が思い切った通信モデム無償配布と低価格戦略を展開してブロードバンド網の普及が一気に進んだ以外は、電子政府構築計画などの重要プロジェクトはことごとく失敗に終わった。

 米オバマ政権が誕生した2009年、欧米ではIoT(Internet of Things)やAI(人工知能)などでスマートシティやスマートファクトリーに取り組む動きが始まり、経産省でも「2050研究会」を立ち上げ、スマート社会の実現に向けた議論に着手した。しかし、スマートグリッド(賢い電力網)の導入を警戒する電力業界などからの圧力で報告書は握り潰され、日本は世界の潮流に乗り遅れた。

 なぜ日本はIT分野で失敗を繰り返すのか。無謬主義の役所、既得権益優先の大手企業ともに過去の失敗を徹底的に検証せず、誰も責任を取らないからだ。既存の産業構造やビジネスモデルを叩き壊すぐらいの覚悟がなければ、Society5.0を実現できるはずがない。その覚悟が果たして今の日本にあるだろうか。

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